<社説>施政権返還50年(2)アイデンティティー 公教育にしまくとぅばを

 1972年の施政権返還に伴う「大和世」が続いた半世紀、沖縄人としてのアイデンティティーが揺らいでいる。 本紙が5年に一度実施している県民意識調査によると、しまくとぅばを話せる人は25.4%で、前回調査(2016年)から15.8ポイントも減った。言語の危機は、アイデンティティーの崩壊に直結しかねない事態である。継承、普及への方策として公教育にしまくとぅばを積極的に取り入れる方策が必要だ。

 同調査で、しまくとぅばを話せないと答えたのは72.8%に上る。一方で沖縄の文化、芸能を誇りに思うのは91.5%、県民であることを誇りに思うのは74%に上る。

 調査結果から考えられるのは、沖縄県民としてのアイデンティティーに誇りを持ちつつも、生活の場からしまくとぅばが消えつつあるのではないかという可能性だ。

 言語が消えていく最大の要因は家庭で使われなくなることだ。話者が少なくなる現状で、家庭にしまくとぅば継承の役割を求めるのは困難だろう。公教育でしまくとぅば使用の機会をつくるしかない。

 琉球併合(「琉球処分」)以降の同化政策により、方言札に象徴されるように公の場でしまくとぅばを使う機会は極端に減らされた。発想を転換すれば、公の場でしまくとぅばを使う機会を増やすことが復活への鍵を握るともいえる。

 地域について横断的に学ぶ「総合的な学習の時間」を活用し、しまくとぅばを話す、読む、書くといった授業を取り入れる方法もあるだろう。

 実際の授業を担う人材育成も長期的な視点で進めるべきだ。そのために活用したいのが名桜大が刊行を進める「琉球文学大系」(全35巻)である。研究者だけでなく一般にも分かりやすく「おもろさうし」「組踊」「琉歌」といった沖縄文学を網羅する。

 このテキストを基にしまくとぅば継承、話者確保へ人材育成を図るべきだ。

 消滅危機言語とされたハワイ語は、先住民の言語、文化の学習を必修とし、あらゆる場面でハワイ語を話せる機会をつくる取り組みを続けた。1980年代に18歳以下の話者は35人だったが、現在ハワイ語で教育を受ける生徒は3千人を超えた。

 ハワイでどのように言語を復興できたのか、具体的な手法を学び、沖縄でも取り入れる必要がある。

 言語は自らの意思、感情、思想を具体化して他者に伝達する役割がある。しまくとぅばには、例えば「ちむぐりさ」など日本語ではニュアンスを伝えにくい表現もある。外へ向かって発信するのに言語は決定的に重要なのだ。

 施政権返還から50年、さらに次の50年を展望するに当たり、沖縄の意思を自らの言葉で発信する場面はさらに増えていくだろう。

 言語はアイデンティティーの核であることを改めて県民とともに確認したい。

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