【真鶴名簿不正問題】町長不信、続く混乱 参事ら6人依願退職、消防団長も不在に

昨年12月の出直し町長選再選後、職員の前で訓示する松本町長=2021年12月21日、真鶴町民センター

 神奈川県真鶴町の松本一彦町長が選挙人名簿抄本を不正にコピーし自らの町長選で使用するなどした問題を巡り、町政の混乱が続いている。昨年10月の問題発覚後、参事を含む職員6人が再選に反発するなどして今春までに依願退職し、副町長の空席も解消されない。 

 また、防災の要となる町消防団でも町長の任命を拒否して団長不在が続く。トップの不祥事が町民の安全にも影響しかねない事態に町民からはため息が漏れる。

◆「うそつき」

 「心身共に限界。有権者の24%が松本氏に投票した事実に落胆した」。不祥事発覚以降、苦情対応と事態収拾に奔走した元参事の男性(58)は松本氏の再選が決まった直後に辞表をしたためたという。

 病気を患い、ストレスでいつ再発するか分からない状況で、松本氏とともに不正を働いた別の参事の穴を埋めて2部署の課長を兼任。「ありえないほどの作業量」に身も心も折れた結果だった。2020年の町長選で初当選した松本氏の訓示を今でも覚えている。「一つのうそをつくと、また別のうそをつき続けることになる」。しかし、それを真っ先に破ったのは本人だった。

 松本氏は名簿流出への自らの関与などで説明を二転三転。「多くの職員が自宅に書類を持ち帰っている」と身に覚えのない“嫌疑”までかけられ、「町民や職員を省みず問題が発覚してもなおうそをついた」と怒りは治まらない。

◆中堅も離職

 6人の依願退職が出たことで、4月時点で町職員数は97人。条例で定めた職員定数に対する充足率は75%で隣の小田原市(96%)と比べると極端に低い。

 兼任業務が多く休日でも連絡が入る。離職した中堅職員は「給与も低く宿日直もあり、子育て世代の職員は厳しい」と吐露。以前から職場環境に不満があったが、不祥事の後に「町役場に勤め続ける未来を想像できなかった」ことが転職へ背中を押した。町は今春9人を新採用したが、元参事は「即戦力の職員が足りず、しばらくは最低限の事務作業で手一杯では」と心配する。

◆敬礼できぬ

 「誠実に対応すると言いながら、逃げることばかり。そんな町長に敬礼ができない」。約70人が所属する町消防団では不満が噴出し、今年の出初式への協力を拒んだ。副団長が団長に昇格する慣例があったが、前団長の任期満了後、2人の副団長が任命を保留し、4月から団長不在となった。

 4月上旬には消防団役員と面会した松本氏が謝罪したものの、役員が「町長が町を分断している。ついていけない」と辞職を求めるなど両者の溝は埋まらなかった。町側は「副団長が職務を代行できる」とするが、高橋敏光副団長は「町長自身の進退や、町の刑事告発への対応を見届けたい」としている。

 混乱が収まらない町政について、地方自治に詳しい大正大学の江藤俊昭教授は「町長や議会、町職員の上層部が関与した問題で癒着構造があぶり出され、町役場への信頼が失われたことは容易に想像ができる。町長の進退問題を含め、誠実に透明性を持って対応する必要がある」と指摘する。

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