無交換か、2輪交換か、かつてない探り合いの450km戦。燃費もカギに【第2戦富士GT300プレビュー】

 スーパーGT第2戦富士『FAV HOTEL FUJI GT 450km RACE』は未知なるレース距離、450kmで争われる。決勝では『最低2回の給油』のみが義務付けられているだけで、その2回のピットでのタイヤ交換やドライバー交代の有無には大きな選択肢が与えられており、今回はGT300でも空前の“戦略レース”が展開される可能性が高い。

 搬入日の富士で、上位進出が期待されるいくつかの陣営に、前戦・岡山の振り返りを含め話を聞いた。

 まずは岡山でポールポジションを獲得した、王者SUBARU BRZ R&D SPORT。昨年の第2戦富士500kmレースではポールポジションから、決勝2位表彰台を獲得している。

 今季開幕戦ではダンロップ勢が予選でトップ3を独占。しかし決勝では一転、ヨコハマの強さが際立つかたちとなった。井口卓人は、「何周かは良かったのですが、グリップダウンというか、落ちはそこそこありました」と第1戦決勝を振り返る。

「とはいえ優勝した56号車(リアライズ日産メカニックチャレンジ GT-R)は圧倒的に速かった。(それ以外の)周囲のクルマに対しては戦えていたところはあったと思う」ということで、ダンロップタイヤのロングランに対してはあまり心配はしていないようだ。

 岡山ではピットアウトする際にエンジンがかからずタイムロスを喫したが、「あれは言ってみれば人為的なミス」(山内英輝)と原因は明確になっており、この部分もクリアのよう。それよりも「給油時間が長くて、普通にピットアウトできていたとしても、5番手くらいの位置だった。それが今回は2回もあるかと考えると……震えますね」と、燃費の部分を気にかけている。

 ピットウインドウは(燃料タンク容量含めた)燃費性能に左右される部分が多く、井口は「できるクルマは10周くらいで1回目のピットに入って、ドライバーはそのまま行ったりするんじゃないですか。僕らは(燃費的に)無理なのですが」という。

 燃費と同時に、今季変更されたBoP(性能調整)にも不安があり、エンジンパワーが抑制されているなか、集団内での走行では苦戦を強いられることも予期していると、ドライバーのふたりは口をそろえる。

 また、昨年新型のBRZへと改められてから、2輪交換は1度しかしておらず、それも失敗に終わっているが、「でも、(2輪交換や無交換を)やらないと、おそらく勝負できないですよね」(井口)と、タイヤ戦略を絡めることも、上位フィニッシュには必須であることを示唆している。

■UPGARAGE小林崇志「ウエイトを積んでいても上位にいけると思う」

 続いて、開幕戦で2位に入ったUPGARAGE NSX GT3陣営。公式テストでも好タイムを残しており、またホンダNSX GT3と相性のいいコースであることからも、富士でも引き続き強力なパフォーマンスを示す可能性はある。

 気になるのは45kgというサクセスウエイトの影響だが、小林崇志は「岡山では特別BoPで50kgくらい積んでいましたが、それとほぼ同じウエイトを積むことになったので、岡山のフィーリングそのままで戦えるという面はいいかなと思います」と語る。

 開幕戦では「ロングランでのタイヤの摩耗はあまり綺麗ではなかった」と若干課題は残る結果となったようだが、「今回は長いレースで、いろいろな戦略がとれる。それをしっかりやれば、ウエイトは積んでいても上位にいけると思う」と小林は自信を見せる。

 ただし「チームの誰も、2位になるとは思っていなかった」と、開幕前の富士テストではここまでのウエイトは搭載していなかったという。

 今回の戦略には「全部無交換です(笑)」と冗談めかすが、「すべて対応できるように準備はしている」という。

「(従来の500kmから)50km短くなったことで、無交換や2輪交換をできるチームは増えていると思うので、みんなどんな戦略をとってくるんだろうって探り合いながら、臨機応変にストラテジーを考えながら走るしかないのかな、と思います」

 NSXも燃費的には「めちゃ悪いです」(小林)とのことで、戦略の幅はそれほど広くはないようだが、ルーキーの太田格之進は初戦からGTのレースとマシンに適合できており、ドライバー・ストラテジーの面では問題がなさそうなことは好材料と言えそうだ。

2022スーパーGT第2戦富士 UPGARAGE NSX GT3(小林崇志/太田格之進)

■ARTA武藤英紀「方向性は定まった感はある」

 続いて、同じNSX陣営から、ブリヂストンタイヤを履くARTA NSX GT3陣営をみてみよう。パッケージとしては過去にも好成績を残している富士だが、今季はドライバーが2名とも変更となっている。

 いまやベテランという立場でチームに加入した武藤英紀は、自身のマシンへの習熟について「半分くらいですかね」と口にした。

「結構、難しいんですよ。重量がありますし、タイヤも長年履いてきたメーカーとは異なりますし、テストが多いわけでもないですし。とはいえ、この前(第1戦)の決勝を走って、だいぶモノにはしてきたかなと思います」

 武藤が感じるこのパッケージの強みは、やはりブリヂストンタイヤのロングランでの安定性だという。

「どの条件で走っても、決勝用のシミュレーションでは調子いいですね。他社(タイヤ)が20周くらいして落ちてくるときに、自分たちは同じペースを維持できる。スティントの後半はいつも調子いい感じですね」

 一方で課題は予選の一発だといい、そこはダンロップ、ヨコハマというライバルが「すごい上がっている感がある」と武藤。

「決勝は間違いなく調子いいので、少しでも予選で前に出られれば、かなり勝負権はあると思っています」

 コンビを組むGTルーキーの木村偉織について武藤は、「落ち着いて、頑張ってやっていましたよね」とその初戦を評価する。

 最後は他車に追突する形で接触してペナルティを受けたが、「本人はすごく反省していましたし、(車載)映像で見ても結構難しい状況だというのは想像できました」と武藤はフォローする。「相手には申し訳ないですけど、早い段階でああいうルーキーミステイク的なものを経験できてよかったのかなと思いますね」。

 ARTA NSX GT3は富士直前に行われた鈴鹿でのタイヤメーカーテストにも参加しており、「(Evo22に)アップデートされたクルマに対するバランス取りも、かなり方向性は定まった感はある」とのことで、ベースのポテンシャルが向上していると見られる。

 車両、ドライバーの両面で開幕戦からパフォーマンスアップを果たしたARTA NSX GT3が、富士でどんなレースを見せるのか、注目したい。

2022スーパーGT第2戦富士 ARTA NSX GT3(武藤英紀/木村偉織)

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 このほか、富士テストでも好調で、燃費もいいと噂されるPACIFIC hololive NAC Ferrariや、JLOCの2台のランボルギーニも開幕から引き続き注目の存在だ。タイヤ戦略を絡めるとなれば、埼玉トヨペットGB GR Supra GTの動向からも目が離せない。代役として登場する菅波冬悟の走りも気になるところだ。

 また、開幕戦で優勝したリアライズ日産メカニックチャレンジ GT-R、同じく3位表彰台に立ったLEON PYRAMID AMGも、安定感を武器に上位を狙ってくるはずだ。さらにオフのテストから開幕戦では苦戦を強いられている、昨年富士の“ダブル・ウイナー”であるSyntium LMcorsa GR Supra GTも、復調すれば上位に絡む存在となりそう。

“チーム力”が試されることになりそうな、初めての450kmフォーマット。GT300の各陣営は、かつてない“探り合い”をしながらの戦いを強いられることになりそうだ。

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