アクセスはメトロ中央線 大阪・関西万博まであと3年 関西鉄道各社、サービス向上の鍵は「MaaS」【コラム】

Osaka Metro中央線400系電車=イメージ=。独特な外観もさることながら、1編成1両の「クロスシート車両」も話題です(画像:Osaka Metro)

3年後の2025年4~10月に大阪で開かれる国際イベント、それが「大阪・関西万博」です。正式名称は「2025年日本国際博覧会」。テーマは「いのち輝く未来社会のデザイン」です。前回の大阪万博から55年、関西で再び開催される万博は、前回のような物質的な豊かさとは異なる、心の豊かさを追求・発信する催しになります。

多くの情報は未発信の大阪・関西万博ですが、2022年4月18日には8つのパビリオンの出展計画が東京で発表されるなど、徐々に開催概要が明らかになってきました。ここでは「大阪・関西万博と鉄道」をテーマに、万博の来場者輸送計画や関西の鉄道各社のサービス向上策をまとめました。

直径600メートルの巨大リング

大阪・関西万博会場全景(夕景)。夢洲は大阪湾に面しますが、地形の関係で平地から海は見えません。ドーム屋根は12メートルの高さがあり、頂上部からは大阪湾や明石海峡が一望できます(画像:(公社)2025年日本国際博覧会協会)

大阪・関西万博の会期は2025年4月13日~10月13日の184日間。会場は大阪市此花区、大阪北港に造成された人工島の夢洲(ゆめしま)です。会場スペースは、大阪ドーム約45個分に相当する155ヘクタールあります。

会場イメージで、最初に目がいくのは直径600メートルの巨大リングかもしれません。図には描かれませんが、中央部は円周長2キロの巨大なドーム状の屋根で覆われます。

来場者数は目標2820万人

政府は2020年12月、万博の開催を閣議決定(正式名称は「2025年に開催される国際博覧会〈大阪・関西万博〉の準備及び運営に関する施策の推進を図るための基本方針」)。主催者の(公社)2025年日本国際博覧会協会(博覧会協会)は、これを受けて基本計画を公表しています。協会は2022年から開催を意識した準備に入り、2023年には会場建設に着手します。

万博の参加目標は150カ国・25国際機関。100カ国・7機関が出展を表明しています(2022年4月8日時点)。主な国・地域は、米国、英国、フランス、ドイツ、EU(欧州連合)など。

来場者目標は2820万人。参考になるのが2005年に開かれた愛知万博(愛・地球博)の2204万人です。ただし、2820万人はコロナ前の数字。「若干の見直しが必要かもしれない」と博覧会協会も認めます。

ICTやMaaSでスムーズな来場を実現

大阪・関西万博で実践される次世代技術や社会システム。交通分野ではMaaSや空飛ぶクルマといった項目が並びます(資料:(公社)2025年日本国際博覧会協会)

ここからは鉄道に関連する話題。万博協会は円滑な来場のため、鉄道、道路、海路、空路といった既存交通インフラを最大限活用したアクセスルートを計画します。それぞれのルートをバランスをとりながら利用してもらうため、ICT(情報通信技術)を駆使して適切なルートや混雑状況などを案内します。

大阪府内の企業には、時差出勤やテレワークの活用を呼びかけます。ピーク時間帯の交通量削減を図るとともに、鉄道やシャトルバスへの乗り換えが安全・円滑に進むよう、交通の総合情報基盤・MaaSなどの新しい技術を積極的に取り入れながら、 関係機関や交通事業者と連携して混雑解消に取り組みます。

大阪中心部を東西に縦断、鉄道10線に接続(メトロ中央線)

直接の会場アクセスになるのが、Osaka Metro中央線(メトロ中央線)です。現在の起点のコスモスクエアから、会場の夢洲まで鉄道新線(北港テクノポート線)を延伸して、新しい駅を建設します(仮称・夢洲新駅)。万博の会期中、メトロ中央線の輸送力が増強されます。

メトロ中央線の歴史をたどります。2018年4月の民営化までは、大阪市交通局の市営地下鉄でした。路線はコスモスクエア(大阪市住之江区)―長田間(大阪府東大阪市)間の17.9キロ。両端を含めて14駅あります。電化方式は直流750ボルトの第三軌条方式です。

中央線は、1961年に最初の区間が開業。2005年に当時の起点だった大阪港からコスモスクエアまでの区間が、大阪市が出資する第三セクターの大阪港トランスポートシステムから大阪市交通局に移管されて、現在の路線になりました。

