御坊(レズ風俗レズっ娘グループ代表)×三浦ゆえ(ライター&編集者) - レズっ娘グループ15周年を機に語り尽くす「レズ風俗」のいま、これから

レズっ娘グループが当たり前のように実践していることがもっと必要

──レズっ娘グループ代表・御坊さん、そして三浦ゆえさん、それぞれ自己紹介をお願いいたします!

三浦:女性の性と生をテーマに取材、執筆活動をしています。レズっ娘グループとのかかわりは、2016年に御坊さん、そして最ベテランキャストのゆうさんに取材をしたのがはじまりです。そのきっかけは、言わずと知れた、永田カビさんの『さびしすぎてレズ風俗に行きましたレポ』(イースト・プレス)。まず永田さんにインタビューをしたのですが、お話をうかがうなかで「どんなお店なんだろう」と好奇心をくすぐられたんですよね。

御坊:あれからもう6年も経ったんですね。レズ風俗レズっ娘グループ代表の御坊です。2007年にレズっ娘クラブ大阪店をオープンし、今年5月3日で15周年になります。たしか、三浦ゆえさんとの初対面は、文筆家の牧村朝子さんとの対談インタビューが2016年8月ごろにあって、そのときの担当編集さんのご紹介でしたよね。

三浦:そのあとで私から「本を出しませんか?」と提案したんです。そのときは御坊さん、「いつか東京に進出したい!」っていうのを、“夢”として語っていました。

御坊:そうでしたね。実は出版のお話は、いったんお断りしてるんですよ。僕は謙虚なんですね。「自分なんか、まだまだや」って。

──え! そうなんですか! 御坊さんは「ガンガン行こうぜ」タイプだから、二つ返事でOKしてはると思っていました。なんなら企画持ち込みしているくらいのイメージで……。

御坊:自分、謙虚ですから!(笑) 翌2017年5月3日、ロフトプラスワンウエストさんで10周年記念イベントを開催させてもらって、そのときに創業10年を振り返ってスライドを用意してたんですが、ぜんぜん話しきれなかったんですよ。イベント自体は立ち見が出るほどの大盛況でも、自分は不完全燃焼でした。1カ月ぐらい悩んで、これは本を出さなあかんわって、自分から改めて連絡させてもらったんです。
そして、2018年2月に『すべての女性にはレズ風俗が必要かもしれない。』をWAVE出版さんから出させてもらって、それがきっかけでたくさん取材を受け、ウチを知ってもらうことができ、2019年に法人化、そして東京進出の夢も叶えることができました。

三浦:『すべての〜』のタイトル、私はちょっと盛りすぎかな〜とも感じたんですが、ここは攻めよう、と思って決めました。御坊さんは、「かもしれない」じゃなくて「必要!」って言い切りたかったんですよね。私も、いまだったら言い切れると思います。

御坊:変なところトガってましたからね(笑)。あのときブレーキをかけてくれて本当に良かったと思います。ありがとうございます。ただ、やっぱり『すべての女性にはレズ風俗が必要かもしれない。』のレズ風俗も、『さびしすぎてレズ風俗に行きましたレポ』の“レズ風俗”も、レズっ娘グループのことなんですよね。

三浦:レズ風俗が必要、というよりは、レズっ娘グループが当たり前のように実践していることが、もっと多くの人にとって必要なんじゃないかと思っています。たとえば、性感染症の検査結果をもってくると割引になる「検査結果割」は、ほんと営業形態問わず全風俗店がやるべきだし、キャストさんの顔を一切出さないというのもネット社会でのリテラシーを考えるうえで重要だと思います。

御坊:最近知り合った、女性オーナーさんが運営している男性向け風俗店さんも検査結果割を設けてたんですよ。拙著を読んでくれたんだなって思いました。お店に在籍しているキャストらの安全を守ることは、必然的にお客様からの安心や信頼にも繋がると信じてます。なので、キャストの身バレ対策は無視することはできないですよね。新人マニュアルの内容の半数以上が身バレ対策についてです。

三浦:あと、私はライターという職業なので、「ことば」を大事にしているところに惹かれているんだと思います。顔出しがないからこそ、キャストさんは日ごろからブログで文章をつづって発信していて、お客様も「レビュー」をアツくつづる。コロナ禍では「メッセージ+」ができて、これはもう文通の新しいカタチですよね。

