Jリーグで低迷する神戸に浮上のきっかけ

ACLの集中開催を効果的に利用する

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サッカーACL1次リーグ チェンライ戦の後半、競り合う神戸・汰木(右)=ブリラム(共同)

 アジア最強を決める大会が、まさかチームを立て直す格好のキャンプになるなどとは思ってもいなかっただろう。昨季のヴィッセル神戸はクラブ史上最高の3位の成績を収めた。当然のことながら、リーグ開幕前の目標はタイトルを取ることに定められていたはずだ。

 だが、予想外のことが起きている。大物外国選手に加え、日本代表級の選手をそろえたにもかかわらず、リーグ10試合を消化して4分け6敗と勝利がない。リーグ34試合のうち約3分の1を消化した時点での最下位を誰が予想しただろうか。確かに予想外のケガ人が続出した。それでも経営規模の小さなクラブに比べれば、優れた選手が数多くそろっている。費用対効果の面から考えれば、かなり無駄が多いということになる。

 三浦淳寛監督との契約を3月20日に解除。下部組織を指導していたリュイス氏が「中継ぎ」の監督を務め、4月8日に就任したロティーナ監督が10日の第8節から指揮を執った。そのセレッソ大阪戦も0―1で敗れた。東京ヴェルディ、セレッソ、清水エスパルスで実績を残し、日本のサッカーを熟知しているロティーナ監督とはいえ、これではあまりにも準備期間がなさすぎる。その意味で、神戸にとってタイでの集中開催となったACLは、ロティーナ体制下での仕切り直しには絶好の「キャンプ」となった。

 中国の上海海港が新型コロナを理由に棄権して香港の傑志、タイのチェンライと神戸の3チームになったグループは、チームの立て直しにとっては理想的な組み合わせといえるだろう。相手はおそらくJリーグの上位チームと比べれば力は劣っている。神戸が問題点を確認しながら修正を加えていくにはちょうどいい相手だ。

 それにしても今回の中国勢の大会に臨む姿勢はあきれるばかりだ。少し前はバブルに沸いて信じられない金額で選手を獲得していた。それが手のひらを返したような状況。広州FCや山東は参加こそしているものの、派遣選手は国際大会に参加する技量のないレベルとしか思えない。この大会がクラブW杯につながる大会だということを考えれば、何らかのペナルティーは必要だろう。間違いなくACLの価値を下げている。

 神戸に話を戻すと、初戦は4月19日だった。2点を先制し、終了間際に傑志に1点を許したが、勝利から遠ざかっていたチームには価値のある結果だった。さらに22日にはチェンライに6―0の大勝。かなり実力差があるのかなというのが感想だった。

 しかし、第3戦の後に考えてみると、これは試合の展開で大差がついたのではないかというのが正直なところだ。開始7分という早い時期に大迫勇也が先制点を奪ったことで相手が浮足立った。そのすきを突き、汰木康也、郷家友太が次々と加点して、前半で4点を奪った。前半で勝負のついた試合の後半はオマケのようなものだった。

 今季の神戸の不調。それは偶然ではないと再確認したのは、4月25日のチェンライとの再戦だった。相手はメンバーを変えてきたが、実力差は大きいはずだった。ところが、思いの外、苦戦した。ちなみにチェンライは2人の日本人選手が先発した。一人は加藤恒平。ブルガリアでプレーしていて、ハリルホジッチ時代に日本代表にサプライズ招集された選手だ。もう一人は神戸のユース育ちの広田隆治で古巣との対戦となった。

 第1戦で大敗を喫していることもあり、チェンライは慎重だった。ゴール前に組織的で堅固なブロックをつくり、神戸の攻撃をはね返し続けた。ただ、チャンスには思い切ったカウンターを繰り出した。両チームを通して最初のビッグチャンスは、チェンライがつくり出した。開始5分に右サイドをブラジル人のゲッターソンが突破すると、クロスにシワコーンが合わせる。GK前川黛也の好セーブがなければ、失点していても不思議はなかった。

 ボールの保持率は高い。サイドの空いたエリアを使い、クロスの数も多い。ただ、正確性に欠ける。第1戦とは違い、チェンライが不用意にゴール前のスペースを与えなかったことで神戸は決定的なチャンスをつくり出すのに苦労した。確かに後半6分の汰木のコントロールシュート、後半28分の槙野智章のボレーなど惜しい場面もあった。ただ、意図を持って相手守備網を崩したかと言われると、そうではなかった気がする。

 守備を固める格下を相手に、ペナルティーエリア内に通すパスがあまりにも少ない。通そうという意思を持っていても精度が足りない。イニエスタやサンペールがいれば、また展開も違うだろう。ただ、この0―0で引き分けたチェンライ戦を見ていると、Jリーグでの神戸不調の原因が少し分かるような気がする。リーグ10試合でわずか5点しか挙げていない攻撃力不足は、残念ながらACLでも露呈してしまった。「前節とは同じにならないと選手たちも分かっていた」。試合後にインタビューを受けた山口蛍の表情からは不完全燃焼の無念さが伝わってきた。

 まだACLの試合は続く。傑志との1次リーグ第4戦は5月1日。タイで集中してトレーニングすることで、この後の神戸にどのような変化が起こるかに注目だ。浮上のきっかけをつかめるだろうか。

岩崎龍一(いわさき・りゅういち)のプロフィル サッカージャーナリスト。1960年青森県八戸市生まれ。明治大学卒。サッカー専門誌記者を経てフリーに。新聞、雑誌等で原稿を執筆。ワールドカップの現地取材は2018年ロシア大会で7大会目。

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