<金口木舌>弱い者の一人として

 「わたしたちは仲間です」。筆箱の中で小さく折りたたまれた紙に〈うすい筆跡で魚の小骨みたいな字で〉書かれていた。川上未映子さんの小説「ヘヴン」の冒頭だ

▼学校でいじめに遭う〈僕〉と〈コジマ〉が友達になる物語だ。ひどい暴力の中で育まれる友情が踏みにじられることのないよう願いながら読んだ

▼川上さんは、人生の本質は「失われる」ことだと取材に答えている。理不尽に壊され、失われる弱い者を丁寧に描く作品が多くの人を引きつける。「ヘヴン」は英国の文学賞「ブッカー賞」の国際賞で最終候補になった

▼北海道旭川市でいじめを受け、凍死した中学生の母親をネット上で中傷したとして3月に愛知県の女性が侮辱罪で略式起訴された。1月にも男性が略式起訴されている。国会で侮辱罪の厳罰化を巡り審議が続いている

▼事実を解明するために闘う母親を冷笑し、傷つける風潮があるのは不条理だ。弱い者の一人として支え合うことが私たちの役目ではないか。誰も理不尽な被害に遭うことのない社会をつくるために。

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