他路線に接続するのは全部で10駅。コスモスクエアで南港ポートタウン線(新交通システム=正式には自動案内軌条式旅客輸送システム)、弁天町でJR大阪環状線、九条で阪神なんば線、阿波座で地下鉄千日前線、本町で地下鉄御堂筋線と四つ橋線、堺筋本町で地下鉄堺筋線、谷町四丁目で地下鉄谷町線、森ノ宮で地下鉄長堀鶴見緑地線とJR大阪環状線、緑橋で地下鉄今里筋線、高井田でJRおおさか東線(JRの駅名は高井田中央)、終点の長田では、近鉄けいはんな線と相互直通運転します。

近鉄けいはんな線は、長田―学研奈良登美ヶ丘間の18.8キロで、事業者が近鉄なのに架線がなく第三軌条という異色の路線です。

近鉄けいはんな線の終点・学研奈良登美ヶ丘に並ぶOsaka Metroの20系電車(左)と近鉄7000系電車(右)(写真: jnpi.photo / PIXTA)

メトロ中央線は「未来への路線」

メトロ中央線がどこか地味な印象を受けるのは、大阪市の都市構造にも理由があります。大阪の繁華街はキタ(梅田・大阪駅)、ミナミ(難波・心斎橋)の二極構造。ところが、中央線が通るのはキタ、ミナミの真ん中でビジネス街の本町。大阪・関西万博は、中央線がスポットライトを浴びる初めての大型イベントなのかもしれません。

Osaka Metroは中央線を〝未来への路線〟と位置づけ、新製車両でイメージアップを図ります。万博までに投入するのは、400系(6両23編成)と30000A系(6両10編成)。デビューは30000A系が2022年7月、400系が2023年4月を予定します。

Osaka Metro「30000A系」外観デザイン=イメージ=(画像:Osaka Metro)

新型車両は、本サイトで詳しく紹介済みなので繰り返しは避けますが、400系で特徴的な前面はガラス張りの展望形状、宇宙船を意識させる未来的なデザインです。2024年度中に400系電車の大阪港―夢洲新駅間で、自動運転の実証実験に乗りだすプランも明かされています。

移動や生活サービスをシームレスにつなぐ

Osaka Metroを含む関西の鉄道事業者は、大阪・関西万博をきっかけに、さらなる輸送サービスのレベルアップをめざします。各社共通のキーワードが「MaaS」。交通の総合情報基盤を構築、ダイヤや観光情報の検索と乗車券などの購入、決済(支払い)をスマートフォン1台で完結できるようにして、万博のレガシー(遺産)にする構想です。各社を代表して、JR西日本を取り上げます。

MaaSの実践策として2023年のサービス開始を予定するJR西日本の「モバイルICOCA」=イメージ=(資料:JR西日本)

JR西日本は、MaaSを「さまざまな移動・生活サービスを、シームレスにつなぐ最重要な経営課題」と位置づけます。行政や企業などと力をあわせ、地域実態に応じたMaaSの早期サービス開始を志向します。エリア別では、「都市型MaaS」「観光型MaaS」「地方型MaaS」の3方向から、それぞれの特性に応じたサービスのあり方を探ります。

都市型MaaS実践の舞台が大阪・関西万博。JR西日本はOsaka Metro、近畿日本鉄道(現在は近鉄グループホールディングス)、京阪ホールディングス、南海電気鉄道、阪急電鉄、阪神電気鉄道の鉄道6社とともに2019年10月に立ち上げた「関西MaaS検討会」で情報交換しながら、有用なMaaSを構築します。

検討会の活動では、初年度の2019年度にMaaSのメリットを整理し、関西圏全体として取り組むべき戦略を確認。2020年度にMaaSビジョンを示しました。

目標は、「関西圏で最もユーザーに支持されるMaaSの開発」。理想に「一般客が使いやすく、事業者が参加しやすく、将来的に成長・発展するMaaS」を掲げます。2022年度は、早期にシステム開発に着手する方針です。

万博会場近隣で一足早く自動運転車の実証実験

2022年4~6月の実証実験で大阪市此花区を走る自動運転バス。技術的には「レベル4を見据えた次世代の交通管制システム」。レベル4は完全自動運転ですが、日本では公道走行は認められないため実際にはオペレーターが乗車するスタイルで運転されました(写真:Osaka Metro)

ラストはOsaka Metroに戻って、万博で構想される自動運転車の話題。同社を代表企業とする民間10社は共同で、万博でのお披露目をめざします。参加企業はOsaka Metroのほか、あいおいニッセイ同和損害保険、NTTドコモ、大林組、関西電力、ダイヘン、凸版印刷、日本信号、パナソニック、BOLDLY(ボードリー)の各社。BOLDLYはソフトバンクグループで、自動運転システムを開発します。

Osaka Metroなどは2022年3月1日から4月26日の約2カ月間、自動運転車の実証実験を大阪で実施。メトロ中央線コスモスクエア駅と人工島・舞洲(まいしま)の間を、完全自動運転のレベル4を見据えたBOLDLYのバスが結び、体験モニターに応募した一般市民が、一足早く未来の交通を体験しました。

記事:上里夏生

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