島原鉄道 30年間の赤字脱却へ サイクルトレイン、カフェトレインなど試行錯誤

「CYCLE TRAIN」のヘッドマークを付けた列車(島原鉄道提供)

 島原鉄道(長崎県島原市)が、自転車をそのまま積み込めるサイクルトレインの運行や地元企業とのコラボ商品開発など、次々に新企画を打ち出している。背景には主力の鉄道事業が約30年間赤字という現実がある。沿線の人口減少が続き、新型コロナウイルス感染拡大も追い打ちをかけ、同事業の年間売り上げはコロナ禍前と比べ約3割減った。赤字脱却への糸口が見えない中で、試行錯誤が続く。

◇観光ツアー

 3月12日、島原駅。「CYCLE TRAIN」のヘッドマークを付けた諫早行き列車に、11人が自転車を押して乗り込んだ。2両編成のうち1両が積載専用。ベルトで自転車を固定できる。初運行のこの日は「安心」「(自転車を)分解する手間が減り、気軽に乗車できる」と好評を得た。
 自転車の積載は事前予約制。島原港-諫早を土日祝日に1日2往復し、全24駅のうち観光地周辺などの8駅で乗降できる。
 県島原振興局と熊本県の天草地域観光推進協議会が昨年3月、両地域にまたがる潜伏キリシタン関連遺産などをサイクリングで巡るモニターツアーを実施。こうした観光と組み合わせたサイクルツーリズムを推進する動きに歩調を合わせた格好だ。
 サイクルトレイン利用はまだ20件程度だが、2023年度には南島原市の島鉄南線跡地(加津佐-深江、総延長約32キロ)が自転車歩行者専用道路へと生まれ変わる。島鉄担当者は「コロナ禍で鉄道利用者を増やすのは正直難しい。廃線路への自転車道整備に期待したい」と話す。

サイクルトレインに自転車を積み込む乗客=島原市片町、島原駅(島原鉄道提供)

◇半島産野菜

 既に集客効果が出ている企画列車もある。19年4月に運行開始したカフェトレインは、車窓から有明海や田畑を眺めながらランチやスイーツを楽しめる。初年度の利用は1340人。コロナ禍にもかかわらず21年度は1804人と増加傾向にある。旅行会社を通した団体ツアー利用が拡大し、売り上げは初年度から約100万円増えた。
 オリジナルグッズ販売も好調だ。地元小売業者と開発した島原半島産野菜などの詰め合わせセットは約140万円を販売。21年度は48商品をラインアップし計約650万円売り上げた。

◇地域に残す

 島鉄はバスやフェリー、ホテル、不動産賃貸など幅広く事業を展開している。ただ主力の鉄道経営を巡る環境は厳しい。
 1990年からの雲仙・普賢岳噴火災害で線路を分断されるなど復旧経費がかさみ、運賃収入も沿線人口の減少に伴い低迷、93年度から赤字が続く。2018年には長崎自動車(長崎市)の子会社となった。
 コロナの影響を受けた20年度決算によると、全事業の営業収入は約13億8860万円と前年度の7割程度。純損益は約7240万円の赤字となった。鉄道輸送実績は約100万人と8割程度に落ち込んだ。
 島鉄は、地域に鉄道を残すには抜本的な収支改善策が不可欠とみる。それが、線路などは自治体が管理し、島鉄が運行を担う「上下分離方式」。県と島原半島3市、諫早市でつくる連絡協議会などに導入を要望し続けている。
 島鉄の吉田祐慶取締役鉄道部長は「いよいよ鉄道維持が厳しい。上下分離方式の議論を進めてほしい」と訴える。これに対し島原市担当者は「コロナ禍での支援の在り方について議論を本格化させている。ただ上下分離方式は沿線市の財政負担が増えるので別の方法を探りたい」と慎重姿勢を崩さない。
 島鉄の永井和久社長は「地域の足としての役割を守るため、観光列車の運行や物販にも力を入れ、新たなファン獲得と利用促進につなげたい」と語る。


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