「政治がいかに教育に介入してきたか」追うドキュメンタリー映画「教育と愛国」(下)

5月13日から全国で順次公開される毎日放送(MBS)製作のドキュメンタリー映画「教育と愛国」。監督の斉加尚代さんは、いかに政治が教育現場が介入してきたかを追った。(新聞うずみ火 栗原佳子)

「私たちは月1回のMBS『映像』シリーズを3カ月ごとに担当していて、同時並行は無理だと思っていました。でもコロナ禍で公教育の現場がさらに疲弊し、一昨年10月には日本学術会議の任命拒否問題が起き、政治が学術の世界にまで及んでいるのかと、人生最大のギアが入りました。いま自分が勇気を奮ってできることは何かと、気持ちが変わったんです」

最初に相談したのは「映像」プロデューサーの澤田隆三さん。「先頭を行く東海テレビをはじめ、テレビドキュメンタリーの映画化はトレンドなのだとアピールしました。TBSがドキュメンタリー映画祭を開催したことも大きかった」と澤田さんは話す。「映像」シリーズの映画化は東日本大震災で被災した南三陸町の人びとを描いた「生き抜く」以来10年ぶり、2作目になる。

映画版では学術会議に任命拒否された教授らに取材した。科研費問題でバッシングにさらされた阪大の牟田和恵教授、「慰安婦」記述が復活した「学び舎」教科書を採用したことで、組織的な抗議活動にさらされた学校現場なども取材した。

戦争の加害と被害を教えてきた平井美津子教諭 Ⓒ2022映画「教育と愛国」製作委員会

斉加さんが足場とする大阪では、「慰安婦」問題の授業実践が記事化されたことで、公立中学の社会科教師が吉村洋文市長(現知事)らに激しく攻撃された。その平井美津子教諭も映画版でカメラの前に立った。

2012年2月26日、斉加さんは大阪市内で育鵬社の関連団体が開いたタウンミーティング(TM)を取材した。パネリストに安倍氏と、大阪府知事だった松井一郎氏が招かれていた。当時、松井氏と橋下市長(当時)が推進する教育基本条例案は多方面から批判されていた。しかし安倍氏は賛意を示し、府と市はその後、教育に関する様々な条例を押し通していく。

斉加さんは改めて映像を見直し、驚いたという。「その後の流れを見るとまさに大阪は先兵になっていたのだと実感しました。14年に大阪は教育委員会制度を全国で初めて見直しますが、橋下市長は『戦後、指一本触れさせなかった教育行政が変わった。国が大阪に追いついた』と表現していました。下野して力を失っていた安倍氏が、復活の「のろし」を上げたのがあのTMだと言われています。安倍氏と維新の会が結びつくことで政治主導の教育への機運を盛り上げていったのは間違いない。それで森友事件も起きてしまったんでしょう」

ドキュメンタリー映画「教育と愛国」

30年にわたり大阪の教育現場を取材してきた斉加さん。先進的で自由な大阪の教育が、政治主導で一つの型に誘導されているとの危機感を抱いてきた。教師が閉塞感の中で仕事をしていることも。

参考記事:「教育現場で何が起きているのか」追うドキュメンタリー映画「教育と愛国」(上)

「決して反維新とか反安倍さんとかで製作したのではありません。いかなる政党であっても、教育の中身と教育行政の独立性を揺るがすような圧力は社会を壊しかねない。教育が政治の道具になったときに何が起きるか日本は経験しているわけですから」

映画公開が報道された2月24日、ロシア政府軍がウクライナに侵攻した。「加害から目を背け、戦争を歪めて子供たちに伝える事態をほったらかしにした先は何かと見せられているようで戦慄しました。戦争の実相を知ることの大事さを改めて思います」

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