【台湾】【台湾新創】AR・VRソフト開発に優位[IT]

雅匠科技のキット、大手も導入

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雅匠科技の蔡明勲CEOが自ら開発したSDKは、日本の大手企業にも採用されている=22年3月、台北(NNA撮影)

台湾スタートアップの雅匠科技(ヤジャンテック)が手掛けるソフトウエア開発キット(SDK)は、NTT、GMOインターネットなどの大手企業が拡張現実(AR)や仮想現実(VR)のソフト開発に活用している。その優位性は独自のモジュール技術。複数の基本ソフト(OS)とデバイスに対応し、開発コストの大幅な削減が可能となる。蔡明勲最高経営責任者(CEO)は、同様のSDKを提供する企業は日本や台湾にはないと強調する。【山田愛実】

近年、急速に技術の応用が進むARとVR。世界的に注目が高まっている仮想現実空間「メタバース」でもARやVRの技術が活用されるため、今後さらなる発展が見込まれている。雅匠科技のSDKは、そんなAR、VRのソフト開発に特化している。

雅匠科技のSDKは顔認識、物体追跡、感情検知、ジェスチャー検出、アイトラッキング(視線計測)、毛髪検出など22アイテム。複数の言語とOS、デバイスに対応し、1アイテム1年間1万米ドル(約129万円)でのレンタル制で提供している。眼鏡のバーチャル試着や、ARショッピング、広告のアイトラッキングなどのシステム開発に使用されている。

通常、SDKを使ってソフトを開発する際は、米グーグルのアンドロイドやアップルのiOS、マイクロソフトのウィンドウズといったOS、パソコンやスマートフォンなどのデバイスごとにそれぞれ複数のソフトを開発する必要がある。一方、雅匠科技のSDKを使えば、完成したソフトは複数のOS、デバイスに対応するため、一つだけ開発すれば済む。例えば従来であれば、アンドロイド向け、iOS向け、ウィンドウズ向けの3種類のソフトを開発するためには三つのチームが必要だったのが、雅匠科技のSDKを活用すれば一つのチームで済むことになる。蔡氏は、「米グーグルやアップルのSDKにも同様の機能はない。日本と台湾、シンガポールでも同様の技術について特許を調べたが、確認できなかった」と指摘する。

蔡氏は、EMS(電子機器の受託製造サービス)世界最大手の鴻海精密工業や台湾政府系研究機関の工業技術研究院(ITRI、工研院)でのエンジニアの経験があり、中でもITRIではAR関連の業務に関わっていた。システム開発に商機があるとみて、15年に雅匠科技を設立した。

転機となったのは、ARを活用したスマートフォン向けゲーム「ポケモンGO(ゴー)」の大ヒット。ビジネスチャンスを感じ調べてみたところ、ARやVRのSDK市場が欧米企業に掌握されていることが分かり、1年半を費やして蔡氏自ら独自のSDKを開発した。

■NTTやGMOと契約

2018年には、SDKでNTTとの提携を開始。その後、GMOやJR九州など大手からの契約を次々に獲得した。20年11月には、日本事業の拡大を目的に、東京に日本事務所を設立。15年から21年までの売上高は毎年前年比で倍増しており、21年は1億台湾元(約4億3,900万円)で、このうち8割を日本が占めるという。

現在は、電通グループの「XRXスタジオ」との提携に向けた準備を進めている。XRXスタジオは事業構想からソリューション開発、運用、PDCA(計画・実行・評価・改善)までをワンストップで提供し、企業のXR(VR、AR、MR=複合現実などの総称)技術活用を支援する。提携によって、雅匠科技のSDKが活用される機会はより広がるとみられる。

雅匠科技はソフトウエアの開発も数多く手掛ける。直近では、中部国際空港(愛知県常滑市)向けに、眼鏡型のウエアラブル端末、ARグラスを使った観光案内サービスや、AR技術でバスの車窓に観光情報を表示するサービスのソフトウエア開発を行った。

トヨタ自動車とは、スマートフォンをかざすことで自動車の操作情報などを呼び出すことができるソフトを開発中で、年内に完成する予定という。

雅匠科技がAR観光サービスのソフトウエア開発を手掛けた中部国際空港の空港バス(雅匠科技提供)

■日本市場は「非常にユニーク」

蔡氏は「日本の市場は非常にユニークだ」と語る。「台湾より新しい技術に対する抵抗がなく、企業も技術に対してコストを支払うなど意識が高い」との見方を示した。

今後は日本で引き続きパートナー企業を募集する。パートナー企業と協力して市場開拓を進め、22年の売上高は前年比倍増の2億元を目指す考え。

日本のAR・VR市場の見通しについては、「日本には多様なニーズがある。今後の市場発展に非常に期待している」と強調した。

<メモ>

雅匠科技は、顔認証技術を使った販促用の「ARスマイル」、VR映像でバーチャルショッピング・観光、エンターテインメント、製造現場の管理など幅広い場面での応用が可能な「グローバルAVR」、AR技術で眼鏡や化粧品が試せる「ARコスメティクス」など複数のAR・VRツールもプラットフォームを通じて提供している。中小企業を中心に活用が進んでいる。