【大学野球】早大・小宮山監督がエース候補の「初勝利」を喜ぶ理由 自身の姿がダブる背番号16

先発した早大・加藤孝太郎【写真:小林靖】

今季3連敗で迎えた早大が2-1で明大下す、加藤が完投でリーグ戦初勝利

東京六大学の春季リーグ戦は24日、明治神宮野球場で2試合を行った。第1試合は早大が2-1で明大に勝って1勝1敗とし、25日の3回戦に持ち込んだ。ここまで3連敗に終わっていた早大に、今季初勝利をもたらす投球を披露した加藤孝太郎投手(3年)は、終盤足をつりながらも9回107球6安打1失点(自責0)の完投。小宮山悟監督も「よく頑張った」と笑みがこぼれた。表情が緩んだ理由は投球内容だけではなく、34年前の自身と重なったのかもしれない。

中学時代から東京六大学野球に憧れた加藤は、文武両道を目指して下妻一高(茨城)へ進学。甲子園出場はならなかったが、卒業後は夢だった早大野球部入りした。小宮山監督も早慶戦に心を打たれ、2年の浪人生活を経て早大に入学したのは有名な話だ。共通点はそれだけでない。加藤は背番号16の3年生右腕。小宮山監督も早大3年生の時につけていた背番号は「16」なのだ。偶然か必然か、34年の時を経て同じ“背番号16の3年生右腕”が神宮のマウンドで躍動した。

「この試合に勝てば勝ち点がとれる。なんとか抑えようと集中しました」。ここまで3連敗中のチームに今シーズン初勝利をもたらし、勝ち点につなげようと加藤は明大打線に立ち向かった。春にかけて磨いてきたというコントロールを披露するかのように、初回から丁寧に投球し前半5回までを55球、2安打無失点。「低めのストレートでラインを出せてカウントをとれました。テンポよく投球できました」と、前日に高めのボールを捉え12安打していた明大打線を低めで打ち取っていった。

早大は2回に7番・印出太一捕手のリーグ戦初打点となる中前適時打で先制。4回には6番・松木大芽外野手(4年)の右犠飛で2-0とリードし、加藤も早稲田の仲間の援護を喜んだ。

7回に足をつるアクシデントも「ここまで来たら完投したかった」とマウンドは譲らなかった。リードする印出も「1球1球、すごく気持ちが伝わってきました」。味方の失策で1点を失い、2-1で迎えた9回にサヨナラの走者を背負った場面では、マウンドに駆け寄った小宮山監督に「大丈夫です」と続投を志願した。最後は2死一、二塁で左前打を許すも、左翼手・松木の本塁への好返球で逃げ切った。

試合後、リーグ戦初勝利を初完投で飾った右腕は「次に向けてすごく自信になりました」と爽やかな笑顔で振り返った。隣に並んだ“大先輩”小宮山監督も「コントロールがよかった。1つ勝つのに四苦八苦したが、先が見えてきた」と納得顔だ。「大命題」だった投手の柱が形になったことはもちろん、大好きな“WASEDA”のユニホームの、それも16番の活躍が特別に嬉しかったのかもしれない。(市川いずみ / Izumi Ichikawa)

市川いずみ(いちかわ・いずみ) 京都府出身のフリーアナウンサー、関西大学卒。山口朝日放送アナウンサー時代には高校野球の実況も担当し、最優秀新人賞を受賞。学生時代はソフトボールで全国大会出場の経歴を持つ。

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