やまゆり園事件・植松死刑囚側再審請求 なぜ…被害者家族ら、驚きと怒り

犠牲者の名前とヤマユリの花が刻まれた鎮魂のモニュメント=相模原市緑区の津久井やまゆり園

 「時計の針を無理やり戻された」「まだ振り回すのか」。津久井やまゆり園事件の裁判で死刑を言い渡され、自ら控訴を取り下げた元職員植松聖死刑囚(32)側が横浜地裁へ再審請求したことを巡り、事件の被害者家族らに動揺が広がった。事件から間もなく6年。少しずつ元の生活を取り戻そうとしていただけに、驚きと憤りを隠せずにいる。

 「再審請求が事実だとすれば非常に残念です。何を今さらと腹立たしく思います」

 事件で命を奪われた美帆さん=当時(19)=の母と兄は29日、弁護士を通じてコメントを寄せた。母は2020年の裁判員裁判を前に、「美帆は一生懸命生きていました。その証しを残したい」と実名を公表。法廷で植松死刑囚に直接、「あなたに極刑を望みます」と宣告した。

 判決後は手記で「裁判は空(むな)しいものでした。私は犯人が間違ったことを認め、亡くなった19人、怪我(けが)をした27人に謝ってほしかった。でもそれは無理でした」とした上で、「控訴しなかったのは罪の重さや自責の念が多少なりにもあったのではないか」と述懐。今年3月26日の月命日には園に完成した「鎮魂の碑」を訪れ、「ここで区切りがつき、肩の荷が下りたかなと思っています」と語っていた。

 一方、事件で息子の一矢さん(49)が重傷を負った尾野剛志さん(78)は「驚いて言葉もない。われわれはもう前を向いて進んでいるのに、振り出しに戻すのか」と怒りをあらわにした。

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