F1の新PU開発成功は「条件」交渉次第?

佐々木朗希の完全試合から新規参戦問題を考える

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自動車F1サウジアラビアGPで優勝し、表彰台で喜ぶマックス・フェルスタッペン=ジッダ(ロイター=共同)

 4月10日、プロ野球で28年ぶりの完全試合が達成された。その日の夜から各スポーツ番組では特集が組まれ、翌日もスポーツ新聞の1面トップを飾ったので、ご存じの方も多いであろう。プロ3年目、20歳5カ月の若さで大記録を打ち立てた、千葉ロッテマリーンズの佐々木朗希だ。

 20歳5カ月での快挙はもちろん、史上最年少。加えて、史上初となるプロ入り初完投試合での完全試合、日本記録を大幅に更新する「13連続奪三振」、日本記録タイの「1試合19奪三振」などを筆頭に、数々の日本記録を更新。まさに圧巻の投球を披露してみせた。

 そんな佐々木であるが、プロ入りした2020年は1軍どころか2軍の公式戦登板もなく、身体作りに専念。2年目の昨年は5月に1軍公式戦初登板すると、その後1年間で11試合に登板し3勝を挙げた。そして、3年目となる今シーズン、3試合目の登板にしてついにプロ初完投となったが、それを完全試合という大記録で成し遂げるのだから「令和の怪物」の異名は伊達ではない。

 衝撃はここで終わらなかった。次の登板となった17日の登板でも8回まで1人の打者も塁に出さないばかりか14奪三振を奪う快投を見せた。球数が100球を超えたこと、味方の援護がなかったことなどから、8回で降板となり世界初となる2試合連続完全試合という大偉業達成はならなかった。

 注目すべきは、佐々木に対するロッテの育成方針だろう。元阪神タイガースの藤川球児さんは(1)おそらく契約前の面談で育成方針まで含んだものにすることが話されたであろうこと(2)こうした特別な契約は日本ハムに所属した大谷翔平など一部の選手だけに適用していること―などとする推測を出演したテレビ番組で口にした。

 もちろん、プロ1年目から大活躍する選手もいる。その一方で、佐々木のようにしっかり育成してから実戦登板させた方が良い場合もある。これは選手個人の身体能力や適応力がバラバラなアスリートスポーツならではだ。

 さて、モータースポーツに話を切り替えよう。モータースポーツでは、上位カテゴリーであればあるほど、突然速く走れるようになることはまず無い。速さの大部分は、マシンの性能に掛かっている。その上にドライバー個人と開発の速さなどチーム能力が上乗せされる形だ。

 F1チームは長いチームで2年、短いチームでも1年近くをマシン開発期間に当てている。今季はマシンのシャシー部分に関するルールが一新された。新たなルール下でもっとも効率的な開発をしたのが現在ランキングトップを走るフェラーリであり、僅差で続くレッドブルだ。対照的に、マシンの速さで大きなアドバンテージを得ていたメルセデスは明らかに出遅れている。

 そのF1では、新たなルール変更への準備が水面下で進んでいる。それが2026年の新パワーユニット(PU)規制だ。そして、6月を予定する新ルール選定を前にした4月7日にフォルクスワーゲン(VW)グループが声明を発表した。同時に、資本傘下にあるポルシェとアウディの2ブランドがF1参戦する可能性があることを明らかにしたのだ。

 参戦の形態としてうわさされているのは、ポルシェはレッドブルにPUを供給し、アウディはマクラーレンを買収してチーム運営にも乗り出すというもの。ただし、この新規参入については各チーム総論賛成だが各論には疑問符もあるようだ。

 ルノー製PUを使用するアルピーヌのチーム代表ローレン・ロッシは、「新たな参加者はスポーツにとって良いことだ。だが、二つのチームが別々のチームであることを確認すべきだろう」と答えており、同じVWグループ資本下にあるポルシェとアウディのPUが技術的にも独立しているかを証明する必要性があると欧州メディアに語った。

 過去を振り返ると、ポルシェとアウディは14年から16年までの3年間、同じ世界耐久選手権(WEC)の最高峰クラスで競ったとき、お互いのエンジンユニットもマシンも完全に別物だった実績はある。

 また、ポルシェにはゼロからPU開発をスタートするのではなく、現在レッドブルが使用している「レッドブル・パワートレーンズ」製PUから部分的でも技術的な引き継ぎを受ける可能性がささやかれている。

 ここについても問題視する声が上がっている。「レッドブル・パワートレーンズ」製PUは、昨シーズン11勝を挙げたレッドブルはホンダの技術を引き継ぎ、技術サポートも受ける“事実上ホンダ製PU”といっていいからだ。実際に、4戦を終えた4月30日現在で既に2勝挙げるなど今シーズンも強さを見せている。

 さらに物事を複雑にしているのが予算問題だ。26年から新たに参入するPU開発チームは、設備投資などに関しては現在のPUメーカーより開発予算を増額するのだ。既存PUメーカーとの技術差を埋めるための措置だが、疑問視する声も聞こえる。

 具体的にはこうだ。昨シーズン一杯でF1を撤退したホンダ製PUの技術をポルシェ製PUが部分的であっても引き継いだとしたら、増額分は開発上のアドバンテージにつながるのではないか―。

 フェラーリのチーム代表マッティア・ビノットはこの点について、欧州メディアに次のように語った。

 「技術的な知的財産の移転は禁止しなければならいが、それをどのように明文化するかが難しい。技術、予算、そして新規参入の定義なども明確にすべきだ。優先順位を決めて話し合い、6月には草案を決めて投票しなくてはならない」

 ポルシェとアウディからすれば、どれだけ有利な条件を新参入メーカーが得られるのかが計画実現の大きなポイントとなる。反対に、メルセデスやフェラーリ、ルノーからすれば条件譲歩は可能な限り少なくしたい。立場に大きな隔たりがあるのは明らかだ。

 冒頭話題にした佐々木朗希はプロでのキャリア3年、一軍登板はわずか14試合目で完全試合を成し遂げた。この成功は藤川球児さんが推測されたように、事前に詳細まで詰めた「育成方針」契約が良い方向に作用したと見るべきだろう。そして、F1でも新PUルールの内容次第では、新規参入チームが少ないレース数でトップ争いに割って入る可能性がある。ただ、あまりにも厳しい条件を打ち出した場合、ポルシェとアウディのF1計画自体が解消される可能性もゼロとは言えない。

 6月に予定している全チーム投票の結果、どのような新PUルールが採用されるのか、ポルシェとアウディの参戦計画の動向も含め、その行方が非常に気になるところだ。(モータースポーツジャーナリスト・田口浩次)