御坊:2020年の、最初の緊急事態宣言での営業自粛や、それに伴う多数のご予約キャンセルで大きな影響を受けました。「メッセージ+」はそんなときに、キャストらへの救済企画としてはじめた企画だったんですが、最初の1カ月で217件の依頼があって本当に助かりました。おかげさまで、いまでは常設コースになりました。

“dialogue”が秘める“インナー世間”からの解放

三浦:会えなくても、ことばでつながっていれば安心できるってことですよね。そうやって無数のことばが交わされ、積み重ねられて、ここにしかない文化が形作られたんだと感じます。キャストさんには入れ替わりがあるし、お客様も来る方もいれば去っていく方もいるけれど、ここにいるあいだはひとつの文化を共有している。
最近だと「レズ」「風俗」ということばについて語源をたどったり、海外でどう使われているかをリサーチしたり。ことばを雑に扱わないって、それを使う人のことも雑に扱わないっていうことだと思うんですよね。

御坊:そうなんです。先日「レズ風俗」という呼称についてのブログを2万字書いたんですが、そのきっかけは、今年の2月頃にWikipediaに『レズビアン風俗』が登場したことです。内容に事実と異なる箇所が多かったため、これまで個人的に調べていた資料を元に再度、国会図書館などに出向き調べあげました。まだまだ修正してもらわないといけないと思う箇所はあるのですが、とりあえずレズ風俗の呼称の箇所だけ事実として公開しました。おかげさまで公開から2日後には、Wikipediaも修正されていました。

三浦:さらに「レズ」ということばが同性愛者の女性への蔑称だから「レズ風俗」そのものが適切ではない、という声があちこちから聞かれるようになったのも、ありますよね。「風俗」という語の持つ印象から、お店を利用するのにうしろめたさを感じるというお客様もいらっしゃると聞きました。私は男性向けの性風俗店で働く女性に取材していたこともあり、そのことばを一概に「社会のなかで悪いとされているもの」ととらえていなかったので、特に抵抗は感じていませんでした。でも、女性を搾取することで成り立っているお店も、働く女性を尊重しながら性的サービスと時間を提供するお店も、一緒くたに「フーゾク」と呼ばれていることを考えると、自分のなかで違和感が出てきて。
レズっ娘グループはそこで、「うちはホワイトだからええやん」にはならずに、じゃあ風俗ってことばにはどんな歴史があるのか、いまどんなふうに使われているのかということをたどり、掘り下げ、じゃあ自分たちは使うのか使わないのか、使うとしたらどういう態度で使うのか、と考えるんですよね。

御坊:そうですね。レズビアンやLesbianの語源や定義の変遷や、レズ風俗の歴史や史実を掘り下げるといろんなものが見えてきました。レズビアン風俗の存在自体が曖昧だった時代から女性同性愛者を含む不特定多数のなかから誕生し、2004年にレズビアン雑誌で初掲載され、その後、SEO対策としてウチが名乗りはじめ、永田カビ先生のコミックエッセイの反響で世の中にいっきに普及したということ。語源や定義の変遷を掘っていくと、さらに新たな事実がわかったり、また、それらの事実を自分のブログやイベントで紹介し、みなさんと一緒に“dialogue”していくと、さらに新たな理解がうまれたりして楽しいです。今年5月にネイキッドロフト横浜で開催した無観客有料配信イベント『dialogueレズ風俗をめぐることばときもち』はまさにそんな感じでしたね。

三浦:そのイベントでは、レズという語、風俗という語に違和感やコンプレックスをもっているお客様と、直接、間接にお話できて、答え合わせができた感じがありました。そうだよね、やっぱりそこ引っかかったままでは快適に利用できないよね、という答え合わせ。でもそのなかで、風俗を利用するコンプレックス……たとえば「リアルで誰にも相手にしてもらえないからじゃないか」と思うのって、自分から出てきたことばじゃないと思ったんですよね。世間で言われているようなことを、自分のなかに取り込んじゃってる。「インナー世間」からの声だな、と。

──「インナー世間」ってすごいことばですね。老若男女、誰しもが抱えていそうですが、特に世間体やルッキズムに晒されてきた女性の方は「インナー世間」の声に苦しめられてる人が多そうです。

三浦:インナー世間って、いろんなところで茶々を入れてきます。レズっ娘グループへのお問い合わせにも「オバサンなんですけど利用できますか」と「太っているんですが大丈夫ですか」とか。気持ちはすごくわかるんです。私もインナー世間を内側に抱えていますから。でも、このインナー世間は楽しみたいときに邪魔することはあっても、背中を押すことはない。あんまり耳を傾けすぎないようにしよ、って考えたほうがいいですよね。

