祇園暴走10年 てんかん患者「事故起こせば厳しい非難が」、偏見への恐怖

歩行者らを次々とはね、電柱に衝突して止まった軽ワゴン車(2012年4月、京都市東山区大和大路通辰己上ル)

 19人が死傷した祇園暴走事故は、車を運転していた男性がてんかん発作を起こしたことが原因とされる。事故後、てんかんなどの持病による人身事故が厳罰化された。一方、適切な治療を受けながら安全に運転を続けるてんかん患者も多く、当事者らは病気への偏見を懸念する。

 祇園事故の1年前、栃木県鹿沼市でクレーン車が児童の列に突っ込み6人が死亡した事故があり、運転者のてんかん発作が原因とされた。さらに祇園事故が起こったことで、厳罰化を求める声が強まった。

 2014年5月には、てんかんや統合失調症、無自覚の低血糖症などの病気が原因で人身事故を起こした場合、より刑罰が重い「危険運転致死傷罪」を適用する自動車運転処罰法が施行。翌月には、これらの病気の患者が免許を取得・更新する際に病状を虚偽申告した場合、罰則が科されるよう道交法も改正された。

 しかし、てんかんに起因する事故はゼロにはなっていない。交通事故総合分析センター(東京都)によると、10~20年の全国のてんかん発作による人身事故は年50~70件台で横ばいが続いている。

 京都府警によると、14年~21年、運転に支障をきたす持病が交通事故や交通違反を機に発覚し、免許を取り消された人は府内で1041人。うち、てんかん患者は394人だった。

 一方で、てんかん患者は全国に約100万人いるとされる。道交法では、てんかん患者でも運転に支障のある発作が2年間なく、適切な治療を受けていれば、運転免許の取得は可能だ。

 日本てんかん協会(東京都)は、患者に対して適切な治療や運転免許の取得・申告を呼びかけてきた。15年以降、神経内科や精神科、脳神経外科などが連携して診察するてんかん拠点医療機関が全国23カ所にでき、適切な治療や早期発見につなげる取り組みが広がる。

 それでも当事者は事故以降、てんかん患者への偏見に不安を感じながら暮らしているという。てんかん協会京都支部の代表(37)は「事故を起こせば厳しい非難を受けるのは目に見えている。免許を持っていたり、取得可能な条件を満たしていたりしても、運転を避ける人が多い」と話す。

 公共交通機関が乏しい地域では、車を運転しなければ生活できない現状がある。実際、同支部には府北部の会員から「生活の足」に関する相談がたびたび寄せられるという。

 代表は、社会の偏見や生活の困難さから「てんかん患者であることを隠している人もいるのでは」と指摘し、「病気により、今までの生活をたたき壊してやり直すのにはすごく勇気が必要。乗り越えるには支えがいる。患者が病気を受け入れやすくなるよう、偏見のない社会になってほしい」と願う。

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