日本取引所グループ・清田CEO 新市場区分「スタートは順調」 単独インタビュー(前編)

 2022年4月4日、東京証券取引所(東証)は61年ぶりに市場区分を再編した。これまでの4つの区分(東証1・2部、マザーズ、JASDAQ)をプライム、スタンダード、グロースの3市場に再編した。
 東京商工リサーチ(TSR)は、(株)日本取引所グループ(TSR企業コード:570280516、東京都中央区)の清田瞭(あきら)CEOに単独インタビューし、市場区分再編の意義や今後の施策等について訊いた。

清田CEO前編

取材に応じる清田CEO

―マーケットの状況は

 年明けは楽観的な見方が多かった。アメリカは新型コロナへの各種規制を緩和し、企業活動への再開期待から物価上昇が起き始めた。また、ウクライナの問題も浮上し、さらに物価上昇に弾みがついた。
 アメリカ以外の多くの国でも、ロシアに対する経済制裁の影響から、エネルギー価格の上昇や供給不安に対する警戒感が広まった。ロシアとウクライナの小麦の流通が滞り、世界的な食糧の供給不安もあって、足元ではインフレがさらに加速している。3月のアメリカの消費者物価指数は前年より8.5%上昇し、40年ぶりの水準だった。こうした状況でマーケットが不安定化しているのは確かだ。

―日本は「超金融緩和」を維持している

 日本は、金利引上げのペースを速めるFRB(米連邦準備制度理事会)と対照的なスタンスをとっている。FRBは0.25%の利上げを今年3月に実施したが、以降の利上げ予想も実施回数が引き上がり、利上げ幅も0.5%単位という、通常の倍の幅で加速度的に引き上げるのでは、との見方も出てきている。その中で日銀が金融緩和を続け、円安に火が付いた。これによって、氷河のように固まった日本の物価が融ける可能性もある。日銀が指値オペで長期金利の上昇を抑えてはいるが、マーケットは反応し始め、日銀が許容しているイールド(利回り)の上限に張り付いている。円安でメリットを受ける企業も多いが、日本経済全体としてはマイナスのインパクトを受けていると見ている。  

―海外から見て日本株は「安い」と言われる

 海外投資家の買い越しが続いているが、日本の投資家は慎重だ。特に機関投資家は慎重なので、株価が上がらない状況だ。日本企業の業績は悪化しているわけではないので、円ベースでは下がらないが、反発力が弱く上にも行かない。日経平均株価は2万7,000円前後で上がったり下がったりしている。

-4月4日に新市場区分がスタートした

 マーケットが不安定・不透明な中で今回の市場再編はスタートを切った。一方で、システムトラブルもなく無事にスタートでき、今のところ落ち着いている。話をする機会のあった経営者からもポジティブな評価が多い。
 ただ、これはあくまでスタートラインだ。基準に達しない状態でプライム市場を選択した企業には、かなり大きなプレッシャーとなっている。自ら掲げた適合計画の期間内に改善の努力を続けなければ、プライム市場への上場を維持できない。達成できなければプライム市場から上場廃止になるリスクを抱えている。相当な緊張感をもって企業価値向上や、プライム市場基準への適合を意識した努力をしてもらわなければならない。
 基準に達し、東証1部からプライム市場に移った企業でも、上場維持基準のボーダーライン上にある企業は緊張感が高まっている。

―これまでの海外投資家の評価は

 東証1部の在り方が一番問題視されていたが、そのほかにも東証2部、マザーズ、JASDAQの区分も分かりにくくなっていた。東証1部も大企業が集まっているとは言えないグループになっていた。
 東証1部の全銘柄を集めたTOPIX(東証株価指数)に連動してパッシブ(受動的)な投資をする機関投資家からみると、TOPIXはパッシブ運用のインデックスとして機能性に課題があるとの声もあった。原因は構成銘柄の時価総額が、大きいところではトヨタから、下は10億円強の小さな企業まであり、機関投資家の投資対象になりにくい企業も含まれていたとの認識がある。それについて海外投資家から質問や要望がきていた。
 さらに、東証2部も性格付けが分からないし、JASDAQも多様な企業から構成されている。それらを3つの市場に再編して、それぞれのコンセプトに適合する企業が入るマーケットにした。グローバルな企業を対象とするプライム、それ以外に国内経済を支えるスタンダード、成長力を期待するグロース市場。性格付けをはっきりさせて、整理し直すことが今回の市場再編だ。

