飛島(ひしま)は、笠岡諸島に属する2つの島、大飛島(おおびしま)と小飛島(こびしま)の総称です。
大飛島と小飛島の距離は約1キロメートルで、海を挟んでお互いの島を近くに確認できます。
毎年2月上旬から3月上旬には、椿(つばき)の花が至る所で見られるようになり、椿の島とも呼ばれているのです。
冬から春に移り変わる季節、3月上旬に大飛島と小飛島に足を運びくまなく散策してきました。
飛島を歩きながら目に留まった風景を紹介します。
また飛島にある、子どもが自由に穏やかな時間を過ごせるフリースクール育海(はぐくみ)にも足を運びました。
フリースクール育海の代表 堂野博之(どうの ひろゆき)さんと日置幸(ひおき みゆき)さんに、飛島での活動についてのインタビューも。
瀬戸内の離島にあるフリースクールについても紹介します。
笠岡諸島とは
笠岡諸島は、岡山県の南西端の笠岡市沖にある、大小31の島々です。そのうち有人島は、以下の7島。
- 高島(たかしま)
- 白石島(しらいしじま)
- 北木島(きたぎしま)
- 真鍋島(まなべしま)
- 大飛島(おおびしま)
- 小飛島(こびしま)
- 六島(むしま)
島々への橋はなく、笠岡市の港から船で行き来します。
のどかで落ち着いた雰囲気の島々です。
香川県の丸亀市・小豆島町・土庄町の島々とともに、「知ってる!? 悠久の時が流れる石の島 ~海を越え、日本の礎を築いた せとうち備讃諸島~」として日本遺産にも認定されています。
飛島とは
飛島は、笠岡市市街地にある住吉港から約18キロメートルの位置にある大飛島(おおびしま)、小飛島(こびしま)の通称。
大飛島と小飛島との距離は約1キロメートルで、それぞれの島の海岸からは海を挟んでお互いの存在を近くに確認できるのです。
名前にある大小が表すように、大飛島のほうが小飛島よりも面積が大きく、また大飛島のほうが人も多く住んでいます。
小飛島は、笠岡諸島でもっとも面積が小さい有人島です。
大飛島は、周囲は6.4キロメートルなので島全体を探索しようとすると、徒歩では難しいかもしれません。
ただし、主要な施設は洲港周辺にあるので、観光で訪れる場合には徒歩での移動で十分だと思います。
小飛島は、小飛島港周辺にしか建物がないため、徒歩だけで島を散策できます。
飛島へのアクセス
笠岡市街地にある住吉港から飛島へ向かう船が出ています。
大飛島には北浦港と洲港の2つの港があり、小飛島には小飛島港の1つです。
住吉港を出発した旅客船は、約35分で北浦港に到着。
北浦港から洲港までは約5分、洲港から小飛島港までも約5分で移動できます。
住吉港には六島航路と真鍋島航路の2つがありますが、北浦港、洲港、小飛島港を辿る航路は六島航路です。
飛島に行くときは、六島航路の船に乗るようにしましょう。
代表的なスポット・飛島でできること
笠岡諸島で、一番小さい有人島の小飛島と、すぐ隣に浮かぶ大飛島。
2つの島にある代表的なスポットや特色を紹介します。
飛島の椿
飛島には、たくさんの椿が自生しています。
筆者が訪れた3月上旬には、島の至る所で椿の花が咲いていました。
椿の実から採れる椿油は、飛島の特産品です。
大飛島遺跡
洲港から歩いて数分にある旧飛島小学校の校庭に、大飛島遺跡はあります。
奈良時代から平安時代にかけて作られた祭祀遺跡です。
たくさんの奉献品が発見されたことから、飛島が瀬戸内の交通の要衝として重要な場所だったと考えられています。
恋人岬
大飛島を周回する道の途中、高台の開けた場所にある恋人岬。
見渡す限り海という恋人岬からは、瀬戸内を代表するような海に浮かぶ島々を眺められます。
恋人岬にある鐘の名前は「結の鐘」。
男女だけでなくさまざまな人の縁を結びたい、という願いが込められています。
嶋神社
大飛島と小飛島の氏神を祀る嶋神社。
小飛島港の北側にある参道の階段を上がったところにあります。
毎年7月に飛島で開催される夏祭りでは、大飛島から海を渡ってきた神輿が嶋神社に運ばれるとのこと。
海上を移動する神輿は、飛島特有の慣しです。
フリースクール育海(はぐくみ)
大飛島の洲港の近くにある、旧飛島小学校を拠点とした学校「フリースクール育海」。
決められたカリキュラムはなく、子どもたちが自由にやりたいことに取り組める学校です。
ゆっくりと流れる島の時間のなかで、飛島の自然に触れながら、公教育のなかで居場所を見つけられない子どもたちが、心と体を休めるための場所を目指しています。
Ile d’or Cafe & Guest house (イルドール カフェ&ゲストハウス)
大飛島の南側、周回する道路の途中にあるゲストハウス「Ile d’or Cafe & Guest house」。
飛島で唯一の宿泊施設です。
山の斜面に立つ建物からは、瀬戸内を代表するような穏やかな海の景色を眺められます。
実際に飛島を歩いてみました
筆者が飛島を訪れたのは、2022年3月上旬。
木々の色からは春の気配を感じましたが、海の上を吹く風はまだ冷たく、冬から春への移り変わりを感じる天気でした。
笠岡諸島への入口は、笠岡市街地にある住吉港です。
船着場には笠岡諸島交流センター「みなとこばなし」があり、建物の1階が待合所になっています。
待合所に乗船券の自動販売機があったので、乗船前に切符を購入しました。
住吉港から出港する船には、六島航路と真鍋島航路と2つの航路が設定されています。
大飛島にある北浦港、洲港、小飛島にある小飛島港を辿る航路は六島航路です。
目的地に行く航路をしっかりと確認してから乗船しました。
日常生活で船に乗ることのない筆者にとって、海上から眺める景色は島を訪れるときの楽しみのひとつ!
