【橋下徹研究⑤】独断で日本を一帯一路に引きずり込んだ橋下徹|山口敬之【永田町インサイド WEB第5回】 「中国の電力産業が、西側先進国に作った初めての発電所であり、一番最初に利益を生み出したプロジェクトも大阪です」「我々が黒船ではなく、紅船であることを示しています」と上海電力日本株式会社の刁旭(ちょう・きょく)社長。上海電力を咲洲メガソーラーにステルス参入させた「橋下徹スキーム」が、日本進出を狙う上海電力にとってどれだけ大きな恩恵をもたらしたのか。

「上海電力」社長のインタビュー

市民・国民に何の説明もなく上海電力を咲洲メガソーラーにステルス参入させた「橋下徹スキーム」。これが日本進出を狙う上海電力にとってどれだけ大きな恩恵をもたらしたか。

上海電力日本株式会社の「刁旭」(ちょう・きょく)社長(当時・2018年12月13日退任)は、中国メディアのインタビューに対して、次のように答えている。

この会社は2013年9月に登記し、
2014年1月に開業しました。
5か月という短い期間で
大阪に初めての発電所を
作りました。

これは中国の電力産業が、
先進7か国に進出した
初めてのケースになります。

それは中国の電力産業が、
西側先進国に作った
初めての発電所であり、
一番最初に利益を生み出した
プロジェクトも大阪です。

私達のプロジェクトは
日本の地方政府に電力を供給すると同時に、
その地方政府に税収をもたらします。
それに加えて、
雇用の機会を与えています。

この3年間各事業を発展させたことで、
大きな進化を見せた。
これによって、日本の社会に少しずつ確実に
我々が黒船ではなく、
紅船であることを示しています。

「紅船」という言葉に込められた本音

このインタビューは、橋下徹市長によって上海電力がいかに大きなメリットを享受したかを端的に示している。

▶︎登記からわずか5か月で開業
▶︎西側先進国で初の進出事例
▶︎最初に利益を上げた

そして注目すべきなのは上海電力の社長の「黒船ではなく紅船」という表現である。

「黒船」とは、言うまでもなく1853年に浦賀に現れ明治維新のきっかけを作ったペリーの蒸気船のことだ。中国人が日本人に対して「我々は黒船ではなく紅船である」と言う時、そこにはいくつかの意味が込められている。

まず上海電力の進出は「不吉な黒ではなく慶事の紅」であるとして、あくまで日本にとって喜ばしいことなのだと、上目線で恩を着せる意図である。もう一つの重要な意味は中国国旗の紅、すなわち中華思想と共産主義を象徴する「紅」だ。

中華思想とは、中国こそが世界で最も先進的な文化の中心地であり、周辺国は未開の蛮族で中国から文化・文明の一部を下賜してもらうことで何とか生活しているという考え方だ。

そして、中国共産党によって指導された現代中国からの恩恵を、東夷(東の野蛮人)たる日本に施してやろうというのが「紅船」という言葉に込められた本音だ。

日本人からすれば失礼千万な話を臆面もなく語る刁旭なる上海電力日本の社長の傲岸な姿勢の是非はさておき、たかだか2.4MWに過ぎない咲洲メガソーラーなど、いくつかの売電事業を手がけているだけの中国企業が、日本の歴史を変えた黒船や、中華思想や共産主義を象徴する紅船に自社の事業を準(なぞら)える、その自信はどこからくるのだろうか。

しかし、この刁旭社長の「暴言」は、単なる大言壮語ではなかった。習近平直々のプロジェクトだからこその自信の表れだったのである。

「一帯一路」にビルトインされた日本

中国が現在世界中で推進している「一帯一路構想」は、2013年9月7日、習近平がカザフスタンの首都ヌルスルタンで行った演説で「シルクロード経済ベルト」構築に端を発する。その習近平演説10日後、2013年9月17日に日本で設立されたのが、他ならぬ上海電力日本株式会社なのだ。

その後、一帯一路は習近平指導部肝入りの重要政策として、アジア、中東、欧州、アフリカ各国で強力に推進されている。中国政府は一帯一路に関するウェブサイトを複数立ち上げているが、このうちエネルギー分野を扱っているのが「一帯一路能源合作网」である。

このウェブサイトでは、世界各国で一帯一路の構想のもとでどのような事業が展開されているか、国別に解説されている。

ミャンマー、パキスタン、カザフスタン、インドネシア、マレーシアといった発展途上国のメガソーラーや各種発電事業に、中国がカネの力にものを言わせて強引に参入している現状が自慢げに列挙されている。

そんな中で、上海電力がメガソーラー事業を展開する唯一の先進国として登場するのが日本だ。

質の高い海外市場を開拓するために、日本は常に世界の主要な太陽光発電マーケットの一つです。

大阪南港プロジェクト(咲洲メガソーラー)は国家電力上海電力日本会社が、日本で開発、投資、建設した初の太陽光発電プロジェクトです。

このプロジェクトの完成は、中国国内の太陽光部品設備の輸出に連動し、これによって中国投資協会より“2016-2017年度国家優質投資プロジェクト賞”を受賞しました。

兵庫県三田での太陽光発電所は、大阪南港プロジェクトに続き、上海電力日本会社が商業運行する2つ目の太陽光発電プロジェクトであり、初の全体自主建設の発電プロジェクトです。

このプロジェクトは2016年2月9日に運行を開始し、年平均発電量ターゲットは実現可能性設計数値の10%を越えています。プロジェクトの整地設計及び生態環境保護(植樹緑化)については高水準をとっていて、現地にとって実証的な意義があります。

