<社説>自衛隊などへ感謝決議 議論は尽くされたのか

 那覇市議会が自衛隊などによる緊急患者搬送に対する感謝決議を賛成多数で可決した。今回の決議について、果たして議論は尽くされただろうか。疑問がいくつかある。市議会は市民に審議過程をつまびらかにする責任がある。 疑問の一つは任務に対する感謝は決議で示すものであったのかという点だ。

 急患搬送や災害派遣、不発弾処理などで自衛隊の果たす役割の大きさは論をまたない。地上戦のあった沖縄では日本復帰後、自衛隊に根深い反発があった。これが薄れ、社会への受け入れが進んだのも、民生分野で果たしてきた役割の大きさがある。

 決議は急患空輸を「本来任務ではなかった」としたが、災害派遣が自衛隊法83条に明記されているように、これらは任務の一つだ。大震災への出動などに対し、他府県で感謝決議や謝意決議が可決されたことはある。大規模災害への対応とは違い、平時の業務とも言える急患搬送に対し、議会決議で感謝を示す必要性があっただろうか。

 採決に際して賛否を問う形となったこともふに落ちない。意見書と異なり、決議に法的な根拠はないが、議会としての意思を対外的に表明する重要な手段の一つだ。このため、議会総意とすべく全会一致が模索される。

 2020年、急患空輸の通算「1万人」の節目でも市議会で感謝決議の提案が予定されていたが、取り下げられた経緯がある。

 救命には他機関も関わっており、感謝決議へのルール作りが必要との意見からだった。そのルールについての議論はどうなったのか。

 政治的な立場の違いで決議について賛否を諮ることもある。前回とは違い、採決した理由も分からない。感謝についての賛否が割れるという結果に後味の悪さを覚える市民もいるのではないか。

 退席も相次いだ。15人が席を離れて採決に関わらなかった。議員の自覚を問いたい。反対の立場から討論に立った議員もいた。なぜ議論を避けて退席したのか。議案に向き合うべきだった。

 20年に続き、発案に関わった自衛隊OBの大山孝夫市議は今回の急患「1万件」達成の機会を逃すと次の提案は難しいと主導した。その意向を受け、関係機関を列挙する形で採決したということであれば、安易な判断だった。

 共産党は決議が民生に限った内容だとして賛成した。これまでの自衛隊に対する党の立場とどのように整合を図ったのかは分かりづらい。

 沖縄国際大の佐藤学教授は自衛隊を戦争の前面に立たせる方向性を後押しすることに利用されることを懸念する。そこまで考慮しての賛成だっただろうか。

 議員個々や会派として感謝の示し方はほかになかったか。なぜ全会一致にならない決議という形になったのか、市民に説明する必要がある。

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