出向してからしばらくの間、デッキの上から流れてゆく風景を眺めていました。
住吉港から飛島の最初の港である大飛島の北浦港までは、約35分です。
その後、大飛島の洲港、小飛島の小飛島港の順に到着します。
最初の目的地は小飛島にある嶋神社。
大飛島の北浦港、洲港では下船せず、小飛島港まで行きました。
小飛島港から辺りを見渡すと、山の斜面に建物があるのがわかります。
嶋神社の鳥居があるのが見えたので、海岸沿いを歩いて行きました。
近くまで行くと立派な鳥居だということがわかります。
嶋神社があるのは、階段を登った先です。
探検するような気分で、石段を一歩ずつ上ります。
拝殿がある位置まで階段を上り、ふと後ろを振り返ると、目を奪われる風景がありました!
石段を上り切った先にある拝殿です。
島の静けさと巨大な岩が作り出す神秘的な雰囲気が拝殿の周りに漂っていました。
拝殿に向かって左手を覗くと、細い道が続いていることに気がつきます。
さらに進むと、岩肌の中に祠(ほこら)を見つけました。
飛島の氏神様は、この祠に祀られているそうです。
嶋神社の散策を終えたので、小飛島港まで戻ります。
海岸まで戻ると、小飛島に住む年配の女性に、自宅でうどんを振る舞うので立ち寄ってほしいと声をかけられました。
小飛島にひとつだけある集落を訪れ、近所の人たちと一緒に突然の昼食会が始まります。
リビングで待つこと数分。
島で獲れた牡蠣が入った飛島特製のうどんを作ってくれました。
コシのあるうどんに汁が絡まって、口の中に甘辛い味が広がります!
うどんを味わいながら、年配の女性に話を聞きました。
年配の女性は、大飛島から嫁いできて以来、小飛島で何十年も生活しているそうです。
小飛島に移り住んでからは、毎日午前2時に起きて嶋神社への参拝を続けていると教えてくれました。
小飛島の慣習とのことですが、午前2時というのには驚きです!
うどんと島民との雑談を楽しんでいるうちに、大飛島に向かう船が到着する時間になりました。
海の向こうに見える島が大飛島です。
距離は約1キロメートルで、小飛島港から大飛島の洲港へは船で数分。
大飛島には洲港と北浦港がありますが、主要な施設があるのは洲港です。
洲港で下船して、大飛島の散策を開始します。
なんと飛島には商店がありません.
唯一飲み物を買える場所は、洲港に設置されている自動販売機のみ!
いつでも食料品や日用品が買えることは,当たり前ではないことを,島を訪れると実感します.
洲港を出発して,大飛島の散策へ!
大飛島には、島を一周する道路があり、港といくつかの集落を結んでいます。
道路を辿りながら、大飛島を巡りました。
洲港から道に沿って南に約1キロメートル進むと、飛島で唯一の宿泊施設Ile d’or Cafe & Guest house(イルドール カフェ&ゲストハウス)があります。
高台にある建物からは、瀬戸内の多島美を眺めながら一日を過ごせそうです。
街の喧騒を忘れて過ごしたいときには最高の環境だと感じます。
Ile d’or Cafe & Guest houseから約100メートル南に進んだところに、恋人岬がありました。
山の中腹にある恋人岬からは、瀬戸内海に浮かぶ島々の景色を眺められます。
音の少ない島の空気のなかで、海や風景を眺めながら、忙しない(せわしない)日々の生活を思い返していました。
日常と少し距離を置いて、気持ちを整理するために足を運ぶのもよいのかもしれません。
大飛島の最南端にあった恋人岬を出発して、大飛島の西側を進みます。
少し進むと佐場のビーチと呼ばれる砂浜が見えてきました。
道路は山の中腹にあるので、砂浜へ行くためには急な坂道を下る必要があります。
山の裾野に囲まれた入江にある砂浜に足を踏み入れると、波の音だけが聞こえてきました。
大飛島を歩いていると赤い花が目に留まります。
飛島のシンボルの椿です。
筆者が訪れた3月上旬は椿の花盛りで、島の至る所で赤色の花が咲いていました.
