海外との比較から学ぶ国民投票のルール(原口和徳)

5月3日は憲法記念日です。

衆議院では憲法審査会が毎週開催されるなど、憲法に関する活発な議論が行われています。

このまま憲法改正の国民投票が行われることになるかどうかはわかりませんが、いざ、実施されることになった際のルールを把握しておくために、他国の特徴的な事例と比較しながら日本の制度を確認してみましょう。

韓国:日本の半分以下の期間で結果が出ます

日本では、国会が憲法改正について国民への提案を決めた日から「60日以後180日以内」の国会が議決した期日に国民投票が行われます。

改正案が国会を通過した後2か月以上6か月以内に実施する(オーストラリア)、投票期日の4か月前には投票に付す案件を決定しなければならない(スイス)など、日本と同程度の期間を確保する国がある中で投票期日までの期間が非常に短いのが韓国です。

韓国では、憲法改正案が国会を通過した後30日以内に国民投票に付されることとされています。

スイス 日本では国会発議のみだけど、スイスでは国民からの提案もできます

日本では憲法改正案は国会から国民に提案されます。

スイスでは連邦議会による発案に加え、国民発案によって改正案を提出することが可能です。国民による発案は全人口の1%強にあたる10万人の有権者の署名があると実施できます。発案の内容にも特徴があり、「完成された改正案の提出」だけでなく、「特に具体的な改正案を提示しない一般的な提案」も可能です。

なお、一般的な提案が行われ、国民投票が行われることになった場合は連邦議会で改正案を作成することになります。

ニュージーランド 国籍を有していない人も投票可能

日本の国民投票では、満18歳以上の日本国民が投票権を持ちます。

他国の事例でも有権者は自国民に限る国が多いのですが、ニュージーランドは違います。

ニュージーランドでは、18歳以上のニュージーランド国民に加えて、永住権保持者で、過去に1年間以上継続的にニュージーランドに居住したことがある人は有権者になることができます。

ポルトガル 投票率によって投票結果の影響力が変わります

日本では定めがありませんが、国民投票が成立するための投票率による条件を設定している国もあります。

韓国では、憲法改正の国民投票の成立要件について有権者の過半数という最低投票率が設けられています。

また、投票率が国民投票の影響力を変更することもあります。

ポルトガルでは有権者の過半数の投票がない場合、国民投票は成立するものの、その結果は法的拘束力を持たない諮問的なものとなります。

他にも、国民投票に効力をもたせるための条件として有権者全体の一定割合以上の賛成が必要という「絶対得票率」をもつ国があります。例えば、デンマークでは、憲法改正国民投票を可決させるためには、投票の過半数且つ有権者総数の40%以上の賛成が必要です。リトアニアでは改正対象の条文によって条件が異なるものの、一番厳しい条文では有権者の4分の3以上の賛成が必要とされています。

スロバキア 否決されたら同じ内容は3年間国民投票にかけられません

国民投票で否決された同一案件を再度国民投票の案件とすることに対して凍結期間を設けている国があります。

イタリアでは国民投票により憲法改正案が否決された場合、同趣旨の憲法改正案の審議は6か月の間、凍結されます。同様に、エストニアでは1年間、スロバキアでは3年間、再び同一の案件での国民投票を行うために凍結期間が求められます。

フランス 選挙と同じルールで実施します

日本では戸別訪問や20時以降の屋外での活動、ビラやポスターの自由な配布、掲載も可能になるなど、国民投票は各種選挙と比べて活動に対する規制が著しく少なくなります。

図表1_国民投票における運動の規制

フランスでは、国民投票運動の規則は各種選挙の規則を準用する形で行われます。例えば、日本では自由に掲示できるポスターも各市町村が確保した定められた場所以外には掲示できなくなります。また、インターネットを用いた情報発信についても、その内容が投票の結果に影響を与えかねない不正確なまたは事実に反する主張である場合は、一定の手続きの下で情報の発信者が国内の者であるか国外の者であるかを問わずに配信を停止させることができます。

イギリス 支出可能な費用への制限と使途公開の義務

日本の国民投票では活動に投じる費用に対する制限がありません。また、活動する主体に対する制限もないため、外国企業などが「賛成」や「反対」を呼び掛ける国民投票運動を実施することが可能です。

日本と同様に外国企業が寄附等を実施できるエストニアで行われたEU加盟に関する国民投票(2003年)では、外国大使館や民間の財団など様々な主体が寄附を行い、賛成派が集めた資金は反対派の20~30倍にも上るものとなりました。

これに対して、イギリスの国民投票では一定金額以上の資金を使って活動する個人・団体は選挙管理委員会への登録が必要となり、国民投票実施後には収支報告を行う必要があります。また、支出することのでき金額にも上限が設定されています。

ほかにもあります。様々な国民投票のルール

投票をしなかった人への罰金(オーストラリア)、投票運動を行う賛否両派の代表団体への費用助成(イギリス)、賛否両派への平等な無償放送枠の割当(イギリス、フランス等)、有償CMの禁止(イギリス、フランス等)など、様々な工夫がされています。

また、現在日本ではCM規制のルール化について提起されることがありますが、インターネット上での投票運動規制に関するルール化の必要性を訴える事例もあります。

イギリスで2016年に実施された選挙、国民投票において、投票運動の広告費用全体のなかでデジタル広告が占める割合は32.3%と大きな割合を占めるものでしたが、広告内容に対する効果的な規制がなかったため、統計の誤用や虚偽情報の使用、対象者を定めた詐欺的行為も実施されたと報告されています。(出所:「英国のレファレンダムにおける投票運動規制―その現状とインターネット上の投票運動への導入に向けた動向―」)

国民投票における広報放送の具体案など、日本における国民投票のルールは実施にあたっての詳細なルールが定まっていない部分も多くあります。そのため、憲法改正案の内容に加えて、具体的な実施方法もこれから詳細化が図られることになります。 その際には、総務省による国民投票制度の解説ページにおいても言及されているように、国民投票が「国民一人ひとりが萎縮することなく自由に国民投票運動を行い、自由闊達な意見を闘わせること」のできる機会となるよう、他国の事例から学び、よりよいルールを作っていくことが望まれます。

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