家族の幸せぶっ壊すために住居侵入 繰り返す罪 「一緒にやり直しませんか」 第2部 更生とは何か・1

「一緒にやり直しませんか」。伊豆丸の言葉に、西川は心を動かされた(写真はイメージ)

 7年前の夏。伊豆丸剛史が面会で訪れた佐世保刑務所の一室には、窓から明るい日が差していた。
 机を挟んだ向かいに、刑務官に連れて来られた男性受刑者が、緊張した面持ちで座っている。
 伊豆丸は場の雰囲気を和らげようと、ゆっくり笑顔で話し始めた。「僕たちはね、帰り先がなく不安に思っている人に受刑中から関わって、出た後の住むところを探し、社会に出た後も寄り添っていく、そんな福祉の仕事をしています」
 伊豆丸は当時、長崎県地域生活定着支援センターの所長。社会福祉士の資格を持つ福祉の専門家だ。
 伊豆丸が事前に目を通した資料によると、目の前に座る西川哲弥=仮名、当時(40)=は常習累犯窃盗罪で懲役3年8月の判決を受けていた。軽度の知的障害がある。刑務所は6回目。40歳にしてはハイペースだなという印象を受けた。
 前回の刑務所では、他県の定着支援センターの支援を受けたが、出所後に住み込みで働いていた施設を3カ月で飛び出し、再び空き巣を繰り返した。
 伊豆丸は率直に尋ねた。「4回目の出所までは独りぼっちでつらかったですよね。でも5回目は違いますよね。せっかくセンターがサポートして希望した福祉の支援も受けてたのに、なんで飛び出しちゃったの」
 西川は、ぽつりぽつりと答え始めた。
 「(働いていた)施設にあんまり歓迎されていない気がした」
 伊豆丸は気になっていた。「なぜ、ずっと住居侵入や窃盗を繰り返すの?」
 「窃盗を始めたのは小学生の時。同じ養護施設の悪友のターゲットにされ、殴られるのが怖くて、命令されるまま窃盗していた。最初は怖かったけど、だんだん感覚がおかしくなって、ある時からお金目的に住居侵入するようになった」
 「でもある時、侵入した家で気付きました。そこは、まだ朝ご飯の後の匂いとか、生活の匂いとかが残っていて、壁には幸せそうな家族の写真とか飾られてて、ここには自分が一度も経験したことのない、家族の幸せがあるんだって。もうめちゃくちゃにしたくなった。だから、その幸せをぶっ壊すために住居侵入をしてきた」
 伊豆丸は言葉を失った。「そんな思いだったのか」。心を揺さぶられた。支援を受けていたのにどうして罪を繰り返してしまったのか-そんな未熟な質問をしてしまった自分のふがいなさを恥じた。
 西川は続けた。「40歳という節目、もう打ち止めにしたい気持ちがあり、今ここにいる」
 伊豆丸は同い年の西川を自分と重ね合わせた。「僕はあなたのお父さん、お兄さんにはなれないけど、あなたは長崎に縁もゆかりもないけれど、僕たちの定着支援センターの近くに住まいを探すから、出所したら一緒に長崎でやり直しませんか」
 「はい」。目を真っ赤にした西川を見て、伊豆丸も目頭が熱くなった。
 約半年後。西川は出所し、住まいが見つかるまでいったん、長崎市の更生保護施設に入所した。だが、伊豆丸の思いはむなしく、1カ月後に西川は所在が分からなくなった。そして、また空き巣を何十件も繰り返していた。
(敬称略、連載2へ続く)

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