【コラム】マカオのカジノ事業者が負担する公租公課はどのくらい?(WEB版)/勝部悠人

国や地域がカジノの運営を認める、あるいは新たにカジノを誘致する大きな目的として、カジノ事業者が負担する公租公課による財源の確保が挙げられる。

マカオ特別行政区の場合、コロナ前の歳入に占めるカジノを源泉とする公租公課の割合は約8割を占めた。2019年で約4.4兆円という世界最大のカジノ売上(Gross Gaming Revenue=GGR)を誇ることから、その額も膨大となる。

ここまで、「カジノ税」とはあえて書かず、公租公課としたのには理由がある。マカオのカジノ税率は「約40%」で世界一高いというフレーズを見聞きすることも多いが、この「約」という部分がポイントだ。理由を下記にまとめていきたい。

まず、マカオのカジノ事業者が負担する公租公課は、①カジノ税、②ゲーミング税、③ライセンス料の大きく3つに分けられる。

世間一般にマカオのカジノ税として語られるものは①にあたる。GGR(掛け金の総額から客への払戻金を引いたもの)の「35%」が一般財源、「1.6%」が公共財団であるマカオ基金会への拠出金(文化、社会、経済、教育、科学、学術、慈善活動用途)、「2.4%」が都市インフラ整備、観光振興、社会保障のための特定財源へそれぞれ充当され、合計すると「39%」となる。なお、6つの事業者のうち、SJMのみ一定量の浚渫作業を行う代わりに特定財源への「2.4%」が「1.4%」に減免されているため、合計は「38%」に。分母が大きいだけに、1%の差はたいへん有利といえる。

②のゲーミング税は、ゲーミングテーブル及びスロットマシンの設置台数に対して課せられるもので、1台あたりの年額はVIP用テーブルが30万パタカ(約454万円)、マス用テーブルが15万パタカ(227万円)、スロットマシンが1000パタカ(1.5万円)。③のライセンス料は1社あたり年額3000万パタカ(約4.5億円)。②と③はいずれも一般財源に充当され、合わせてGGRの1%程度の規模となる。

整理すると、比例負担である①と②の「39%」に、定額負担の③を「約1%」として加えたかたち(つまり、GGRに占める負担率)で、「約40%」という数字が出てくるというわけだ。2019年のGGRに当てはめると約1.8 兆円に上る。

①について、ラスベガスを擁する米国ネバダ州、シンガポールと比較すれば、前者は累進課税で5万米ドル(約612万円)以下が3.5%、5万~13.4万米ドル(約612万~約1642万円)が4.5%、13.4万米ドル(約1642万円)超が6.75%、シンガポールはVIP客分が5%、マス客分が15%で、いずれもマカオより大幅に低い。一方で、ネバダ州とシンガポールでは、背面調査に必要な費用の実費徴収や法人税と州売上税(ネバダ州)/法人税と付加価値税(シンガポール)の租税負担があるが、こういったものはマカオでは無しとされている。また、マカオの②にあたるものは、ネバダ州があり、シンガポールは無し。これらを踏まえた概算のGGRに占める負担率はネバダ州が約20%、シンガポールが約30%となる。前号の本コラムにて、コロナ政策の違いによってラスベガスとマカオのGGRの明暗が分かれていることをご紹介させていただいた。ゼロコロナ政策を堅持するマカオでは、インバウンド旅客数の回復が進まず、GGRも低迷している。昨年のGGRはコロナ前水準の約3割にとどまり、大きな財源が失われることとなった。上述の通り、マカオ特別行政区はカジノを源泉とする公租公課への依存度が極めて高く、2020年、2021年は財政準備の一部を切り崩して財政赤字を補填せざるを得なかった。ほかにも、マカオ基金会の積立金を活用した経済支援が実施された。コロナ前までに潤沢な財政準備や積立金を築けていたことが奏功したといえ、コロナ禍にあって、かつてのカジノによる貢献が光ったかたちだ。まさに、備えあれば憂いなしである。

しばしば質問を受けることがあるので補足するが、マカオは中国の一部ではあるものの、会計はマカオ内で完結しており、中国中央への上納金のようなものは存在しない。

現行のマカオのカジノ経営コンセッションは今年6月26日に満期を迎え、次期コンセッションに向けてカジノ法改正の手続きが進められている。公租公課に関しては、ここまでに判明しているところで①の「35%」の部分は不変とされるが、その他は具体的な数字がクリアになっておらず、追って明らかになる見込み。現行コンセッションがスタートした20年前と比べてマカオのカジノオペレーターの存在感は増しており、公租公課の面でも一層の貢献を求められる可能性は十分にあるだろう。

日本版IRを考える際、経済効果と一括りにしては漠然としており、GGRに占める負担率が海外と比較して高いのか低いのか、また新たに生まれる財源をどのように有効活用できるのかなどに注目したい。

マカオ・コタイ地区のIR群=筆者撮影

■プロフィール
勝部 悠人-Yujin Katsube-「マカオ新聞」編集長
1977年生まれ。上智大学外国語学部ポルトガル語学科卒業後、日本の出版社に入社。旅行・レジャー分野を中心としたムック本の編集を担当したほか、香港・マカオ駐在を経験。2012年にマカオで独立起業し、邦字ニュースメディア「マカオ新聞」を立ち上げ。自社媒体での記事執筆のほか、日本の新聞、雑誌、テレビ及びラジオ番組への寄稿、出演、セミナー登壇などを通じてカジノ業界を含む現地最新トピックスを発信している。

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