東証再編が起こった新年度相場が盛り上がりに欠ける理由と今後の注目点

2022年の新年度がスタートし、1ヵ月がたとうとしています。2022年度の相場は、世界的な金融引き締めの開始、ウクライナ情勢など話題が多く、市場の変動も大きくなっています。そのような中で、日本の株式市場では4月4日から約60年ぶりの市場再編が行われました。

市場区分の変更により、企業価値の向上や日本の株式市場の魅力度の向上が期待されます。今回は、市場再編の概要と今後の展望について見ていきます。


再編により市場は3つに、課題も残る?

今回の市場再編では、これまで東証1部、東証2部、JASDAQグロース/スタンダード、マザーズ、とわかれていた市場をプライム、スタンダード、グロースの3つに再編しました。東京証券取引所によれば、これまでの市場は「各市場区分のコンセプトが曖昧であり、多くの投資者にとっての利便性が低い」「上場会社の持続的な企業価値向上の動機付けが十分にできていない」という課題を抱えており、今回はその解消を目指す取り組みとなっています。

後で触れますが、これに伴い指数の運用も変更となり、新しい指数が誕生しています。

新市場に期待が集まる一方で、最上位のプライム市場は以前の東証1部の約2,200社のうち、8割超となる1,839社が移行しており、あまり変化が感じられないという声も出ています。また社会的には、これまで「東証1部上場」はある種のステータスとして考えられていましたが、それがプライムになったことについて、あまり浸透していないようにも見受けられます。

それらの要因から、再編が行われたものの、世間的な盛り上がりには欠けている印象を受けます。

東証の資料を基に筆者作成

市場での注目度が低い要因は?

株価指数の観点からも見ていきましょう。主に誕生した指数としては、プライム、スタンダード、グロースそれぞれに紐づく指数と、スタンダード市場のうち、上位時価総額20銘柄からなる東証スタンダード市場TOP20、グロース市場のうち上位時価総額20銘柄からなる東証グロース市場Core指数です。

ところが、ニュース報道を見ると、4月以降も日経平均株価やTOPIX、マザーズ指数がフォーカスされるケースが多く見受けられます。その要因の一つとして、指数の更新頻度が考えられます。東証スタンダード市場TOP20と東証グロース市場Core指数はリアルタイムでの更新ですが、プライム、スタンダード、グロースの指数は1日に1回の更新なのです。株価指数は市場のバロメーターでもあり、場中にリアルタイムで価格がわからないとなると、ベンチマークとして扱いにくくなります。またTOPIXをはじめ、4月以降も運用が残っている指数があることから、大きな違いがない中で今まで使っていた指数が選好されやすいという状況もあるでしょう。

金融庁の金融審議会での議論を経て、1日1回の更新が決められたとのことですが、市場での注目度などを踏まえ、この後は該当指数のリアルタイムへの移行、並びに指数ごとの違いの明確化の議論が進むかに注目が集まります。

東証の資料を基に筆者作成

市場再編に伴う、2つの投資チャンス

今後はどのような動きがあるのでしょうか。個別銘柄投資のポイントとして、2つに分けて見ていきたいと思います。

まずはTOPIXの見直しです。TOPIX指数は新市場が始まった後も、以前の東証1部の銘柄が採用されていますが、2022年10月末から始まる移行期間にて、四半期ごと10段階に分かれて構成比率が逓減していき、2025年1月末に対応が完了される想定です。逓減の対象となるのは流通時価総額が100億円未満の銘柄となっています。

現状でこの対象となるのは約500銘柄あり、移行期間に入るまでに100億円を超えられるかに注目が集まります。またこの対応は四半期ごとに計10回実施されるため、市場再編前に東証1部であった銘柄が時価総額100億円を超えているかどうか、というのは今後も注視される水準の一つとなるでしょう。特にイベント投資を好む投資家の方は、この観点で銘柄選びをしても面白いかもしれません。

日本取引所グループ「株価指数の見直し」より引用

加えて、新市場区分のうちで、上場維持基準に満たず、適合計画を出している企業にも投資チャンスがありそうです。該当の企業は、プライム、スタンダード、グロースでそれぞれ、295社、209社、45社あります。まず、これらの会社は適合計画内に未達部分に対する対応策を記載しているため、企業分析をする情報として参考になるでしょう。そのうえで、あくまで適合計画は目標であり、目標に沿って達成できるかは企業次第です。決算情報と適合計画を照らし合わせ、基準に到達する可能性が高い企業を見つけてみるのは一つの有効な策となるかもしれません。

今後の動向の観点では、適合計画を出すという前例ができたことは、中長期的な施策を企業が開示することは大きな一歩と言えるでしょう。開示された適合計画を見ると、例えば流通時価総額を向上するための計画が示されており、それぞれの企業が企業価値の向上に向けて真剣に取り組む姿勢が見られます。同時に、基準に満たない場合は開示が求められ、投資家の厳しい目にさらされるということも事実です。

この点を考慮し、今後上場を考える企業もより中長期的な目線で戦略を練ってくる可能性も考えられます。まだ制度変更の初期でありますが、日本の株式市場に変化が訪れるきっかけの可能性もあるため、投資ヒントを探る意味で、市場再編に関するニュースは今後も注目するとよいでしょう。

そこまで注目度が上がっていない市場再編ではありますが、制度の変更は投資チャンスにもつながります。多くの人が気づいていないことは、裏を返せばチャンスとも捉えられるので、早いうちから戦略を立てみてはいかがでしょうか。

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