【橋下徹研究③】上海電力、深まる謎 橋下徹の説明責任|山口敬之【永田町インサイド WEB第3回】 「大阪市の発電事業に上海電力を参入させる」という極めて重要な変更について、当時、大阪市長を務めていた橋下徹氏は市民に一切の説明をしなかった。彼は一体いつの段階で上海電力の参入計画を知ったのか。あるいは、自らが参入を促したのか。調べれば調べるほど謎は深まっていく――。

大阪取材で見えてきたもの

私のメールマガジンと「Hanadaプラス」で【橋下徹研究】を始めたこともあり、過日大阪で関係箇所を取材した。

最初に向かったのが咲洲(さきしま)メガソーラー、正式名称は「大阪市南港第一発電所」だ。

咲洲の雰囲気は東京のお台場によく似ているが、商業施設は問題の「大阪府咲洲庁舎」の周辺に集中していて、そこ以外は工場やコンテナヤードなどがほとんどだ。

メガソーラーは大阪府咲洲庁舎から電車で一駅、咲洲埠頭の北西端の広大な土地に設置されている。
広大な土地に、6000枚もの巨大なソーラーパネルが並ぶ様子は壮観だ。

消えた「日光エナジー開発」

咲洲メガソーラーを巡っては、これまでにも事業体の変遷に不審な点があると指摘してきた。もう一度、概要を整理する。

まず大阪市が2012年12月26日、メガソーラー事業のため咲洲北西端の土地を民間に貸し出した。借り受けたのが「伸和工業」と「日光エナジー開発」という日本の会社2社。大阪市のプレスリリースにもある通り、この段階では一般競争入札で伸和と日光エナジーの2社が「企業連合体」としてメガソーラー事業を受注し、予定地を月額550,001円で大阪市から借り受けた。

一方、不動産契約の9日後の2013年1月4日、「合同会社咲洲メガソーラー大阪ひかりの泉プロジェクト」(以下「合同会社咲洲メガソーラー」)という会社が伸和工業によって設立されている。この会社には、パートナー企業である日光エナジー開発は入っていない。

登記簿

上海電力が参入したからくり

その後、咲洲メガソーラーは、2012年末の発表事の発電開始予定時期(2013年夏)を過ぎても工事すら始まらなかった。

2014年3月18日、伸和工業は「『合同会社咲洲メガソーラー』が大阪市のメガソーラー事業を受注した」と発表した。そのおよそ1か月後の2014年4月「上海電力日本株式会社」が「合同会社咲洲メガソーラー」に加入(出資)する形で事業に参入した。

この時、大阪市長を務めていた橋下徹氏は、「大阪市の発電事業に中国政府の支配下にある上海電力を参入させる」という極めて重要な変更について、市民に一切の説明をしていない。2012年12月には「日本企業2社が受注した」と発表しているのだから、内容に変更があれば市民に発表し説明するべきだ。

特に、インフラの根幹である発電事業に外国企業を参入させるのだから、大阪市民のみならず日本国民にきちんと説明して、決定前にその是非を問うというのが、真っ当な市長のやり方だ。しかし橋下市長は一切説明しないどころか、「外国企業を参入させるという判断をした」という簡単な発表すらしなかった。

もし、橋下市長の知らない所で、上海電力が大阪市のメガソーラー事業に参入していたのであればそれはそれで大問題だ。もしそうなら、橋下氏はいつ上海電力の参入を知ったのか。そして知った段階で市長としてどういうアクションをしたのかが厳しく問われるべきだ。

いずれにしても、大阪市が市民や市議会に説明も発表もしないまま、上海電力の咲洲メガソーラー参入が決められことは間違いない。この騙し討ちのような外国企業のメガソーラー参画の経緯を、私は「ステルス参入」と呼んでいる。

中国企業と「国防動員法」

咲洲メガソーラーは、上海電力の日本の公共発電事業の受注第1号となった。

これ以降、上海電力は大阪市での事業実績を武器に、急速に事業を拡大、兵庫県三田市、茨城県つくば市、栃木県那須烏山で巨大なメガソーラー発電設備を完成させた。そして、上海電力は今では日本各地で巨大メガソーラー事業を展開している。全てのスタートが、大阪市のステルス参入だったのだ。

中国には2010年に成立した国防動員法という法律がある。
・中国政府が「有事」と認定すると、全国人民代表大会(全人代)常務委員会の決定の下国防動員令が発令される
・国防義務の対象者は、18歳から60歳の男性と18歳から55歳の女性
・国務院、中央軍事委員会が動員工作を指導する
・個人や組織が持つ物資や生産設備は必要に応じて徴用される
・有事の際は、交通、金融、マスコミ、医療機関は必要に応じて政府や軍が管理する。また、中国国 内に進出している外資系企業もその対象となる
・国防の義務を履行せず、また拒否する者は、罰金または、刑事責任に問われることもある

国防動員法は2021年10月の全人代で、「国防に関する動員の決定や変更について法的手続きを不要にする」と改められ、さらに柔軟な運用が可能になった。国防動員法は中国国外に住む中国人や中国企業にも適用される。

