北朝鮮の親たちを動揺させる「女性兵士」の理不尽な苦痛

4月の北朝鮮は、若者たちにとっては朝鮮人民軍(北朝鮮軍)への入隊の時期だ。子を軍に送り出す親にとっては気が気でないだろう。生活環境も食糧事情も極めて悪く、入隊して栄養失調にかかる兵士が少なくないからだ。

また、現在では女性の兵役(5年、男性は7~8年)が本格的に実施されている。2015年から行われることになっていたが、様々な抵抗でうまく進まず、2019年4月からどうにか実施。2020年に入っても試験的実施に留まっていたが、米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)の咸鏡北道(ハムギョンブクト)の情報筋によると、昨年4月から本格実施に移行した。

RFAによると、女性兵役がなかなか本格実施されなかったのは、高校卒業を控えた娘を持つ親の間で激しい動揺が広がったためだ。軍内では女性兵士に対する上官の「性上納」強要などの虐待が横行しており、それは今も変わらない。

そして、人事を握る幹部たちは、少しでも環境のマシな部隊に行かせたいという親心につけこんでワイロをむしり取っている。米

咸鏡北道(ハムギョンブクト)在住のRFAの情報筋は、今月になって始まった招募生(新兵)募集で、兵役関連の人事を司る軍事動員部が、軍に送り出す子を持つ親にワイロを要求する事例が増えていると伝えた。ただ、その額が大きく、親たちは「とても出せない」と頭を抱えているという。

清津(チョンジン)市水南(スナム)区域に住むある人は、軍に入隊する息子を少しでも楽な部隊に配属させようと、知り合いの軍事動員部に頼み込んだところ、少なくとも300ドル(約3万8000円)のワイロが必要だと言われたという。古くからの知り合いでも300ドルも要求されるのを見ると、全くコネのない人ならどれほどふっかけられるかわからないと情報筋は述べた。

また、青岩(チョンアム)区域に住むある人は、咸鏡北道軍事動員部の幹部に、息子を平壌の衛戍警務部(憲兵隊)に配属させる見返りに、500ドル(約6万3000円)のワイロを支払ったという。地方住民がめったに行けない平壌の部隊に配属されたことがよほど誇らしいのか、あちこちで自慢しているとのことだ。

このように軍入隊を巡ってワイロが飛び交う背景について、情報筋は少子化を挙げた。今の北朝鮮では子どもを産んでも1人が当たり前で、多くても2人。大切な子どもを、環境の悪い部隊に送り出して栄養失調などで死なせでもしたら大変だ。軍事動員部の幹部は、そんな親心を利用して、楽な部隊への配属の見返りに高額のワイロを要求しているのだ。

平安北道(ピョンアンブクト)東林(トンリム)郡の情報筋によると、邑(郡の中心地)に住むある人は、息子を楽なところに送ってやってほしいと軍事動員部の幹部に頼んだが、要求された300ドルのワイロを調達できず、息子は、軍事境界線に接する過酷な環境の第1軍団に行かされたという。

東林は農業中心の貧しい地域で、住民のほとんどが平凡な農民。数百ドルものワイロを調達する術を持っていないのだ。コネもカネもない貧しい人々が割を食うのが、拝金主義社会北朝鮮の現実だ。

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