興南高校の新入生が毎年受け取る「ひめゆり本」 贈り続ける元理事長の思い

 毎年、興南高校の新入生が受け取る1冊の本がある。沖縄戦に動員された県内21全ての中等学校・師範学校を紹介する「ひめゆり平和祈念資料館資料集4 沖縄戦の全学徒隊」。贈っているのは、弁護士で元興南学園理事長の知花孝弘さん(87)。ひめゆり関連の本を贈って32年目になる。「君たちの先輩はこのように命を絶たれたと伝えておかないと、戦争を忘れてしまうことになる」。10代半ばの学生が動員され、亡くなった沖縄戦を今の世代に伝えていく大切さを感じながら、本を贈り続ける。

 知花さんは1985年に興南学園の理事長に就任し、在任中の1991年から、自費で故・仲宗根政善氏の「ひめゆりの塔をめぐる人々の手記」を贈り始めた。2021年から「沖縄戦の全学徒隊」を贈っている。

 沖縄戦では、ひめゆり(沖縄師範学校女子部・県立第一高等女学校)を含め、21の中等学校・師範学校から約2千人の学生が動員され、千人近くが亡くなったとされる。ひめゆり学徒隊の引率教員だった仲宗根氏は教え子を失った深い悲しみと後悔を抱え、同学徒隊生存者の手記を本にした。 知花さんは本部町伊豆味出身。沖縄戦で家族と沖縄本島北部の山中を逃げ回った。名護の米軍収容所を経て、伊豆味へ戻った。学校では、同郷でひめゆり平和祈念資料館の前館長の島袋淑子さんから教わった。実母や義母も沖縄師範学校女子部の出身で、縁を感じてきた。両親は教員で、仲宗根氏と同様「教え子を戦場に行かせてしまった」と悔やんでいた。

 知花さんがこれまでに贈呈した本は、興南学園によると「ひめゆり―」は約8500冊、「沖縄戦の全学徒隊」は772冊。中学に贈っている別の本も合わせると1万3千冊近くに上る。沖縄戦から77年。記憶が薄れ、新たな戦争に懸念を強める知花さんは「戦争は絶対にしてはいけない。沖縄の未来を切り開いてほしい」と思いを託す。

 興南学園の我喜屋優理事長・校長は「沖縄戦を体験していない世代が大半を占める社会において、過去・現在を踏まえ、将来の社会を生き抜く生徒の糧になればと心から思う」とコメントを寄せた。 (中村万里子)

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