BIツール導入~定着のリアルが知れる「DatafulDayVol.3」 『カスタマーサクセスとは何か』 弘子ラザヴィ氏のスペシャル講演も!

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「データで世界を笑顔にする!」という志のもと情報の共有・発信を行うコミュニティnest。そのイベント「Dataful Day Vol.3」どんどん組織が動き出す!データドリブンな企業になる!」が2019年9月18日(水)にウイングアーク1st本社36Fイベントスペースで開かれました。

今回のスペシャルゲストはこれからのビジネスで最重要課題のひとつとなる「カスタマーサクセス」の入門書『カスタマーサクセスとは何か』の著者で株式会社サクセスラボ代表取締役の弘子ラザヴィ氏。シリコンバレーや大手企業の豊富な事例をもとにAmazonやマイクロソフトなど“今・これから生き残る企業は何をしているか”が解き明かされました!

BIツール導入3事例……それぞれにそれぞれの苦労がある!

イベントは満員の会場にてnestの運営を統括する吉田守氏の挨拶から始まりました。2018年3月に誕生したnest。データ活用を進めたい人なら誰でも参加し、互いに教えあい、活動を主導できるのがポイントだということです。その結果、ほかでは聞けないようなBIツール導入の生々しい苦労話や取り組みが聞けるのがnestイベントの大きなメリット。

挨拶後に始まったのは、花キューピット株式会社、岩塚製菓株式会社、横浜冷凍株式会社それぞれのシステム担当者による、データ活用推進の“当事者目線の”事例紹介でした。

花キューピット株式会社の星野靖東氏はKKD(勘と経験と度胸)に頼る部分だらけだった職場でGoogleAnalyticsDr.SumMotionBoardの活用を開始。情シス担当の負担軽減と社員全員がデータ集計・分析できるシステム構築を実現させました。

花キューピット株式会社 星野靖東氏の登壇風景

岩塚製菓株式会社の関隆志氏は平均年齢52.4歳の情報システム部のヒトリBI担当者に就任。昨年のDatalympic 新潟予選会で他社の取り組みに刺激を受け、営業部の会議・ミーティングへの参加や各種集計フォーマットの作成、教育活動を通してDr.Sumの定着化を進めました。

横浜冷凍株式会社 飯島達朗氏とウイングアーク 1st株式会社 仲谷紘明氏による対談

横浜冷凍株式会社の飯島達朗氏は経営層・現場から求められるレポート作成や紙ベースで行われていた日報閲覧を効率化することを決意し、システムにDr.Sum、MotionBoardを組み込むことで、データ加工のコスト削減と日報閲覧のペーパーレス化を実現させました。

3名のお話に共通していたのが“現場に新しいツールを定着させる苦労”です。それまでのやり方を変えるとき、現場の抵抗感を乗り越えることは避けられません。そこで強い後押しとなるのが「社内の権力者の後押し」「ベンダーのサポート」「ユーザー同士の協力」だと花キューピットシステム企画室の星野 靖東(ほしの・やすとお)氏。

そこで、nestのようなコミュニティはどのように役立つのでしょうか?

nestコミュニティはBIツールの導入~定着にどう役立った?クロストークで探る

続いてのプログラムはnestメンバーがBIツール導入~定着化までの苦労やコミュニティの活用方法について語り合うクロストーク。登壇者は業界、地域、世代、BIツール活用歴などそれぞれに異なる3名のnestメンバーです。

左から株式会社マイティネット 品川 直子氏・株式会社成田デンタル 吉原 大騎 氏・エムオーテックス株式会社 芝田 沙織 氏

トークは3つの質問を軸に進められました。

Q1. 正直、(BIツール導入~定着化で)一番大変だったor印象に残っているのはどこですか?


