TX茨城県内延伸か 県は2022年度に「延伸調査検討事業」を予算化 ルート4案を本年度内に一本化【コラム】

TXは鉄道建設・運輸施設整備支援機構(鉄道・運輸機構)が建設しました。同じ鉄道・運輸機構が整備した、横浜高速鉄道みなとみらい線に似た印象を受けます。写真はTXの主力車両1000系電車(写真:K.O / PIXTA)

最近、沿線を中心に注目を集めるのが「つくばエクスプレス(TX)」です。TXの延伸を構想する茨城県は2022年度、「TX県内延伸調査検討事業」の名称で、1800万円を初めて予算化しました。東京都から埼玉、千葉県を経て茨城県に延びるTXの路線は秋葉原―つくば間58.3キロ。つくばからの延伸ルートは順不同で、①水戸方面、②筑波山方面、③(茨城)空港方面、④土浦方面――の4案あり、県は2023年3月には一本に絞って県レベルでの意思統一を図るスケジュールです。

2005年8月に開業したTXは、他社線と相互直通運転しないという、最近の都市鉄道では比較的珍しい形で18年目を迎えますが、土浦や水戸に路線が延びるのか、その中で相直が始まるかどうかは、鉄道ファンならずとも興味深い点でしょう。TX延伸の考え方とともに、1978年の「第二常磐線構想」に始まる歴史、さらには廃止された地方鉄道の復活という見方もできそうな、話題あれこれを集めました。

TXを延伸して定住・交流人口を拡大(茨城県)

まずは、茨城県の県内延伸調査検討事業の考え方から。予算関連資料には、「アフターコロナを見据えた新たな地方創生の実現をめざし、県総合計画に位置づけたTXの県内延伸4方面案について、必要となる調査・検討などを行い、2022年度中に延伸方面の一本化を図る(大意)」とあります。

延伸4案の概略ルート。4案は完全に別ルートというわけでなく、例えば土浦を経由して茨城空港にいたるなど折ちゅう案も考えられそうです(資料:茨城県)

資料にあった茨城県総合計画には、「TXの延伸などで質の高い雇用や定住人口の確保、交流人口の拡大を図り、地域経済の活性化を推進する(同)」と記載されます。

国レベルで、東京圏のこれからの都市鉄道整備(新線建設)の方向性を示すのは、国土交通大臣の諮問機関・交通政策審議会による2016年4月の「東京圏における今後の都市鉄道のあり方について(答申)」です。ところが、答申にはTXの東京駅や東京・臨海部方面への延伸の記載はあるものの、茨城県内の延伸には触れられていません。

地元はTX延伸を要請

TXの茨城県内延伸は、現時点では地元が構想するプロジェクトで、国レベルの認知はこれからになります。TXを運行する首都圏新都市鉄道も、「あくまで茨城県での議論で、当社は関与していない」とコメントします。

県が予算化した背景を調べたところ、関係自治体が県にTX延伸の検討を要請、さらに一部政治家が選挙公約に鉄道整備を掲げ、それが県政に反映された結果、総合計画への記載につながったようです。

県は構想される4方面それぞれについて、需要予測、概算事業費、収支予測、整備効果などを試算して比較検討。有識者、経済界、県議会、市町村、鉄道事業者などで構成する第三者委員会を設置して、延伸4案を絞りこみます。

スケジュール的には、2022年5~12月に需要予測などを実施して取りまとめ。同年12月~2023年2月に先述の第三者委で話し合い(2回程度)、2月には一般からのパブリックコメントを募集し、翌3月には延伸案を決定します。

第二常磐線から常磐新線、そしてTXに

ここからTXの歩みに触れましょう。ベテラン鉄道ファンの皆さんには、かつてTXが「常磐新線」と呼ばれていたことを、ご記憶の方がいらっしゃるかもしれません。

常磐新線が、国の運輸審議会(前々章で触れた交通政策審議会の前身の機関です)で、「緊急に整備すべき路線」として取り上げられたのは1985年ですが、その7年前、1978年に茨城県の県南県西地域交通体系調査委員会は、「第二常磐線構想」を発表しました。

