<書評>『国家に捏造される沖縄戦体験』 援護法の本質学び直す

 援護法のことを知ったのは、石原氏のオンライン講演会がきっかけだった。それまで「集団自決」とは、日本の軍国教育により追い詰められて殺し合った住民被害のことだと認識していた。しかし実際は、住民を軍事行動に従事した「戦闘参加者」として認定するために国が規定した用語であり、認定された犠牲者は「準軍属」として靖国神社に合祀されていること、その要となっているのが、まるで住民虐殺の「口止め料」ともとれる遺族年金の支給であることを初めて知り、当初はショックのあまり内容が頭に入らなかった。金銭で住民を分断統治するやり方は基地だけでなく戦争にも源流があったのだと思い知った。
 本書は『援護法で知る沖縄戦認識―捏造された「真実」と靖国神社合祀』(凱旋社、2016年)の新装改訂版である。改訂にあたり冒頭の「沖縄住民に適用した援護法の基礎となる知識」で、沖縄を靖国思想に絡めとってきた援護法のカラクリの要点を簡潔にまとめており、入門者にも理解しやすいようになっている。本書全体を通して石原氏は、援護法の沖縄住民への適用過程を国や社会、当事者団体、住民レベルで丹念に追い、国家がいかに沖縄戦の体験を「捏造」してきたかを記録し、真相究明の必要性を訴えている。史資料を交えながらの緻密な記述に、この問題の本質をなんとしても後世に伝えようとする執念が伝わってくる。
 付録の「戦傷病者戦没者遺族等援護法」関連年表を見ると、本書で繰り返し述べられているように、「集団自決」を殉国死と位置づけ沖縄戦を軍民一体の戦闘と再定義しようとする歴史修正主義の動きが、現在まさに琉球弧で急速に進む軍事化とセットで推し進められていることがよく分かる。
 援護法に絡めとられていった沖縄住民、適用外とされた被害者、そもそも対象にすらされなかった朝鮮半島や台湾の人々―援護法の呪縛によるさまざまな分断を乗り越えて連帯し、戦争をさせない社会を私たちは足元からつくっていかねばならない。今私たちが、本書から沖縄戦認識を学び直すべき理由の一つはここにある。
 (徳森りま・早稲田大平和学研究所招聘研究員)
 いしはら・まさいえ 1941年那覇市出身、沖縄国際大名誉教授。著書に「虐殺の島―皇軍と臣民の末路」「空白の沖縄社会史―戦果と密貿易の時代」、共著で「争点・沖縄戦の記憶」など。

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