3名が共通して挙げていたのが“Excel文化を払拭する大変さ”。MotionBoardで見やすく作ったグラフを営業担当者に渡したところ「もっとExcelっぽくして」といわれ驚いたと、芝田氏。吉原氏は「Excel文化の壁」を乗り越えるべく代表に刺さる資料を作成し、トップダウンでBIツール利用の浸透が進むよう図ったそう。現場に定着した文化を塗り替えるにはやはり苦労がつきもののようです。

一方「情シスではBIツールの身分が低いんです」と品川氏。「ガシガシ開発するのがエラい、という風潮があるんです」。

しかしBIツールを導入したところ現場から喜びの声があがり、システム部に評判が逆輸入される形で導入が進んだといいます。メリットが浸透すれば現場はBIツール導入の強い味方にもなってくれるようです。

Q2. ユーザー・技術者のコミュニティはどのように活用されていますか?


MotionBoard歴わずか4カ月という芝田氏。

最初はわからないことだらけでサポートへの問い合わせを頻繁にしていたそうです。回答スピードに不満はないものの“メールより気軽に問い合わせられる場所が欲しい”という思いが。そこで紹介されたのがnestでした。Facebookグループに質問を投げると先輩ユーザーが答えてくれ、さらにそこから派生した知識も得られる。そんな好循環のなかで芝田氏は数カ月でイベントに登壇するまでになったといいます。

登壇することの意味が自分には大きいと、吉原氏。情報システム担当者は社内提案でプレゼン力を試されます。その腕を磨く場としてnestコミュニティを活用しているのだそう。品川氏も“失敗”のリスクがない、社外コミュニティでアウトプット力を磨くメリットは大きいと共感します。また情報システム担当者は孤独になりやすいため、nestでほかのシステム担当者と交流することは品川氏のやる気の源泉になっているそうです。

熱く語る株式会社マイティネットの品川 直子氏

Q3.データ活用習慣化のため、これから挑戦したいことは?

品川氏が掲げる目標は「思い込みをぶっ壊す」。「BIツールは分析のためのツールという思い込みがありますが、MotionBoardはもっといろいろできます」。

例えばBIツールの効果報告書作成もMotionBoardで行ったそうです。情シスは画期的な改革をシステム担当者に求めるけれど“現場はもっと身近な苦労を抱えている、まずはそこからBIツールで解決していこう”と品川氏。

芝田氏はデータ活用で会議の場を改革することを目標として掲げました。全員で考える、という名目でだらだらと話し合いを行う場になってしまいがちな会議。事前にデータを共有・閲覧することで会議を意思決定の場にしていきたいそうです。

吉原氏はIT導入が遅れがちな歯科業界のデータ活用を進め、IoT環境を整えていくと宣言しました。

現場から業界全体まで、BIツールによって達成できる成果は多岐にわたります。まずは自社にBIツールで削減できる無駄や手間がないか探してみることが、システム部にしかできない業務改善の第一歩となるようですね。

弘子ラザヴィ氏スペシャルセッション―カスタマーサクセスとは何か?―

イベントの最後を締めくくるのは、サクセスラボ株式会社代表取締役で『カスタマーサクセスとは何か』著者である弘子ラザヴィ氏のスペシャルセッションです。

セッションは、ウイングアーク1st株式会社執行役員/マーケティング統括部統括部長の久我 温紀(くが・あつき)氏との対談形式で進められました。白熱のあまり10分の延長まで行われたトークの模様をかいつまんでご紹介します。

リテンションモデルとは何か?


カスタマーサクセスはなぜ必要になったのか?

その背景には“リテンションモデルというビジネス形態が台頭してきた事情がある”とラザヴィ氏。

リテンションモデルとは、“カスタマー(顧客)を「それなしでは生活できない」というレベルで虜にするビジネス形態”のこと。例えばAmazonプライムに加入しており、ほとんどのモノをAmazon経由で買っている人やiPhoneなしで生活できないという人はいまや少なくないでしょう。

近年さまざまな分野で現れているサブスクリプションはリテンションモデル時代を象徴するサービス形態の代表例です。リテンションモデルがビジネスの定石となるデジタル時代。カスタマーサクセスはすべての企業の生き残りのカギとなるとラザヴィ氏はいいます。

