もし憲法改正の国民投票が実施されることになったら……国政選挙のルールと比較すると(原口和徳)

ウクライナ情勢や新型コロナウイルスへの対応などを契機に、国会でも憲法改正に関する協議が活発に行われています。

そこで、仮に憲法改正の国民投票が実施されることになった場合子どもたちに起こりえることを、国政選挙のルールと対比しながら確認してみましょう。

18歳以下の子どもも国民投票運動を実施できます

選挙運動は、18歳未満の者は行うことができません。

一方、憲法改正国民投票では、改正案に対する賛成/反対を呼び掛ける国民投票運動の実施者に対する年齢制限がありません。そのため、国政選挙等で選挙運動を行うことのできない18歳未満の子どもも国民投票運動を行うことができるようになります。

憲法改正の国民投票が行われる場合、制服を着た子どもたちから、憲法改正案に賛成/反対の投票することを呼び掛けられるようになることもあり得ます。

アルバイトとして国民投票運動に参加することもできます

選挙運動では、労務者以外は報酬を得ることができません。

具体的には、ビラ配りや電話かけ等をアルバイトとして行うことが禁止されていることがよく知られています。

一方、国民投票運動では異なります。

国民投票運動ではビラ配りや電話かけを行いその対価として報酬を得たとしても、その行為だけでは罰せられることはありません。また、国政選挙に関連し、クラウドソーシングのサイトに特定の政治思想に基づく有償での記事制作の募集が掲示され話題になったことがありますが、国民投票運動で同じような活動が行われ、子どもたちが応募したとしても法律上の問題は生じません。

先述のように国民投票運動には年齢制限がありませんので、子どもたちがアルバイト先の1つとして国民投票運動を選択することもあり得る状況です。

戸別訪問や夜間の活動も可能になります

選挙では、戸別訪問や20時以降の夜間の活動、街頭での演説行為などが制限されます。

国民投票運動では、これらの活動に対する制限はありません。そのため、長時間、大規模な街頭演説会を開催したり、複数のスタッフがビラやチラシを配布しながら商店街などを練り歩くことなども可能です。

図表1_国民投票における運動の規制

国民運動実施者が制限なく資金を支出できます

選挙運動では、候補者に対して支出可能な金額の制限が設けられています。

一方、国民投票では、活動実施者に対する資金規制は設けられていません。また、想定される運動期間も選挙が衆議院12日間、参議院17日間であるのに対し、国民投票は最短で60日間と大幅に長くなります。

国民投票運動でアルバイトすることが可能な中で、運動に対する資金の規制(上限)がないことや活動期間が長いことは、大規模な活動が計画される可能性を高め、結果として子どもたちがアルバイト先の候補として国民投票運動を選択する可能性を高めます。

インターネットを用いた広告、情報発信が自由に行われます

選挙運動のためのインターネット広告は政党によるバナー広告等を除き、原則禁止されています。

一方、国民投票運動ではインターネット広告に関する規制はありません。結果として、インターネット、特にSNSの利用履歴等に基づき特定の主張に関連した情報が繰り返し表示、レコメンドされるようになる状況も生まれえます。

この際、表示される中にはフェイクニュース(ディスインフォメーション)も含まれる可能性があります。例えば、EU離脱を巡る国民投票(イギリス。2016年)では、EU離脱派が誤った情報発信を行い、SNSなどを通じて拡散され、国民投票の結果に大きな影響を与えたことなども報じられています。

また、アメリカ大統領選挙でも、SNSの利用データから有権者の投票行動を操作・誘導するようなターゲティング広告が行われた可能性が指摘されたこともあります。

SNSなど、子どもたちの生活になくてはならないものを通じて、子どもたちが知らない間に特定の主義、主張に基づく投票をするように誘導されてしまう可能性があります。

大人と同じ環境で模擬投票などを実施できます

国民投票運動では、インターネットを通じて特定の主張に導かれる可能性がある中、対抗策として期待されるのが主権者教育です。

選挙では、実際の選挙を題材に模擬投票を企画したとしても、教材として政見放送を使用することや、選挙結果が出る前に模擬投票の結果を明らかにすることはできません。

一方、国民投票では、政見放送に相当する存在である国民投票広報協議会の作成する「憲法改正案及びその要旨その他参考となるべき事項を広報するための動画」を模擬選挙の教材として使用することができます。また、結果の公表も投票期日を気にすることなく実施できます。

主権者教育によって子どもたちの政治的教養を育むための条件として、現実の政治課題を取り扱うことの重要性が指摘されることもあります。

国民投票では、大人たちと同じ時期に同じ情報を見て、模擬投票を行い、学びを得ることができるようになります。

また、大人(教育関係者)の側も、政治的中立性に配慮した授業の実践や、アルバイトなども含めた生徒たちの生活、学習環境の整備などに取り組んでいく必要があります。

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国民投票の実施方法については、国会において議論の俎上に挙がっているCMに関する規制や、インターネットのように法案制定時とは状況が大きく変わったために新たなルールの検討が必要なものなど、これから具体的な制度化が進められていくことになります。

子どもたちを取り巻く環境においても、選挙の時とは異なったルール作りが求められます。

国民投票の実施が確実に見通せるようになってから、授業の準備や校則、指導方針の見直しをすればよい、と考えていると、現実の変化に対応できなくなる可能性もあります。

憲法改正の国民投票が、未来の有権者である子どもたちにとっても自由に自分の意見を表明し、この国の未来を選び取っていく機会となるように、今後さらなる情報発信の強化や教育現場での準備が進められていくことが期待されます。

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