迷惑、無駄と批判された「千羽鶴」 それでも折ることに意味はある 【コラム・明窓】

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 折り鶴を1羽作るのに3分程度かかるとする。計算上は1時間で20羽、5時間で100羽、千羽鶴は50時間で完成する。ただし休憩しなかった場合の話。実際に折ると、始めて1時間で10羽もできていなかった。

 折っている途中、「原爆の子」で知られる佐々木禎子さんを思い出した。広島で被爆し、12歳で白血病で亡くなった。千羽折れば元気になると信じ、薬の包み紙で作り続けた。完成した、間に合わなかったと諸説あるが、「小さな子が薬でしびれる手で苦労して。治りたかったんだな」と思いを巡らせた。

 ロシアの軍事侵攻に苦しむウクライナの関係者に日本の団体が千羽鶴を贈ろうとし、迷惑、無駄と批判された。善意でありながら、大地震の被災地に贈られる物としても問題になる。相手の文化や心境、状況を考えないと確かにまずい。

 だが、折ること自体に意味はある。21世紀になっても繰り返される戦争や、ウクライナの苦しみに何もできない。せめて何かをと考える時、祈りを込めて鶴を折るのは自然に映る。

 ウクライナの歴史を書いた本が売れているという。これも、せめて苦難の人々の歩みを学び、寄り添いたい気持ちの表れか。手元の本には吹奏楽でも名曲の「歌劇・イーゴリ公」が紹介されている。ウクライナが舞台だ。ふるさとの美しい情景を懐かしみ望郷の念に駆られるシーンがある。あの有名で切ない調べを口ずさむ。

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