ブラックロック、2030年までに運用資産の75%が温室効果ガスの削減目標を掲げる企業や政府になると予測

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世界最大の資産運用会社ブラックロックはこのほど、運用する企業や政府関連資産の少なくとも75%が2030年までに、科学的根拠に基づく温室効果ガスの削減目標またはそれに相当する目標値を掲げる発行体に投資されるとの予測を発表した。世界の排出量削減の取り組みに大きな影響を与える可能性もある発表だが、一方で炭素集約型産業への投資を続けるなど同社が見せる脱炭素への受け身の姿勢は、ネットゼロ経済への積極的な移行のチャンスを逃す可能性もある。(翻訳=サステナブル・ブランド ジャパン編集局)

現在、ブラックロックが運用する企業や政府関連の運用資産の約25%が科学的根拠に基づく温室効果ガスの削減目標またはそれに相当する目標を掲げる発行体に投資されている。同社は、脱炭素社会への移行が進み、発行体やアセットオーナーがその先頭に立ち続ければ、2030年までに企業や政府関連の資産の少なくとも75%が科学的根拠に基づく削減目標またはそれと同等の目標を掲げる発行体に投資されると予測する。

しかし、75%という数字を実現できるかは、ブラックロックが自社のポートフォリオの中で排出量の多い企業・政府がその予測に沿う動きをするような実行計画を実施するかにかかっている。

米非営利団体セリーズ(CERES:環境に責任を持つ経済のための連合)のミンディ・ラバーCEOは、「2030年までに企業と政府資産の75%が科学的根拠に基づく削減目標に整合するものになるというブラックロックの予測は、投資家のネットゼロ経済への移行が本格的に進んでいることを示す新たな基準になり得る。ネットゼロ経済への移行が急速に起きていることは間違いなく、すべての投資家がこれに応じて投資戦略を調整することが賢明だろう」としている。

一方で、フランスの金融監視団体リクレイム・ファイナンス(Reclaim Finance)は、ブラックロックにその数値を実現するための具体策がなければ、これまでのように地球環境を汚染するビジネスを継続し、最悪の気候要因を助長する懸念があると指摘する。

さらには、企業が実際に気候変動目標を達成しているかをどのように評価するのか、ブラックロックはより詳細に説明する必要があるとする。企業に求められるのは、オフセットや実証されていない技術に頼った目標というよりも、実際に2030年までに排出量を半減させられる目標を掲げることだ。

同団体のサステナブル投資マネージャーのララ・キュヴリエ氏は、「ブラックロックは、投資先企業の大半が2030年までに総排出量を少なくとも半減することを保証しなければならない」と言う。同社が投資先に求める具体的かつ期限つきの要求を開示しなければ、これまで脱炭素を推進しながらも現実に炭素集約型産業への投資を続けてきたように、今回の発表も煙幕になってしまうと指摘する。

本来、金融機関はその影響力を用いて、クリーンエネルギーへの移行を加速させることができる。例えば、英大手銀行HSBCは昨年12 月、国際エネルギー機関(IEA)の勧告に従い、EU・ OECD市場では2030年までに、全世界では2040年までに、石炭火力発電および火力発電所への融資を段階的に止める詳細な方針を打ち上げた。

同社は1.5度目標を実現するための現実的な方法として炭素排出量の急速な減少が必要であると認識し、計画では、2050年までにネットゼロを目指す目標に適合しない計画を持つ顧客への融資を段階的に引き揚げていく。

とりわけアジア地域は石炭に大きく依存し、エネルギー需要が急増している。HSBCは、同地域が石炭からクリーンエネルギーへ移行するために融資を行い支援することで重要な役割を果たす方針を示している。HSBCは顧客に対し、石炭火力発電からクリーンエネルギー技術へ転換するための信用力のある20年間の移行計画の提示を期待すると述べている。

一方、ブラックロックは今回の発表でも、ネットゼロへの移行に対する自社の役割について、「われわれの役割は、投資リスクと投資機会を指し示すことであり、実体経済における特定の脱炭素化の結果を設計することではない。私たちが運用する資金は、私たちのものではなく顧客のものだ」とこれまでと同じ主張を続けている。

さらに炭素集約型企業への投資については、経済においても脱炭素経済への移行を成功させる上でも重要な役割を果たすことから、長期的に投資をする見込みだと説明。「そうしたセクターから短期的に投資を引き揚げるポートフォリオは、長期的に見ると、ネットゼロ経済への秩序ある移行の実現と相容れない可能性がある」としている。

ブラックロックは2021年3月、ネット・ゼロ・アセット・マネージャーズ・イニシアティブ(Net Zero Asset Managers initiative、NZAM)に署名している。イニシアティブにおいて、資産運用会社は2050年もしくはそれ以前にネットゼロを目指し、産業革命前からの世界の平均気温上昇を1.5度に抑え、資産の何パーセントがこの目標に該当するかその進捗を示すことを約束している。ブラックロックがNZAMに提出した目標は、同社の不動産やインフラ、プライベートエクイティの保有分を除いた7.3兆ドルの運用資産に及ぶ。

ブラックロックが積極的な脱炭素化をヘッジ(回避)し続ければ、ネットゼロ、クリーンエネルギー経済への移行は遅々として進まず、懸念される気候災害を回避するために必要な緊急的な対策も行われない可能性が高い。

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[(https://sustainablebrands.com/read/finance-investment/blackrock-anticipates-75-of-portfolio-edging-toward-net-zero-by-2030)この記事の原文は www.sustainablebrands.com に掲載されています。

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