連載[オミクロンの憂鬱]<上>医療介護職 世間とのギャップ痛感「切ない」 命預かる責任から自粛徹底2年

高齢者の移動を介助する福祉施設の職員。感染防止のため、外出などを制限する生活を続けている=新潟市西区の小規模多機能型居宅介護事業所「笑い愛くろさき」

 収まりを見せない新型コロナウイルスのオミクロン株。重症化しにくいため、感染対策に対する意識の差を感じている現場がある。行動制限がなくても、旅行やイベント開催にはためらいもある。感染とともに、憂鬱(ゆううつ)な思いが県内に広がっている。

 「家族が新型コロナウイルスに感染した」。18日、新潟市西区の小規模多機能型居宅介護事業所「笑い愛くろさき」に、職員から電話が入った。介護福祉士の女性(44)は施設内で感染者を出さないよう消毒など対応に追われた。

 先月は利用者が家庭内で感染した。基礎疾患があるが、軽症のため入院できず、施設内で看護した。この女性が看護を担当。自身の家族への感染を防ぐため、ホテルから通勤した。

 3月は約2週間、施設を閉鎖した。小規模多機能型の施設では、契約上、利用者は別の施設を使えない。家庭での介護が難しい利用者が多く、サービスを提供できないことが「申し訳なかった」。

 常にマスクの上からフェースガードを付ける。一つの行動ごとに手指消毒し、一日に何度も検温する。

 出かける所は、人けの少ない時間帯のスーパーだけ。大好きな旅行やライブにも行かず、スマホで動画を見る。そんな生活が2年以上、続いている。

 流行しているオミクロン株は重症化しにくく、県は「医療に負荷がかかっていない」として、一律の行動制限などは求めていない。

 知人はいろいろな所に出かけている。観光地の人出などのニュースは見たくない。「自分だけ頑張っているようで、切なくなる」

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 管理者の男性(44)は、3月に利用者の家庭内感染が分かった際、急変に備えるため、1週間、施設に泊まり込んだ。感染を家族に広げないようにするためでもあった。

 「施設にウイルスは持ち込めない」と、小4と中2の息子を新潟市外に連れ出したことがない。「一番思い出をつくれる年頃なのに。家族の大事な期間を奪われている」

 友人がディズニーランドに行った話をする息子。自分も行きたいとは言わず、我慢しているのが分かる。

 利用者の命を預かる責任があり、「仕方ないが、いつまで家族に『我慢』と言い続けられるか」。先が見えない生活がつらい。

 県内の感染者数は高い水準が続く。一方で、22日時点で重症者は1人で、病床使用率は19.0%と低い。

 経済活動を刺激するため、旅行割引「県民割」は5月末まで延長される。春の大型連休も近づき、消費喚起に期待する声も多い。

 管理者の男性は、経済を回す必要を感じながらも、「世間と自分たちの暮らし方のギャップが大きくなっているようで切ない」と漏らす。

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 医療現場も同様だ。新潟市秋葉区の下越病院に勤める検査技師の女性(57)はPCR検査で多くの患者と接するため、常に感染リスクがあり、自制した生活を続けている。しかし家族は、飲み会などに出かけていく。その姿に「感染への認識の違いを痛感する」

 男性医師(43)は子どもが感染し、濃厚接触者となったため、1週間診療に当たれなかった。周囲への迷惑を考えると、無症状でも休まざるを得ないのが「面倒くさいと思う時もある」。

 山川良一院長(68)は「感染者が減らない限り、どうやっても医師や職員が休むことは避けられない。院内で助け合っていくしかない」と話した。

(報道部・坂井有洋)

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