Adobe、マイクロソフト……リテンションモデルで変わる大企業


日本の大企業の経営陣と話し合い、ラザヴィ氏がつくったリテンションモデルの定義は以下の通り。4つすべてを満たすビジネスのみがリテンションモデルと認められます。


1. > 利用者が、日常的・継続的にそのプロダクトを利用し、モノの所有に対してではなく成果に対して対価を払う 2. > 利用者が、いつでも利用を止める選択権を持ち、かつ初期費用が非常に少なくてすむ 3. > 利用者が、それ無しでは生活や仕事ができない・使い続けたいと断言できるほど明らかにプロダクトが常に最新状態に更新・最適化され続ける 4. > 利用者が、自分にとって嬉しい成果を得られるならば、自分の個人データをプロバイダーが取得することを許す

出典:弘子ラザヴィ『カスタマーサクセスとは何か――日本企業にこそ必要な「これからの顧客との付き合い方」』英治出版、2019


弘子ラザヴィ氏

モノへの欲求が低下し、価値観が多様化したミレニアム以後の世代にプロダクトを売るには、リテンションモデルへのシフトが求められます。

それに成功した大企業の例として対談中に挙げられたのがAdobeマイクロソフト

リテンションモデルは“買った後に良くなる”ことをラザヴィ氏は強調します。ユーザーのデータの取得が容易になったこと、アップデートのコストが格段に下がったことで常にプロダクトは更新され最適化される。その結果カスタマーサクセスが実現されることで大企業でも変化し、さらなる成功をつかむことができるのです。

ウイングアーク1st株式会社 執行役員 久我温紀氏

既存顧客を逃さないかどうかで5年後の企業の売上が決まる


リテンションモデルは”買ってもらってからが大切”です。

それは、チャーン(解約してしまった顧客)の割合が数年後の企業の成長率に大きな差を及ぼすから。実際、毎月5%のチャーンが発生する企業と既存顧客を逃さず逆に2.5%のアップセル/クロスセル(追加購入やグレードアップを行った顧客)を得た企業の5年後の売上には3倍の差が発生するそうです。

チャーンを防ぐために企業はどうすれば良いのでしょうか?

人を追加する?

それはあまり良い方法ではないとラザヴィ氏はいいます。なぜなら採用や育成には多くの時間がかかるから。そこで重要なのが“データ活用”。データを集め分析することでチャーン/アップセル/クロスセルの兆候が見えてきます。データサイエンティストやデータ活用専任チームの協力を得て、データドリブンな顧客理解を進めましょう。

顧客に「成功」を届けられていますか?


カスタマーサクセスのサクセス(成功)とは要するに何なのでしょうか?

「カスタマーをディライト(≒満足・ワクワク)させるのはいいけどそれだけじゃ不十分」

Dropbox CCO ヤミニ・ランガン氏の発言を引用してラザヴィ氏は言います。カスタマーサクセスとは、文字通り顧客の成功です。プロダクトの利用により期待される“結果”が得られなければカスタマーサクセスとはいえません。その結果にはカスタマーが気づいていない問題の解決なども含まれます。

これからの企業はデータの力でカスタマーが望む以上の成功を提供していかなければならない。そのための組織、業務プロセス、カルチャーが必要ですね。」

そうまとめる久我氏の発言で白熱のトークセッションは幕を閉じました。

終わりに

3時間以上に及ぶイベントのハイライトをお伝えしました。

データ活用に真剣に取り組まなければ企業は勝てない時代に入っていることが、弘子氏のセッションから伝わったのではないでしょうか?

システム担当者にとって身近なデータ活用の第一歩は、現場を改善すること。そのための知見と仲間を得るための場としてnestは存在します。

nestへの加入方法は簡単。Facebookグループで参加申請を行い、いくつかの質問に答えるだけです。BIツールを使ったデータ活用に興味がある方は参加を検討してみてはいかがでしょうか?

参考文献

弘子ラザヴィ『カスタマーサクセスとは何か――日本企業にこそ必要な「これからの顧客との付き合い方」』英治出版、2019

宮田文机

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