当時の様子……。常磐線は首都圏の鉄道線区でも混雑が激しく、時に窓ガラスが割れる事態が発生していました。これは茨城県と鉄道路線網の関係に、主な理由があります。

同じ首都圏でも、神奈川ならJR(国鉄)と東急、京急、小田急、埼玉ならJRと東武、西武、千葉ならJRと京成と複数の路線がありますが、茨城は基本的に常磐線一本。しかも常磐線は東京から直行で茨城に入るのでなく、東京側から松戸、柏、我孫子と千葉県の中核市を通るので、ラッシュのピーク時間帯には激しく混雑します。

つくば発金町、新小岩経由東京行き!?

本コラム執筆のため、TXの歴史を調べたら、面白い話が見つかりました。『つくばエクスプレスがやってくる』(2005年, 日本経済新聞社刊)によれば、財政事情が厳しかった当時の国鉄が考えたのは、つくば発の列車が常磐線、総武快速線経由で東京駅に乗り入れる案。常磐線から総武快速線に入る際に走行するのは、金町―新小岩間の貨物線・新金線。同線は現在も、次世代路面電車のLRT路線化が取りざたされたりします。

他にも、つくば発の列車が武蔵野・京葉線を経由して東京駅にいたるルートも考えられました。いずれも東京都心部への直結性に問題があって採用されませんでしたが、つくば発金町、新小岩経由東京行きや、つくば発新松戸、西船橋経由東京行きといった列車が実現していれば、首都圏の鉄道地図は現在とは違ったものになっていたはずです。

延伸4案の比較検討は本コラムの役目でないため、これ以上の言及は避けますが、各案には延伸線の性格が反映されるように思えます。

水戸、土浦延伸案は、いずれも新たな都市間鉄道の誕生を意味します。水戸市は人口27万人、土浦市は14万人。水戸や土浦からはJR常磐線が上野東京ラインで品川に直行しますが、ルートの異なるTXは沿線都市の活力アップにつながるでしょう。

一方の筑波山延伸案はTXの観光鉄道、茨城空港延伸案は同じく空港アクセス鉄道の可能性を広げます。特に筑波山は年間300万人以上が訪れ、「日本有数の登山客が多い山」です。筑波山案、空港案は、TXに新しい可能性を広げます。

筑波鉄道、鹿島鉄道が復活する?

ラストは鉄道ファンの皆さんに、肩の力を抜いてお読みいただける話題。延伸4案のルート図を眺めているうち、かつて同じような地方鉄道があったような記憶がよみがえり、資料を調べてみました。

一つは常磐線土浦と水戸線岩瀬の国鉄2線を結び、国鉄民営化と同日の1987年4月1日に廃止された筑波鉄道です。路線は、土浦―岩瀬間の40.1キロ。筑波鉄道には筑波駅があり(現在のTXつくば駅とは大きく離れた位置ですが)、土浦、つくばの両市を結びました。

もう一つは常磐線石岡を起点に、鹿島灘に近い鉾田に延びていた鹿島鉄道(26.9キロ)。比較的最近まで営業していましたが、2007年4月1日に廃止されました。鹿島鉄道の廃線跡は一部バス専用道に転用され、石岡駅付近では、同駅と茨城空港をつなぐアクセスバスが走行しています。

TXの延伸が簡単にいかないことは、本サイトをご覧の皆さんには説明不要でしょう。それでも日本が人口減少に向かう現代に、鉄道の延伸構想が表面化したことは鉄道の可能性を示すような気もします。今後も動きがあれば、続報の形で紹介させていただきたいと思います。

高架上と地下区間がある茨城県内のTX。終点のつくば駅は同県内唯一の地下駅です(写真:Sunrising / PIXTA)
2007年4月に廃止された鹿島鉄道。現在、一部の車両は茨城県小美玉市の私設・鹿島鉄道記念館(通常は非公開)で保存されます(写真:Tri Star / PIXTA)
バス専用道として再利用される鹿島鉄道の線路跡。地元・茨城県石岡市などは「地方型BRT(バス高速輸送システム)」と位置づけます(写真:mitu03 / PIXTA)

記事:上里夏生

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