『未来のMotoGPライダーを育てる土壌となるために』/MiniGPジャパンシリーズ開幕

 4月16日、茨城県の筑波サーキット コース1000でFIM MiniGP ジャパンシリーズが初開催された。MotoGPへとつながる道筋、その入り口のひとつとなるレースシリーズMiniGP。そのジャパンシリーズは様々な側面からライダーを育成する土壌となる可能性を感じられるレースだった。

 FIM MiniGP ジャパンシリーズは、FIM MiniGPワールドシリーズのひとつとして日本で開催される選手権である。FIM MiniGPワールドシリーズは2021年にスタートした世界各地で開催されるレースシリーズで、統一基準の下で行われる。参戦できるライダーの年齢は10歳から14歳。世界中のMotoGPを目指す、可能性のある若いライダーたちに平等な環境を提供し、技術を高め、MotoGPへのチャンスを広げることを目的としている。
 
 各シリーズのトップのライダーは、MotoGP最終戦バレンシアGPに併催のワールドシリーズ・ファイナルに進出し、そこでさらに成績を収めれば、国籍や年齢に応じて“Road to MotoGPプログラム”の次のステップが提供されるということだ。

 また、各シリーズのトップライダーには年齢や地域に応じて各タレントカップの選考会への参加、またはエントリーといった機会も提供される。2022年から始まったMiniGP ジャパンでは、開幕戦の現地での説明によれば、年間シリーズ上位1名がワールド・ファイナルに進むことができるとアナウンスされていた。なお、今季のMiniGP ジャパンは5戦10レースで行われる。
 
 バイクはイタリアのOHVALE(オバーレ)の160cc10インチのミニバイク『GP-0 160』、タイヤはピレリのワンメイクだ。MiniGPジャパンでは、車両はレンタル。エントリー費に車両レンタル代、タイヤ、オイル、ガソリン代が含まれており、経済的な負担が軽減されている。それもまた、MiniGPの目的のひとつでもある。
 
 2022年MiniGP ジャパンの開幕戦は、冷たい雨が落ちる天候で始まった。路面は完全にウエット。しかし2回のフリー走行を終えるころには天候は回復し、3回目のフリー走行と2回の予選とレース1、レース2は好天の下、ドライコンディションで行われ、16人のライダーによる熱戦が繰り広げられた。

松山遥希(#15)と国立和玖(#4)は2レースともに激しい優勝争いを展開
レース1で優勝した松山遥希、2位の国立和玖、3位の池上聖竜
レース2では松山遥希がダブルウイン、2位はこちらも連続表彰となった国立和玖、3位は齊藤太陽だった

 
 このMiniGPの日本シリーズ開催を実現したP-UPワールドの代表取締役社長、中込正典氏に、MiniGP ジャパンについて話を聞いた。中込氏はMiniGPジャパン開催の目的について、こう語る。

「若いライダーをMotoGPにつなげてあげるのもひとつあるのですが、日本人にMotoGPで走ってもらいたい、というところが目的にあります。今、MotoGPクラスで戦っているのは中上(貴晶)選手だけですが、日本人のMotoGPライダーがどんどん増えて、将来的には、昔のように日本人ライダーにチャンピオンになってほしいというのが目標です」

 中込氏はこのMiniGPに参戦することが、MotoGPだけではなく若いライダーに様々な選択肢になれば、とも考えているという。

「(もしMotoGPへとつながることができなくても)MotoGPだけがバイクレースの世界ではありません。全日本チームで育成に力を入れるところにつないであげるとか、(そういう道もある)。いいライダーは、次につながるステージをできる限り応援してあげる、それが私たちの仕事だと思っています」

 MiniGP ジャパンがどういう選手権として成長してほしいと思いますか。そう聞くと、中込さんは「ポケバイに乗っている子どもが、次にMiniGPで走りたいと言ってもらえるような大会にしたいですね」と答えた。

「それから、観客、ゲストの方に応援に来てもらえるような、子どもが真剣にやっているんだ、ということが伝わる大会にしていきたいですね。今後、さらにSNSなどで拡散していって入場無料などのアナウンスもどんどんしていくつもりです。目標は観客1000人なんですよ」