大飛島にはいくつかの集落があり、周回する道路が集落を結んでいます。
入江を囲う山の斜面に民家が立ち並んでいるのが特徴です。
民家の間の道は細く入り組んでいて、歩いて移動します。
集落の前の海は波も穏やかで透き通っていました。
飛島のどこを訪れても静かな時間が流れています。
島を周回する道路のほとんどは、高低差の激しい坂道。
再び高台まで道は続き、視界が開けるたびに異なる風景を見せてくれます。
道路を一周して、洲港に戻ってきました。
最後に立ち寄るのは、洲港近くにある大飛島遺跡です。
フリースクール育海の拠点として使われている旧飛島小学校の校庭にあります。
隠れるように茂みの中にただずむ碑石からは、重々しい雰囲気が漂っていました。
これで小飛島と大飛島をめぐる探検は終わりです。
飛島のどこを訪れても、音が少なく、波が打ち寄せる音や葉が風に揺れる音が聞こえてきます。
穏やかな景色を眺めながら、日々の忙しない生活を思い返し、生き方を見つめ直せました。
静かな空間へ頭の中に溜まった淀みを解き放ったような気分です。
商店はなく、交通の便が良いとは言い難い場所ですが、日常と距離をおいて気持ちを落ち着かせるには最適な場所だと感じました。
静かな時間が流れる飛島に、子どもたちが気持ちを落ち着かせ、安心して過ごせる「フリースクール育海(はぐくみ)」があります。
フリースクール育海を運営する堂野博之さんと日置幸さんに、飛島での取り組みについて聞かせてもらいました。
島の人にお話を聞きました フリースクール育海 堂野 博之さん、日置 幸さん
──飛島に来た経緯を教えてください
堂野(敬称略)──
通信制高等学校のカリキュラムのひとつとして、フィールドワークができるような場所を探していました。
廃校となった小学校があると耳にして、フィールドワークの拠点として活用できないかと見学にきたことが飛島との出会いです。
その後、夏と冬の年2回、子どもたちと飛島に足を運び、除草作業などの奉仕活動を行ないます。
島の活動を続けるなかで、島民との仲も深まり、島で行なわれる運動会や祭りなどの行事にも参加するようになりました。
日置(敬称略)──
フィールドワークに関わったことが、飛島との出会いです。
飛島での活動を続けるなかで、島の人たちに名前を覚えてもらえるようになり、島の人と過ごす時間が楽しくなりました。
気がつけば、私も子どもたちと一緒に飛島に通うようになっていたんです。
飛島は年配のかたが多く、人も減っていて、田舎を代表するような状況になっています。
しかし島という環境のためか、田舎とされている他の地域よりも島民たちのつながりは強く、また優しいように感じます。
難しい理由はなく島での人との関わりがうれしかったというのが、飛島を好きになった理由で、そして今でも飛島に通っている理由です。
──フリースクールを作ろうと思った経緯は?
堂野──
自分の学校を作りたいという強いこだわりがあったわけではありません。
島での活動を続けていると、意欲的に参加する子どもが現れはじめ、月1回子どもたちと一緒に飛島に足を運ぶようになりました。
フリースクール育海の土台となった活動です。
島民との関わりや、海で魚を獲るなどの自然との触れ合いにより、子どもたちは自ら行動を起こすようになりました。
子どもたちの変化を見ていると、飛島の環境によって子どもの中にある本来の力が芽生えたように感じたのです。
呼び寄せられるようにして飛島と巡り合い、活動を続けていたら、子どもたちの主体性が育つ学びの環境ができていました。
気がついたときには、飛島にフリースクールを作ることを考えたという感覚です。
──飛島の恵みを生かしたカリキュラムは?
日置──
育海には事前に用意したカリキュラムはありません。
私たちが教育カリキュラムを提供することで、子どもを導くのではなく、子どもが自ら成長できる場所を目指しています。
島民との関わりや、自然との触れ合いのような飛島の環境を整えることが、私たちの役目。
飛島で過ごす子たちを見てきて、飛島のありのままの環境が、子どもたちを成長させると実感しました。
環境を整えるだけで、子どもたちは草木のように自らの力で育っていくと思います。
おわりに
筆者の個人的な感想ですが、飛島は笠岡諸島の他の島にはない落ち着いた雰囲気があると感じました。
飛島を歩いていると、音が少ないことに気づかされます。
聞こえてくるのは、波が打ち寄せる音と風で木々が揺れる音。
嶋神社への石段を登りながら、浜辺で海を眺めながら、普段の生活では意識しない自然の音に耳を傾けていました。
日常生活でゆとりをなくし、息が詰まりそうなときは、便利さや効率をどこかに忘れて、心と体を休めるために飛島を訪れるのもいいかもしれません。
椿の花言葉を調べてみると、控えめな素晴らしさ、気取らない優美さでした。
落ち着いた雰囲気が漂う飛島に、ぴったりの言葉。
飾らないありのままの島の姿が、子どもたちの疲れを癒し、成長を促すのだと感じました。