ベテランならではの味わい ヤクルトの42歳・石川と40歳・青木

阪神に勝利し、青木の頭をなでるヤクルト・石川(右)=神宮

 スポーツ界の世代交代は激しい。

 プロ野球界では4月10日のオリックス戦でロッテの佐々木朗希がプロ野球史上16人目の完全試合を達成した。

 弱冠二十歳の佐々木の快挙も驚きだが、バッテリーを組んだ松川虎生がルーキーの18歳だから、恐れ入る。

 巨人では新人の赤星優志、大勢(本名・翁田大勢)両投手らが開幕1軍をつかんで、重要な役割を任されている。近年は各チームとも若返り策に舵を切っている。

 そうした流れの中で、大ベテランの活躍も見逃せない。

 ヤクルトの42歳・石川雅規が、23日の阪神戦(神宮)に先発すると6回3安打無失点の好投で今季初勝利。記念すべき白星はプロ入り以来21年連続勝利の快記録となった。

 21年以上連続で勝利を挙げた投手は7人目。大卒で入団初年度からとなると石川が初めてだ。

 そして、1対0の緊迫した試合で決勝の本塁打を放ったのは40歳の青木宣親。二人合わせて82歳コンビの活躍もまた、プロ野球の醍醐味である。

 試合後のヒーローインタビューにも円熟味が感じられた。

 「石川じいさんのために頑張りました!」と青木が叫べば、負けじと石川も「青木おじさんが打ってくれたので気合が入りました!」。

 帽子をとってあいさつすると、頭髪には白いものが目立った。これこそが修羅場をくぐり抜けてきた男の年輪だ。

 石川の持ち味は、何といっても緩急をつけた投球の妙にある。

 この日のストレートの最速は137キロで、カーブは96キロ。そこにスライダー、フォークボール、シンカーの変化球を織り交ぜて打者を幻惑する。

 時には投球フォームや投げるタイミングまで瞬時に変えてしまうから、打者にとっては厄介だ。

 入団以来、積み上げた白星は178(26日現在)で、現役では最多勝利数となる。

 167センチの身長は高校生の中に交じっても小兵の部類だが、そんなハンディを創意工夫と信念で乗り越えてきた。

 「自分の特長を生かせたら、野球ってできるもんだと思ってきた。(球が)遅くても工夫していけば抑えられると、信じてやっている」。

 150キロや160キロの快速球の時代に、工夫次第で打者を手玉に取ることができる。野球をする子どもたちの手本となるような存在である。

 石川がコツコツと積み上げる努力型なら、青木は打の「天才」と言っていい。

 昨季までプロ野球の12年間の通算打率は3割2分近い。

 こちらも身長175センチと決して体格には恵まれていないが、右にも左にも打ち分ける広角打法で安打を量産する。

 今季は開幕直後から打撃不振に陥り、先発メンバーから外れることもあったが、徐々に調子を取り戻しつつある。

 ベンチ内では誰よりも声を張り上げている。グラウンドに立てば常に全力プレー。負けることが大嫌いな40歳は、チームリーダーとして今も野球少年のような熱い血をたぎらせている。

 二人の共通点を探すなら、人一倍の練習量と努力で這い上がってきたことだ。

 そして若さを保ち続ける秘訣は、自らに限界を設けていないからだろう。

 プロ野球界の若返り策とは一見矛盾するようだが、ヤクルトは石川や青木らベテラン、山田哲人、中村悠平らの中堅に村上宗隆、奥川恭伸らの若手をバランス良く起用して昨シーズン日本一になった。

 ここ一番でのベテランの経験とリーダーシップは大きな武器になる。

 「おじいさん」や「おじさん」のプレーには、若手選手にはない味わいがある。

荒川 和夫(あらかわ・かずお)プロフィル

スポーツニッポン新聞社入社以来、巨人、西武、ロッテ、横浜大洋(現DeNA)などの担当を歴任。編集局長、執行役員などを経て、現在はスポーツジャーナリストとして活躍中。

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