―市場再編の経緯は

 2つある。まず、効率が落ちる不安。合理的な考え方に基づいてテレワークが難しい。それからどちらかというと、感情的な理由で、みんなで集まってワイワイするのが好きな経営者が多い。これが重なってしまうと、テレワークは進まない。感情的な理由については、私も話好きなので気持ちは分かる。だが、合理的に考えるとテレワークは効率が悪くないし、うまく使えば生産性をあげられることに気づいてほしい。(出社するための)移動時間がなくなるし、デジタルツールを使うことで今まで以上に情報共有が進んだり、チームワークがしやすくなったり、仕事の引き継ぎも簡単になる。その結果評価もしやすくなる。
 在宅勤務をできる人を増やすと、採用の幅も広がる。今までなら特定の地域に住んでいる人で、例えば1時間以内に会社に来られる人しか採用できなかったのが、全国で採用できるようになる。出社を前提にしないのであれば、北海道の人でも東京の仕事を手伝ってもらえるようになる。採用効率を考えると効率が上がる可能性がある。経営者の方にはここに目を向けて、そこに気づいてチャレンジしてほしい。

―上場維持基準の特徴は

 上場維持基準は、新規上場基準との共通化という考え方を導入した。
 それまでは東証1部への直接上場基準は時価総額250億円以上だったが、マザーズ、東証2部から東証1部に行くときには40億円以上となっており、40億円以上の基準で東証1部に上場した銘柄がかなりある。
 また、上場廃止基準については時価総額10億円となっており、40億円で上場したとしても、10億円となるのは経営状況が相当悪くなっているということだ。ましてや、250億円以上で上場してから上場廃止基準に抵触するのは、何か不祥事を起こしたとか、経営が破たんしたという状態に近い。
 一度上場すると気が緩み、企業価値の向上やガバナンスの向上、株主・投資家との対話など、「市場が何を求めているか」に関心を持たなくても東証1部の看板を使えていた。

―今回から流通株式時価総額の基準を100億円以上とした。また、政策株や持ち合い株を流通株式の定義から外した

 非常に厳しい基準だ。流通株式時価総額のほかに流通株式比率は35%以上と決めているため、逆算すると時価総額は250~300億円ないと流通株式時価総額100億円以上は満たせない。
 時価総額は十分あっても流通株式比率が低いと抵触する、うまくできている仕組みだ。流通株式比率をあげることで達成するか、35%ぎりぎりでも時価総額をあげて流通株式時価総額としては100億円を満たすようにする。努力すれば達成できる道がある。
 一方、時価総額そのものがそもそも100億円に足りない企業もある。本業がしっかりしないと時価総額は上がらない。時価総額そのものが低い場合は、かなり厳しい努力を続けなければならない仕組みになっている。

―2025年から流通株式時価総額100億円以下の企業がTOPIXから外れる

 TOPIXから除外される期限と、今回のプライム市場の経過措置の期限は連動していない。プライム市場の経過措置については、295社(4月4日時点)が適合計画書を出している。流通株式時価総額の基準を満たしてない企業では、5年未満が197社、5年以上が20社という状況だ(1月11日時点)。中には最長で10年の長期の適合計画書を出している会社もある。これについては期限を定めずに適合計画書の提出をお願いした経緯もあり、各企業が立てた期限を尊重している。

―期限を定めなかった理由は?

 金融審・市場構造専門グループの報告書では、「当分の間」経過措置を設けることが適当とされた。なので、計画書に長期の計画を立てたからといって、不適切というわけではない。ただ長期の計画案について「10年は長すぎる」という市場からの声もある。
 経過措置については適合計画書の中身を精査しつつ問題点を整理し、今後、有識者会議を組成して議論してもらう。いろいろな意見が出ると思われるが、どこかの線では切っていく。
 上場維持基準に今の時点では抵触せず、プライム市場に移行した企業の中にも上場維持基準を少ししか上回っていないところがある。このような会社も上場維持基準を割り込んでくると改善の必要がある。それについては3カ月以内に適合計画書を出せば猶予期間を得られる。

(続く)

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