「ヨコハマのMRが速い」裏付けと、オフに“飛躍”したダンロップ。富士450kmで勢力図は変わるか【GT300タイヤ開発最前線】

 GT500クラスと同じく、タイヤの開発競争が勝負の行方を左右するスーパーGT・GT300クラス。今季はミシュランが復帰し、4メーカーでの開発競争が展開されている。2022年開幕戦岡山では、予選と決勝で少々異なる勢力図が見られたが、各メーカーはどような狙いを持って、2022年シーズンを迎えたのだろうか。それぞれの開発担当者に話を聞いた。

■“横展開”が迅速なヨコハマ。昨年からの開発が実る

「今年はヨコハマを履くミッドシップ勢が速い」

 2022年シーズン開幕前。オフのテストの段階から、そんな声が聞こえていた。実際、JLOCの2台のランボルギーニ、UPGARAGE NSX GT3、Team LeMans Audi R8 LMS、PACIFIC hololive NAC Ferrariなどが、テストから上位に。開幕戦では優勝こそリアライズ日産メカニックチャレンジ GT-Rとなったが、どの車種も予選・決勝を通じて戦える速さを見せていた。

 ライバルタイヤを履く陣営からは、「ヨコハマは今年、何かやってきている」との勘ぐる声もあがっていた。

 横浜ゴムでタイヤ開発を束ねる白石貴之氏にこの声をぶつけると、「このオフに飛躍的なブレークスルーがあったわけではありません」と軽やかに否定された。ただ、昨年からの開発の“流れ”を聞くと、昨今のパフォーマンスアップには理由があることも分かった。

 2021年のヨコハマの開発について振り返ると、そのカギはシーズン前にあった。2020年王者のリアライズ日産自動車大学校 GT-R(2022年はリアライズ日産メカニックチャレンジ GT-R)が開幕前のテストという早い段階でいいアイテムを見つけたことが、2021年開幕戦の勝利につながったと、白石氏は昨年の終わりに話していた。

 この、当初リアライズ向けに開発したタイヤは、多くのミッドシップ車両のリヤタイヤのサイズと同様。このタイヤの構造が他車種へも早期に展開されただけでなく、このリヤタイヤをベースにしたフロントタイヤの構造開発にも、2021年シーズンを通して注力していた。そのなかで、「車種が多いミッドシップ系、JLOCさんなどに合わせて開発していたフロント構造が、比較的(そのほかの)ミッドシップ車両ともいいマッチングがとれた」(白石氏)と、“ミッドシップ好調”は昨年からの開発成果のようだ。

 同時にコンパウンドの面でも、「GT-R以外の車種にアジャストしていくことを昨年やっていて、今年もそれを続けてやっているような形」と白石氏は説明する。

「ですので、飛躍があったというよりは、着実に開発を積み重ねている部分と、昨年から入れた構造の使い方、それに合わせたセットアップを、チームさんの側で見出して頂いている、という感じでしょうか」

「開発(チーム)でやったものをそれ以外の車種に展開することは、比較的早めにできているかなと思っています」

2022年開幕戦岡山では、リアライズ日産メカニックチャレンジ GT-Rが優勝。UPGARAGE NSX GT3が続き、ヨコハマのワン・ツーとなった

 迎えた開幕戦の予選では、オフの勢力図からは一転、トップ3をダンロップ勢が独占する形となった。白石氏は開幕戦岡山の決勝日朝、「正直、びっくりしました」と口にした。

「61号車(SUBARU BRZ R&D SPORT)は昨年王者ですので充分速いとは思っていましたが、RC F(K-tunes RC F GT3)があの位置まで来るのは純粋な驚きでしたし、逆に今日のレースがどうなるのかが楽しみというか、気になっています」

■オフに飛躍したRC F用ダンロップタイヤは「GT-Rとは異なる」

 そのダンロップは今季、GT300での供給台数を昨年から2台増やし、計7台と勢力を拡大している。

 新規に供給するうちの1台はBUSOU raffinee GT-Rで、GT-R+ダンロップというパッケージとしては、ゲイナーの2台と同様。また、もう1台のシェイドレーシング GR86 GTに関しても「GT300規定車両ですので、61号車、60号車(Syntium LMcorsa GR Supra GT)と同じようなものが使える」(ダンロップ・藤田将之氏)と、比較的これまでのノウハウが活かせる、効率のいい体制拡大となっている。

 実際、開幕戦の予選ではBUSOU raffinee GT-Rが惜しくもQ2進出を逃したものの、シェイドレーシング GR86 GTは予選Q1・B組で2番手と、いきなり速さを見せた。

 ヨコハマの白石氏が目を剥いたK-tunes RC F GT3の予選2番手という結果ついて、藤田氏は次のように説明した。

「昨年も構造面で苦しんでいたところがありましたが、このオフに96号車に合う構造が見つかってきて、飛躍的に良くなりました。さらに岡山、富士の公式テストでもいいものが見つかっていますので、次の(第2戦)富士も期待できるかな、と思っています」

2022スーパーGT第1戦岡山 K-tunes RC F GT3(新田守男/高木真一)

 ダンロップはこれまで、車重が近いGT300規定車両群(BRZ、GRスープラ、GR86)と、GT3車両群(GT-R、RC F)というふたつのグループに分け、それぞれのグループに合うタイヤ開発を進めてきたが、このオフに独自の構造が見つかったRC Fに関しては「GT-Rとも違うものになってきている」(藤田氏)という。

 さらにRC Fには今季、高木真一というスペシャリストも加わった。藤田氏によれば「経験のある方なのでタイヤの使い方も上手ですし、コメントもしっかりされるので、タイヤ開発はいい方向に進んでいます」と、ダンロップとしても高木の加入は心強いものとなっているようだ。