御坊:今後も、レズ風俗(=レズっ娘グループ)を利用しない理由や見えないハードルやネガティブなマイナスイメージなどの「インナー世間」からできるだけ解放していきたいです。“dialogue”もその可能性を秘めていると思います。

問題から逃げたり思考停止したらそこで試合終了

──前回のイベント『dialogueレズ風俗をめぐることばときもち』から間髪入れず、2022年5月3日に『Lesbian escort agency』という無観客・有料配信イベントを開催しますよね。今回はレズっ娘グループ15周年記念のイベントということでお祝いムードなのかな? と思いきや「レズ風俗キャスト本人達による真正面からの、より深いレズ風俗トークをお届け」と書かれていて、どこまでも真面目! と思わずツッコんでしまいました。具体的なトークテーマなど決まっているのでしょうか?

御坊:最近のイベントの傾向としては、やっぱり『ことばときもち』についてみんなで語り合うということがベースとしてありますね。イベントに登壇するキャストたちからは基本的には個人が話したいテーマや、またお客様からの質問に対して、みんなで語り合いながら理解を深めていくという感じ……こうして振り返ってみるとイベントって、まさに“dialogue”ですね。

三浦:コロナ禍の前は有観客のイベントが当たり前で、そのときもそこまで直接インタラクティブな対話をしていたわけではないですが、やっぱり会場の空気感や反応で「同じ場を共有しているな」っていうのはありましたよね。無観客だとそれができない……ってことはないんだと、何回かくり返してきたなかでわかって、前回の『dialogue』でよりはっきりしたと感じています。

御坊:自分からは前回のイベント内では話しきれなかったビアンコースの代替案というか、新しい名称について、いまキャストらにアンケートで意見を募っていて、それを発表したいと思います。ビアンコースという呼称については、いままで一度も批判対象には挙げられてはいませんが、個人的には、2007年5月3日の創業当時から15年間提供してきたこのコース名はことばの意味としてもですが、いまの時代にも合っていないんじゃないか、名称を改める必要があるんじゃないかと考えておりました。前回イベントでは視聴者の方から「少なくとも“ヘルス”コース(という名称)よりはマシ」とコメントいただきました。

三浦:ヘルスコースは、たしかにない(笑)。というか、それって男性向け風俗で主に使われていたことばですよね。そういう既存のものにのっかるとわかりやすさもあるとは思うのですが、すでにイメージが固まっているだけに「違う…」と感じる人も当然出てきますよね。いまの空気感でしっくりくることばを、いまのキャストさん、お客様と考えていくのがいいんじゃないかと思います。

御坊:お客様の利用バレやキャストの身バレ的にも改善の余地があるのかなって思ってます。あとは、15年間運営してきて「コレって決めてなかったよね?」というお客様とキャスト双方の安全対策のひとつの提案があるので、イベントで発表したいと思ってます。

──時代に合うかどうか、というのは長くやってきたからこその悩みですね。名称を変えるかどうかということについては、ことばの意味を考え続けアップデートし続ける……という決意を感じます。新しい安全対策の話も、めちゃくちゃ興味深いです。お客様にも一緒に考えていただけると嬉しいですよね。

御坊:人間だれしもそのときの考え方って多かれ少なかれ15年前とまったく同じ考えだったらやばいと思うんですよ。問題がむずかしいからと逃げてしまったり思考停止してしまうと、そこで試合終了ですからね。今後も過去を反省しながら柔軟な姿勢で新たな知識や理解を得て考え方を更新していき、できるだけ自分のいまの考えを発信し続けていきたいと思ってます。

──キャストからは各々が話したいテーマを提案できるということで、登壇キャストも多いからいろんな話がきけそうですね。バラエティ豊かな面々ですが、今回初めて登壇するキャストはいますか?

御坊:ティアラ大阪店の期待の新人キャストめいちゃんですね。イベント配信後、ご指名が増えること間違いなしです。あとは、新人講習兼任キャストのまこちゃん、電撃復帰のほたるさん、ティアラ東京店からももちゃんなど総勢8名のキャストたちが参加します。
ゆえさんにアシストしてもらいながら、キャストらのリアルなことばを通じて、当グループやキャストらそれぞれの魅力を伝え、現在ご利用中のお客様やまだ当店をご利用いただいたことのないお客様たちのなかのインナー世間から解放できるよう、様々な側面からアプローチできるようなイベントにしたいと思います!

──イベントでのおふたりの絶妙なコンビネーションMCも楽しみにしています! ありがとうございました!

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