「参戦するライダーに、自分の学校で『僕が出るから来てよ、おもしろいぞ』って言ってもらえるようにしないと。そのためにドローンを飛ばしたりして、格好いい映像を作っていくつもりです。観客がいればいるほどイベントは盛り上がる。そういうことも意識しています。そうすれば、興味を持ってくれる次の世代が出てくると思っています」

■海外で戦い抜く力をつけるために

 そして、開幕戦を通じて感じたのはMiniGPジャパンという大会の特色だ。MiniGPジャパンは選手権であり、同時に10代のライダーが世界で戦うライダーとして必要なもの──それは速さだけではない──を学ぶことができる土壌があった。
 
 そのひとつに、バイクのイコールコンディションがある。バイクもタイヤもワンメイクだが、変更可能な範囲はしぼられており、タイヤに関しては、空気圧に至るまで統一されている。
 
 Moto2クラスで活躍し、現在はHRCテストライダーを務め、また、全日本ロードレース選手権に参戦するチームを立ち上げて若手ライダーの育成に力を注ぐ長島哲太はMiniGPでアドバイザーを務めており、若いライダーたちに向けて「海外で必要なものを伝えたい」と語る。
 
「ヨーロッパではよくある話なんですけど、バイクのセッティングを変えてもらえないこともあるんです。今の状態でがんばれ、速くなったら変えてあげるよ、という。日本はこのあたりがすごく恵まれていて、ミニバイクのときからバイクを合わせ込んでいって、自分好みに仕上げていける環境なんですね。でも、バイクが仕上がっていないと、速く走れない子が多いんです。ATC(アジア・タレントカップ)やジュニアGP(以前のFIM CEVレプソル Moto3ジュニア世界選手権)に行くと、そこで苦労することが多いんですよ」

「ですから、MiniGPに関しては変更範囲をかなりしぼって、基本的にはライダーが(自分のライディングで)合わせてください、というルールにしているんです」

 フリー走行中にはチャタリングが出ている、とピットインするライダーもいたが、長島はそんなライダーたちに駆け寄り、「それで速く走れる方法を探してごらん、チャタを抑えるためにはこういう風に乗ればいいんだよ」と伝えていたという。

「そうすることで、ライダーの引き出しも増える。今後に向けて成長できるんじゃないかと思っています」

長島は常に細やかに気を配り、ライダーにアドバイスを送っていた

 同じくMiniGP ジャパンでレーシングアドバイザーを務める元Moto3ライダー、現在は全日本J-GP3クラスに参戦する尾野弘樹も「バイクレースは“バイク”という物を使う競技ですから、どうしてもセッティングの話になったりもします」と言う。
 
「タイムが頭打ちしてくると、自分のライディングをどうしたらいいですか、というよりは、タイヤが、サスが、という話になっていくんですね。2戦、3戦、4戦とレースを重ねるうちに、ライダーが意識的に自分でどうにかしよう、と考えてもらえるようになれば、今日、伝えたことがどんどん意味を持ってくると思います」

走行の合間で、ライディングを教える尾野。ライダーにとっては学べるチャンスがとても多い

 海外でのレースとなれば、気候や環境も違い、サーキットの路面状況も日本とは異なる。しかしどんな状況でも結果を求められるのがレースの世界だ。そうした厳しい世界を戦い抜くために、MiniGPジャパンに参戦するライダーたちに、今、こうしたイコールコンディションで、いかに自分のライディングで戦うかを学び、経験値としてほしい。そうしたメッセージがこのレースシリーズに明確に内奥されていた。

 走行後なども現役ライダーである長島や尾野が熱心にライダーたちにアドバイスしていた。また、フリー走行1を終えたあとには、走行を鑑みて再度注意を促したいポイントを伝えるための緊急ブリーフィングが行われるなど、ライダーとして守らねばならないルールについて、意識を高めるためのサポートも手厚い。

 将来、世界へと羽ばたくライダーたちのために。MiniGPジャパンのこうした取り組みは、若いライダーたちをMotoGPへと導くはずだ。

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