 開幕戦の決勝では、前半スティントで予選トップ3がいずれも順位を下げるなど、ダンロップ勢全体として課題も残る結果となったようだが、開発陣が期待するRC Fのポテンシャルアップを含め、第2戦富士でも引き続き要マークの存在となりそうだ。

■ブリヂストン、『GT500からの応用』に限界か。ロングランは強し

 2020年はヨコハマ、2021年はダンロップがシリーズを制すなか、昨年は2勝にとどまったブリヂストン。ヨコハマ、ダンロップがタイヤ開発に力を入れてポテンシャルを伸ばすなか、やや苦しんでいる印象も受ける。

 ブリヂストンはここ数年、GT500と同レベルのタイヤ開発はGT300で行っておらず、「正直、リソースもそこまでかけられるわけではないので、『GT500の技術をうまくGT300に転用して効率よく』というスタンスは今年も変わらないです」と開発を指揮する山本貴彦氏はいう。

「ただそのなかでウチは“頭打ち感”といいますか、とくに無交換が(ブルテンや特別規則書で)禁止になったときの、一発の速さの面とかが課題かなと思っています。車種がいろいろあって難しいのですが……」

 山本氏によれば、「ちょこちょこと(開発は)やってはいるのですが、なかなかいいところが見つけられていない」という。GT500で良かった方向を単純にGT300に転用しても結果が出ないなど、開発効率と性能向上を天秤にかける、悩ましい時期が続いているようだ。

 ただし、取材後の第1戦決勝ではLEON PYRAMID AMGが早めのピットインでアンダーカットを成功させ、安定した走りを見せ3位に。予選で下位に沈んだARTA NSX GT3も、アクシデントを引き起こすまでは追い上げを見せていたことから、とくに決勝レースでの強さは引き続き武器となっているようだ。

 来る第2戦富士の450kmレースは、4月21日にGTAが発行したブルテンによればタイヤ交換義務はない(決勝スタート後、『最低2回の給油』のみ義務付けられている。持ち込みタイヤは1セット追加の7セット)。よって、2回のピットストップのうち1回は、タイヤ無交換や2輪交換という作戦を採用するチームが出てくることが想定される。

 過去を振り返ってみても、無交換や2輪交換といったタイヤのライフを武器にした戦略は、ブリヂストンの“お家芸”と言える。年間3戦が予定されている450kmフォーマットでブリヂストン勢が戦略を絡めた強さを発揮するとなれば、近年とは異なったシリーズ争いが展開される可能性もあるだろう。

2022スーパーGT第1戦岡山 LEON PYRAMID AMG(蒲生尚弥/篠原拓朗)

■「2年前より、スペックの選択肢を増やした」ミシュラン

 最後に、2年ぶりにGT300クラスへと復帰したミシュランの動向を見ておこう。今季はStudie BMW M4の1台のみにタイヤを供給、今年世界的デビューを飾ったBMWの新型GT3車両 M4 GT3との組み合わせが注目されるなか、開幕戦の予選ではいきなり7番手に食い込む速さを見せた。

 決勝後半には一時“渋滞の先頭”となるなど、苦しい場面も見られたが、上位を争うポテンシャルは充分にあるように感じられた。

 ミシュランの2020年のGT300への供給は、本来2021年からと計画していたものを、チーム側からの要望で前倒しした形だった。さらにそこへ新型コロナウイルスの影響が直撃、テストもままならないなか迎えたシーズンでは、思うような成績を残すことができなかった。

 今季のGT300へのタイヤ供給は、2020年とは少し状況が異なるようだ。開幕戦後、オートスポーツwebの取材に対し、小田島広明氏はこう答えている。

「2020年の参戦の際とコンセプトは変わっておらず、GT500のように毎レース専用開発のタイヤを投入するというよりは、我々の持っているスペックと技術のなかから合うものを選択していき、シーズンを回すというやり方です」

「ただ、2年前のときよりは、スペックの選択も少し増やして対応できるようになりました。また、事前のテストも充分には走り込めていないですが、シミュレーションも含めBMWモータースポーツの協力も得られていますので、スタートの時点では2020年よりは準備を進められたと思います」

 周囲のチームも「今年のミシュランは2年前とは違うはず」「高負荷サーキットに行けば、より強い」「アウグスト・ファーフスは、GT300のトップドライバーよりコンマ5秒は速い」と充実の体制に警戒感を強めている。

 開幕戦について小田島氏は、「ドライに関してはちゃんと走るのが岡山のレースウイークが初めてみたいなものでしたので、マッチング自体は大外れではなかったのですが、それぞれのスティントの後半のデグラデーションは『やっぱりな』といいますか、勉強不足のところが出てしまった」と振り返る。

「ただ、何もないところから選んでいただいたタイヤとしては最低限の仕事はできていますし、理解度が深まった分、ここから進歩はできるかなと思います」

“復帰初戦”として充分なパフォーマンスを見せたBMW M4 GT3とミシュラン。今後も上位進出となれば、また新しい“キャラクター”がタイトル争いに名乗りを挙げることにもなる。

2022スーパーGT第1戦岡山 Studie BMW M4(荒聖治/アウグスト・ファルフス)

 前述のとおり、来る第2戦富士450kmレースでは各陣営の戦略判断が分かれ、開幕戦とは異なった勢力図となることも予想される。

 果たして、開幕戦で強さを見せたヨコハマの天下は続くのか。ダンロップは一発のみならず、決勝ペースを改善することができるのか。ブリヂストンはどんなレース戦略を採ってくるのか。ミシュランはどの位置に飛び込んでくるのか。GT300クラスでも、タイヤの開発競争とそれを踏まえた戦い方から、目が離せない。

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