ホンダのジャック・ヤング、アウディのフランコ・ジロラミと両移籍組が勝利/TCRヨーロッパ開幕戦

 最高峰となるWTCR世界ツーリングカー・カップに次ぐ、TCR規定ツーリングカーの欧州格式リージョン選手権、TCRヨーロッパ・シリーズの2022年シーズン開幕戦が4月30〜5月1日の週末にポルティマオで開催され、今季よりシリーズ復帰を果たしたハルダー兄妹率いるハルダー・モータースポーツから参戦のジャック・ヤング(FK8型ホンダ・シビック・タイプR TCR)が、オープニングヒートでのチームメイト対決を制してシリーズ初優勝を達成。

 続くレース2は、ホンダ陣営のPSSレーシングからアウディのトップカスタマー、コムトゥユー・レーシング移籍を決めたフランコ・ジロラミ(アウディRS3 LMS 2)が“議論を巻き起こす”勝負の末、移籍初戦での勝利を手にしている。

 2022年も引き続き強力な21台のエントリーリストが公開されたTCRヨーロッパ・シリーズは、ポルトガルが誇るテクニカルトラック、アルガルベで開幕のときを迎えた。水曜のテストセッションを経て迎えた公式練習では、今季も東欧に拠点を置く小規模チームから参戦のマット・オモラ(ヤニク・モータースポーツ/ヒョンデ・エラントラN TCR)と、イタリアの強豪からシリーズ復帰の元王者ジョシュ・ファイルズ(ターゲット・コンペティション/ヒョンデ・エラントラN TCR)が最速を分け合い、引き続きヒョンデ製サルーンが高い競争力を誇示した。

 しかし予選に入ると一転、その背後で虎視眈々と逆襲の機会を伺っていたホンダ勢が躍動し、昨季のTCRスペイン&イベリコ王者となったマイク・ハルダー(ハルダー・モータースポーツ/FK8型ホンダ・シビック・タイプR TCR)が鮮やかにポールポジションを奪取。その僚友で今季もJASモータースポーツのドライバー開発プログラムに所属するヤングが続き、10番手のぺぺ・オリオラ(ブルータル・フィッシュ・レーシング/FK8型ホンダ・シビック・タイプR TCR)までわずか0.565秒差という僅差のセッションで先手を奪った。

 そのまま現地15時過ぎに始まったレース1は、フロントロウ発進のヤングがハルダーの背後からチャンスを窺うと、4周目のヘアピンでインサイドを刺し首位浮上に成功。危なげなく12周を走破して、ハルダーやニコラ・バルダン(ターゲット・コンペティション/ヒョンデ・エラントラN TCR)を従え、待望の初優勝を決めてみせた。

「スゴい展開だ! 僕らはこの1年間、長い間この瞬間を追い続けてきたんだ」と、歓喜の言葉を続けたヤング。「TCRヨーロッパ最初のラウンドで予選1–2を獲得し、レースで再びその結果を再現するなんて、これ以上のことを求めるのは不可能だよ」

 そんなヤングだが、僚友との勝負に際して実際は危機一髪の状況であったことも明かした。

「正直に言うと、アウトに膨らんだマイクを見てインサイドに飛び込んだが、僕の方もロックアップしてしまったんだ。うまくオーバーテイクするか、彼に衝突するか、イチかバチかみたいな状況に陥ったが、幸いにしてうまくいったよ」とヤング。

昨季のTCRスペイン&イベリコ王者となったマイク・ハルダー(ハルダー・モータースポーツ/FK8型ホンダ・シビック・タイプR TCR)と、僚友ジャック・ヤング(FK8型ホンダ・シビック・タイプR TCR)がレース1のフロントロウを占拠
チーム内対決で前後を入れ替えたヤングが、TCRヨーロッパ初優勝。ニコラ・バルダン(ターゲット・コンペティション/ヒョンデ・エラントラN TCR)が3位に続いた

■ジロラミの追い抜きに「大怪我をする前に目を覚ますべきだ」とオリオラが苦言

「追い抜いてからも少しミスをしたけど、その後はラップタイムを管理することに集中した。タイヤやブレーキの摩耗に慣れ、状況が落ち着いて以降は少しプッシュしてギャップを作ったんだ。自分の仕事には非常に満足しているよ」

 明けた日曜現地14時15分開始のレース2は、予選トップ10リバースによりオリオラがポールスタートで優位に立つと、そこへ立ちはだかったのが4番手発進だったアウディのジロラミ。

 昨季はミケル・アズコナとタイトル争いを展開し、ランキング2位に終わっていたジロラミは、その攻防の最中で後の2冠王者から”ラフファイトに苦言“を呈される場面もあった。

 このレースでもスタート早々に2番手へと進出したアウディは、セーフティカー出動によるマージン消失も絡み、7周目にはホームストレートからサイド・バイ・サイドのバトルに持ち込んでいく。数回のコンタクトを繰り返したホンダとアウディは、ターン5のインサイドを奪ったアルゼンチン出身ドライバーが先行してジロラミに軍配が上がり、15周で1.86秒のマージンを得て勝利を手にした。

「ぺぺが僕に満足していないことは理解しているが、彼と一緒に映像を見返してみたいと思っているよ」と振り返った勝者ジロラミ。「最初のコンタクトは彼の方からで、2回目は僕の方から寄せていった。彼には謝りたいと思うし、僕らは友達で不当な争いはしたくないんだ」

 一方、2021年創設初年度のTCRサウスアメリカ・シリーズで初代王者に輝いたオリオラは、自身の正当性を主張しつつも「いつか誰かが痛い思いをする」と警告を発した。

「僕はフランコとの戦いで公平だったと思う。彼にスペースを残し、トラックから押し出すような真似はしなかった。でも彼はストレートで僕を押し、クルマを不安定にさせようとしていたんだ」と続けたオリオラ。

「彼のドライビング基準は、このチャンピオンシップには適切ではないと思う。昨年、彼とミケル(・アズコナ)がストレートで何度か接触したのを見ているしね。もちろんツーリングカーでは接触を伴うビッグファイトが当然だが、ストレートで別のマシンを押しやる必要はない」

「今回、全員にドライビング・スタンダードの再確認を要請したよ。誰かがストレートで200km/hの速度で走行中に、ほかの人に触れ続ければいつか大きな痛手を負う。大怪我をする前に目を覚ますべきだ」

 この結果、ジロラミが68点で最初のリーダーに立ち、59点のヤングと58点のハルダーが続くオーダーとなったTCRヨーロッパ・シリーズ。続く第2戦は5月21~22日にフランスのポールリカールで争われる。

「ぺぺが僕に満足していないことは理解しているが、彼と一緒に映像を見返してみたいと思っている」とレース2勝者フランコ・ジロラミ(アウディRS3 LMS 2)
「彼のドライビング基準は、このチャンピオンシップには適切ではないと思う」と2位に終わったぺぺ・オリオラ(ブルータル・フィッシュ・レーシング/FK8型ホンダ・シビック・タイプR TCR)

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