上海電力の日本進出は、中国政府による一帯一路構想の一環として始まり、いまでは一帯一路のエネルギー分野の中核事業にしっかりと組み込まれている。

日本は、国民も国会議員もまったく知らされないまま、橋下徹氏の一存で勝手に中国の一帯一路に組み込まれていたのである。

世界中で混乱と軋轢を呼んでいる一帯一路

中国が強力に推し進めている一帯一路だが、その個別プロジェクトは多くが暗礁に乗り上げている。
大規模プロジェクトを短期間で無理やり実施しようとする、地元経済を無視した覇権主義的手法によって、受け入れ国との深刻な軋轢に進展しているのだ。

そして、透明性の欠如および地元の利害関係者の関与不足により状況が悪化している。
簡単に言えば「中国の中国による中国のための事業」「地元のためにならない」からこそ、各地で軋轢を生んでいる。

アジア問題に強いアメリカのシンクタンク「アジア社会政策研究所」が2019年6月にまとめた報告書を読むと、中国の一帯一路における「本当の狙い」がクッキリと浮かび上がってくる。

「前倒しの完成を求め過ぎると、地方自治体や利害関係者といった主要な関係者等がないがしろにされ、プロジェクトの利点、目標、費用、影響を適切に評価する機会が失われる」

「契約の締結を急ぐあまり初期段階を強引に進めると、透明性の低下、汚職、国民の疑念や誤解が発生し、プロジェクトの実行可能性が低下することで、全体的なリスクが高まる」
と、一帯一路事業そのものの危険性をはっきりと指摘している。

この結果、バングラデシュ、ビルマ、マレーシア、モルディブなどの国々では以前に合意した一帯一路プロジェクト条件の見直しや再交渉が発生しており、工事自体が中止または縮小される事例も存在している。

また、インドネシアやマレーシアといった国々は、大規模な一帯一路鉄道プロジェクトからの撤退や再編を余儀なくされているが、中国から数千億円規模の賠償金を請求されるなど、袋小路に陥っている。

多くの国々がいま中国との一帯一路の大規模プロジェクトの見直しを余儀なくされているのは、「最初は『友好』を標榜しているが、結局は中国の覇権主義の本性が剥き出しになり、受け入れ国の主権と経済をリスクに晒す」からに他ならない。

「軍事の一帯一路」と化す危険性

アメリカの国防総省は一帯一路を巡って2020年にまとめた『中国の軍事動向に関する年次報告書』で、重大な警告を発している。

これによると、タイ、ミャンマー、パキスタン、シンガポール、インドネシア、スリランカ、ケニアといった一帯一路の参加国は、中国が海外軍事拠点として自国勢力圏に組み込もうと画策していると明示的に警告している。

これら国々はほとんどすべてが一帯一路構想に沿う形で点在していて、「経済の一帯一路」が「軍事の一帯一路」と化す危険性を帯びているというのである。

日本も一帯一路の危険性についてはアメリカ政府と問題意識を共有しており、2019年3月の参院予算審議で当時の安倍晋三首相は一帯一路構想について、日本が協力するには、
・プロジェクトの開放性、
・透明性、
・経済性、
・財政健全性、
の4条件を満たす必要があるとの認識を示している。

同じ頃、麻生太郎副総理兼財務大臣は、「サラ金の多重債務と同じだ」と、中国の一帯一路の金融支援の現状をはっきりと批判した。

ある国が一帯一路に参加するかどうかは、その国の行政・立法機関で侃侃諤諤(かんかんがくがく)の議論が行われて、慎重な検討の末に参加の可否が決定されるべきものである。

そして参加するのであればその形態、中国による侵略の意図の継続的検証など、国民の生命と財産を守る安全保障の観点からの自衛策は不可欠となる。

「橋下徹スキーム」がすべてのはじまり

様々な問題点が指摘されている一帯一路に日本が参画するか、するとすればどのような形がふさわしいのか。これはオープンな国民的議論の末に決定されるべき国策であり、地方自治体の一首長の一存で決めていいわけがない。

ところが2014年、橋下徹大阪市長は市民に何の説明もないまま独断で上海電力を咲洲メガソーラーの事業者としてステルス参入させた。

そして大阪市が入り口となって、上海電力は兵庫県三田市、茨城県つくば市、栃木県那須烏山、山口県岩国、静岡県牧之原と、次々と事業を拡大し、日本中に「一帯一路」という名の侵略を続けている。

橋下徹氏が上海電力に売り飛ばしたのは大阪市の咲洲メガソーラーだけではない。

一切の国民的議論もなく、あるいは発電インフラの保全策もなく、日本国全体を中国の危険な一帯一路に独断で巻き込んだのが、大阪市長時代の橋下徹氏なのである。

上海電力日本社長の刁旭は、日本のメガソーラー事業を巡ってこんな色紙を揮毫している。

「友好赤船」

アジアやアフリカ各国では、「友好」を謳って参入してきた中国企業がある日突然豹変して、地元から富とエネルギーを簒奪し深刻な軋轢を生むケースが続発している。

市民・国民を欺くようなやり方で上海電力を日本に導き入れた橋下徹氏。そしてその「橋下徹スキーム」によって地元住民の知らないうちに日本各地の発電事業に侵入し続けている上海電力。

日本政府や日本国民と一切の議論も合意もないまま、勝手に日本を一帯一路に巻き込んだ橋下徹氏のやり方は、あらゆる手段を持って糺されねばなるまい。
(つづく)

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山口敬之

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