CO2排出量実質ゼロを目指して 再エネ・水素・バイオ燃料……鉄道事業者の施策あれこれ【コラム】

阪急・阪神・東急が東西協働でSDGsをテーマに掲げたラッピング列車を運行しています。写真は東急電鉄のSDGsトレイン『美しい時代へ号』

「カーボンニュートラル」とは「温室効果ガスの排出量と吸収量を均衡させる」こと。CO2の排出量をなるべく抑えつつ、植林や森林管理でCO2を吸収することで差し引きゼロにするというものです。

政府は2050年までにカーボンニュートラルを目指すことを宣言しており、鉄道事業者もこれにあわせて環境長期目標を定めるなど、CO2排出量削減の動きを見せています。本稿では最近特に注目を集めた鉄道事業者の取り組みをまとめてみました。

「全路線再生可能エネルギー由来の電力100%で運行」

最近特に注目を集めたのが東急電鉄。同社は2019年から世田谷線で再生可能エネルギー100%電力での運行を開始しており、スキーム自体は異なるものの、この取り組みを2022年4月1日から全路線に拡大しました。

全路線を再生可能エネルギー由来の電力100%にて運行するのは、鉄軌道事業者では日本初。置き換えによる年間CO2排出削減量は約165,000トン(見込み)で、一般家庭の年間CO2排出量約56,000世帯分に相当します。

全ての特急ロマンスカーでCO2排出量実質ゼロ

2022年4月から全てのロマンスカーが「ゼロカーボンロマンスカー」として運行しています

同じく関東の私鉄で注目を集めるのが小田急電鉄。2021年9月に策定された「小田急グループ カーボンニュートラル2050」をもとに、その実現に向けた最初の取り組みとしてロマンスカーVSEを「ゼロカーボン ロマンスカー」として運行していました(2021年10月~2022年2月)。

同社はこの取り組みをさらに拡大。2022年4月1日から2027年9月30日まで、特急ロマンスカー全26編成を「ゼロカーボン ロマンスカー」とします。車内には5月以降順次「ZERO CARBON ROMANCECAR」のロゴを掲出し、駅にもポスターを貼り出すなどして周知に努めます。

水素やバイオ燃料に活路はあるか

「鉄道車両の運行によるCO2排出量」そのものを減らそうとする取り組みも注目を集めます。

JR東日本の水素ハイブリッド電車「HYBARI」(FV-991系)

本サイトでも何度かご紹介しましたが、JR東日本の「HYBARI」などはその最たるもので、水素を燃料とする燃料電池と蓄電池を電源とするハイブリッドシステムを搭載しています。

同社は2022年2月時点でディーゼルエンジンを積んだ車両を400両以上保有しており、将来的なCO2フリーを達成するためにはこれらの置き換えが必要になってきます。

しかしながら非電化区間を行くローカル線の気動車を置き換えるためには、水素ハイブリッド電車が走れるようなシステムを構築しなければなりません。水素の供給拠点を整備するためには自治体の理解と協力が不可欠で、言ってみれば水素を利活用する「まちづくり」から取り組む必要があります。

もちろんこれはJR東日本が単独で行うものではなく、先行して水素を活用している自動車業界や、他業界とも連携しながら取り組んでいくことになるでしょう。

JR東海は新型ハイブリッド特急「HC85系」に次世代バイオディーゼル燃料を使用する、という試験を行っています。燃料を提供するのはユーグレナ社。2022年2月にはJR東海の気動車区間の中で厳しい勾配条件を有する紀勢本線で走行試験を行いました。

新型ハイブリッド特急「HC85系」 2月の実証試験では燃料給油シーンなども公開されました

次世代バイオディーゼル燃料は昔と比べて使いやすくなりました。分子構造は軽油と同じで、従来は5%までと定められていた混合比率制限も克服可能。エンジンに変更を加える必要もありません。

寒冷地の使用にも適しています。ディーゼル車で寒冷地のスキー場などへ行かれる方はご存知だと思いますが、軽油にも様々な種類があり、冬場は成分の凝固を防ぐために「流動点」の低い軽油を給油して使用します。高山本線の特急「ひだ」などでも同じことが言えます。JR東海に確認したところ、寒冷地では「3号経由」を使用しているとのことですが、2月に実施された本線走行試験で使用した次世代バイオディーゼル燃料は「JIS K2204 規格表1の2号及び3号規格」に合致しているそう(取材時は寒冷地での鉄道車両における使用は未検証)。

となると、理屈の上では燃料を全てバイオディーゼル燃料に置き換えてしまえば気動車でもCO2フリーは達成できそうですが、ここにも供給量や価格の問題が付きまといます。現状の供給量では現実的ではなく、また燃料を切り替えることで運用コストが跳ね上がるようであれば、その分の費用をどこかで吸収する必要があります。

もちろんJR東日本もJR東海も現時点でお披露目している取り組みに全てを賭けているわけではありません。取材時の個人的な感覚としては「CO2フリーという夢物語」から「検討に値する計画」まで降りて来たような印象を受けましたが、各社報道公開現場ではその他の手段も模索していることが伝えられており、会社間での意見交換も行われているそう。本稿で紹介した取り組みとは異なる方法でCO2フリーが達成される未来もあるでしょう。

運輸部門における二酸化炭素排出量内訳、2019年度(資料:国土交通省)

鉄道はそもそも他の輸送手段と比べてエコな乗りもの。国交省の「運輸部門における二酸化炭素排出量」を見れば、運輸部門は全体の18.6%、そのうち鉄道が占める割合は3.8%ほど。輸送量当たりのCO2排出量を見ても鉄道の環境性能の高さは一目瞭然です。

とはいえ、それは一度に大量に輸送できるという鉄道の特性あってのもの。JR西日本が2022年4月に発表したように、ローカル線ではCO2排出量においても「現状のご利用実態では必ずしも鉄道の優位性を発揮できていない状況」があり、日本の人口減少やコロナ禍による鉄道利用減を見れば、鉄道の環境優位性は薄れ、更なるエコを達成しうる新技術への投資・開発は重要性を増していくように思われます。

記事:一橋正浩

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