国立競技場を自分の足で歩きたい 難病少女が夢をかなえるまで

国立競技場を歩く結華さん=1月、瀬川泰祐さん撮影

 「国立競技場を自分で歩く」-。難病のため歩けないと幼少時に診断された栃木県立のざわ特別支援学校4年上田結華(うえだゆいか)さん(9)=宇都宮市=が1月、大きな夢をかなえた。二人三脚でリハビリを続けてきた母恵(めぐみ)さん(32)は「諦めなければ未来は変わる。結華の成長を見て、障害のある子を持つ親が前を向くきっかけになってほしい」と振り返った。2人はこの春、新たな目標を掲げ一歩を踏み出した。

 結華さんに異変が現れたのは生後1カ月健診の前日。「上を向いてがたがた震え出した」。入退院を繰り返し、2年半後、STXBP1遺伝子の突然変異によるてんかんと発達の遅れが分かった。医師からは「日本で20人ほどしか症例がない。歩けるようになった子はいない」と説明された。

 「結華が普通に大きくなって、一緒に走り回る」。そんな未来を想像していた恵さんが、現実を受け入れるまでには時間がかかった。それでも「今できることは全部やりたい」。多い時には週3回のリハビリや療育、歩行練習をこなした。嫌な顔一つせず笑顔で取り組む結華さん。5歳11カ月の冬、初めて1人で数歩足を踏み出すことができた。

 転機は東京五輪を控えた2020年、一般社団法人You-Do協会が主催するオンラインイベントへの参加。障害のある子どもとアスリートをつなげ、夢を共有する場で2人は、国立競技場を自分の力で歩くことを目標に掲げた。

 長年、リハビリを担当するうつのみや訪問看護リハビリステーションにこっとの理学療法士吉村友佑(よしむらゆうすけ)さん(36)によると、結華さんは筋力やバランス感覚が順調に成長する一方、1人で歩き出すのを怖がり、人の手を頼りにしがちだった。それがこの頃から「外への興味関心が高まり、自分で歩こうとする気持ちが強くなってきた」。

 「今ならできる」。自信を持ち始めた昨年末、吉報が舞い込んだ。イベントに参加していた元ラグビー日本代表選手大野均(おおのひとし)さんの働き掛けで1月、国立競技場に立つ機会が訪れた。

 結華さんは当日、車いすから離れると一歩一歩、思いのままに歩みを進め、目を輝かせた。恵さんはうれしさや感動が込み上げ、目頭が熱くなった。「歩けるようになると信じなければこの絵(景色)は見られなかった。頑張ってきたことに間違いはなかった」。

 結華さんは以降、平坦な道では自ら歩こうとするようになった。「甲子園の始球式に登板する」。新たな目標を掲げ、ボールを投げる練習にも精を出す。

 恵さんは事務職を退職し、介護福祉士の専門学校に入学。これまで支えくれた人に感謝の思いを抱きながら「大変なことはたくさんあるけど、助けてくれた人との出会いがあって今がある。何より、結華が生まれてきてくれたことが一番の出会い。今度は同じ境遇の子たちの未来を照らしたい」と笑顔で語った。

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