ということは、中国企業に発電事業を任せていたら、中国政府が「有事」と決めるだけで、日本社会を混乱させダメージを与える目的で、発電を止めたり、異常な電流を流して送電網を壊滅させるなど、破壊工作をする可能性が否定できない。

私は、こうしたリスクを避けるため、電力、ガス、水道などのインフラ事業には外資規制をかけるなど日本国と日本人を守るための立法措置を早急にとるべきだと考えている。そして、規制する法律がないからといって、市民に何の説明もないまま中国企業に発電を任せた橋下市長のやり方は、極めて不適切・不誠実だ。

当時の大阪市議会では、野党側から「なぜ騙し討ちのような手法で上海電力の日本参入を手引きしたのか」などという質問が出なかったのだろうか。
大阪の大手メディアも、なぜ橋下市長を追求しなかったのだろうか。

調べれば調べるほど、咲洲メガソーラーの謎は深まっていく。

上海電力、無許可工事の可能性

上海電力のステルス参入を巡ってはもう一つ、行政手続き上、重大な疑惑がある。

咲洲メガソーラーの事業は、2013年段階での受注者は「伸和工業」と「日光エナジー開発」の2社連合体。これが「合同会社咲洲メガソーラー」に移管したのが2014年3月18日。一方、上海電力が工事に着手したのが2日前の2014年3月16日。

上記の登記簿を見ると上海電力が「合同会社咲洲メガソーラー」に加入したのは4月11日であることがわかる。ということは、上海電力は4月11日までは咲洲メガソーラーとは契約上、何の関係もなかったことになる。

3月16日から4月11日まで、上海電力はどういう根拠と資格で工事をしていたのだろうか。

この謎を解明するため、私はまず「合同会社咲洲メガソーラー」の実態を調べることにした。
「合同会社咲洲メガソーラー」と「伸和工業」は、大阪市内のマンションの違う部屋で登記されている。場所はJR大阪環状線玉造駅徒歩2分のライオンズマンションだ。

地上13階建てで総戸数88戸、1985年12月竣工のマンションで、外観は日本各地にある典型的なライオンズマンション。通りから見て左側に居酒屋などが入る商業スペースの入り口があり、右側に居住部分のエントランスがある。

伸和工業の本社に行って見た

伸和工業の本社の住所は「大阪市天王寺区玉造元町2-32-203」。

伸和工業は左側の商業スペースに入っている。ただ、エントランスの看板には伸和工業の表示はなかった。日中の訪問だったためかテナントのほとんどは営業しておらず、シャッターの閉まった薄暗い廊下を進むと、ようやく「伸和工業」の看板を見つけた。

矢印に沿って薄暗い階段を上がると、2階の通路の突き当たりに伸和工業本社があった。

資本金89億円という中国国営の巨大企業「上海電力」のパートナー企業としては、かなり控えめな佇まいと言えよう。

橋下徹は説明責任を果たすべき

「合同会社咲洲メガソーラー」のほうの住所は「大阪市天王寺区玉造元町2-32-205」。

商業スペースの2階部分には「合同会社咲洲メガソーラー」は見当たらないから、居住スペースに入っているのだろうか。しかし、ライオンズマンションの居住スペースは3階から13階まで。

ところが、この居住スペースの郵便受けに、「伸和工業」と「合同会社咲洲メガソーラー」の名前を見つけた。ということは、「合同会社咲洲メガソーラ」に書類を郵送すると、この「205号室」の郵便受けに届けられることになる。

そして「合同会社咲洲メガソーラー」がパブリックスペースで独立した会社を構えていない所を見ると、「伸和工業」と「合同会社咲洲メガソーラー」は事実上一体化しているのだろう。

ここで思い出していただきたいのは、伸和工業が日光エナジー開発との2社連合体で咲洲メガソーラー事業を落札した9日後に、日光エナジー開発を入れずに「合同会社咲洲メガソーラー」を設立していたことだ。

結果として「合同会社咲洲メガソーラー」が事業を継承し、そこに上海電力が入ってきたことを考えると、伸和工業は2013年段階から日光エナジー開発ではなく上海電力と組むつもりだったのではないか。

要するに、咲洲メガソーラー事業は最初から「上海電力ありき」で動いていたのではないか。
市のインフラ事業を中国共産党の影響下にある中国企業にやらせる。こんな重要な決定は、知事や市長が関与しなければ出来まい。

橋下氏が大阪府知事と大阪市長を務めたのは以下の期間だ。
◯知事 2008年2月6日~2011年10月31日
◯市長 2011年12月19日~2015年12月18日

橋下氏は、一体いつの段階で上海電力のメガソーラー参入計画を知ったのか。
あるいは橋下氏自ら参入を促したのか。

日本の安全保障にかかわる危険なリスクを日本に持ち込んだのが大阪市で、当時の市長が橋下氏。橋下氏は様々なテレビ番組に出演してウクライナ戦争を巡って珍説を開陳するヒマがあったら、咲洲メガソーラーに上海電力が参入した経緯について、説明責任を果たすべきだ。

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山口敬之

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