ルノワールをはじめ多くの芸術家が愛し、描いてきた“女性像”の魅力に片桐仁が迫る

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TOKYO MX(地上波9ch)のアート番組「わたしの芸術劇場」(毎週金曜日 21:25~)。この番組は多摩美術大学卒で芸術家としても活躍する俳優・片桐仁が、美術館を“アートを体験できる劇場”と捉え、独自の視点から作品の楽しみ方を紹介します。2月12日(土)の放送では「千葉県立美術館」で女性像の魅力に迫りました。

◆巨匠ルノワールが女性像にこだわった理由

今回の舞台は、千葉県・千葉市にある千葉県立美術館。1974年に開館し、千葉県ゆかりの作家の他、近代日本洋画に影響を及ぼしたバルビゾン派やそれに連なる印象派などの作品を収集。約2,800点を所蔵しています。

片桐は、そこで開催されていた企画展、第4期コレクション展「名品4 -ルノワールと女性をめぐるイメージ-」へ。同館が所蔵する女性を描いた画家で有名なピエール=オーギュスト・ルノワールをはじめ、印象派から近代まで多くの芸術家が情熱を注いだ女性像が並びます。

同館の研究員・神野有紗さんの案内のもと、最初に注目したのは、やはりルノワール。ここには78歳で亡くなる直前まで女性を描き続けた彼が最晩年に描いた婦人、裸婦、少女を展示。モチーフの異なる作品を見比べることで、彼がこだわり続けた表現を知ることができます。

まずは婦人画「マドモワゼル・フランソワ」(1917年)から。これはモデルが明らかではありませんが、本作を最初に買った人物が"フランソワ”という名前の人物だったと言われています。ぼんやりと揺らめいた背景が特徴的で、それが女性の姿が際立たせることに。

ルノワールはなぜ最晩年まで女性を描き続けたのか。その理由としては、人物を描くのが好き、なかでも女性を描くことに興味があると本人も口にしていたそうで、女性の健康的な肌の表現や生命力をキャンパスに落とし込むことを目指していたとか。

ただ、この頃のルノワールはリウマチに苦しみ、歩くのも困難な状態。車椅子生活で、筆を持つのも難しかったそうですが、そうした状況に反して彼はこの頃が最も多作だった時期で、片桐は「70歳を過ぎて、一番絵の活動的には盛んだったんですね」と驚きつつ、「女性からエネルギーをもらっていたんでしょうね」とルノワールへの思いを巡らせます。

◆なぜルノワールは最晩年により精力的になったのか

続いては、裸婦像「三人の浴女」(1917-1919年)。「マドモワゼル・フランソワ」同様、片桐は「ひと目見てルノワールらしいタッチ」と評し、さらには「輪郭線がよくわからないけど動きを感じるというか、細かい色の重ねで3人が蠢いているような感じがするタッチが素敵」と感想を述べます。

そして「タッチも幻想的な感じ」とも。実際、女性たちの表情はかなりぼんやりとしていて曖昧で、本作は若い女性の生命力溢れる群像表現に重きが置かれた感があります。当時のルノワールは、うねるような鮮やかな背景と人物をいかに画面のなかで調和させるかということを注視していたそう。

ルノワールは絵を描き始めた当初から裸婦を描き続けていますが、本人は生前に「特に女性の肌の色の表現に熱中している」と語っていたといい、いわばルノワールにとって裸婦は自分の描きたい表現であり、特にその色彩表現は自分の理想を体現する題材、大切なモチーフだったのではないかと考えられています。

それを聞いた片桐は「肌の色を出すために色を何層も重ねているってことですよね。体の手前と奥の色もそうだし、顔と体の色の違いもそう」とルノワールの色へのこだわりを感じつつ、「70代過ぎたあたりで、もう誰にどう言われるとかではないんでしょうね。描きたいものを描きたいように描くというところが、一番作品が増えた理由かもしれないですね」とルノワールの晩年の様子を推察します。

婦人、裸婦とともに、もうひとつ大切なモチーフが「少女」。「少女像」(1916-1918年)は、これまでの2作品と比べると背景が落ち着いた色になっており、健康的な少女の肌と赤みがかった鮮やかな髪が浮かび上がるように描かれています。

片桐は「あまり描き込まない感じの表情がいいですね」と話していましたが、ルノワールは数多くの少女を描くなかで、少女の純粋さやあどけなさなどを重視。裸婦とはまた違った形で彼が描きたいものを思う存分描くことができる、大切なテーマだったそう。

また、この絵にはルノワールが培ってきた高度なテクニックがさりげなく発揮。補色の関係にある"赤”と"緑”を上手に薄く塗ることで画面を濁らせず、なおかつ女性の白い肌色を見事に表現。その巧みな技に片桐は「『肌』にこだわっているんですね」と感嘆していました。

◆フランスの女性像の潮流は、日本にも

ルノワール以降、フランスではさまざまな芸術家がその影響を受けていましたが、その流れは日本にも。その1人が板倉鼎です。板倉は東京美術学校で西洋画家・岡田三郎助に師事し、その後フランスに留学。元来、穏やかな写実的表現を得意としていましたが、フランスで画風が一変。写実的でありながら主観的なものを取り込んだ近代的でモダンな作品を制作するようになります。

板倉とルノワールは直接の関わりこそないものの、板倉留学時、パリは世界中の芸術家が集う「エコール・ド・パリ(パリ派)」の真っ只中。その多くはルノワールの影響を受けており、板倉も感化された可能性は十分に考えられます。そうした板倉の画風が変わった後の作品のひとつが「裸婦」(1929年)。リアルな肌感を追求するわけではなく、自分のなかで解釈したものを描いたような仕上がりで、新たな時代を感じさせる作品となっています。

さらに、水彩画にも同様の流れが。片桐が「これが水彩!?」と驚いた中西利雄の「人物」(1936年)は、それまでの水彩画ではあまり見られなかった大胆な人体の表現や鮮やかな色彩が垣間見え、それはルノワールが目指したものと酷似。

そんな中西は日本の水彩画の発展に大きく寄与した人物として知られていますが、彼もまたフランスに留学。そこでさまざまな作品と出会い、多くのことを吸収。当時、水彩画は人物画が向かないと言われていましたが、それを払拭し、水彩画を革新した芸術家でもあります。

◆女性像から感じる時代のエネルギー

絵画に続いては、彫刻。片桐は高村光太郎の「裸婦座像」(1916年)を鑑賞します。高村は文学者としても有名ですが、日本の近代彫刻家としても重要な人物。そんな彼の「裸婦座像」は、偶然の出会いから高村家に滞在するようになった横浜出身の女性をモデルにしているそうで、この逸話に片桐は「偶然出会って一緒に暮らすってどういうこと!?」とビックリ。

また、本作には天才彫刻家オーギュスト・ロダンの影響が。高村自身、パリへの留学経験があり、雑誌で見たロダンの彫刻「考える人」に「まるで生き物のような気がした」と大きな影響を受けたことを公言。「ルノワールやセザンヌみたいな存在として、彫刻界にはロダンがいるわけですね」と片桐は感心しきり。本作は、ロダンのように綺麗に作るというより、女性の瑞々しい美しさを表現した作品となっています。

ルノワールに始まり、絵画から彫刻まで、多くの女性の姿を目にした片桐は「ルノワールの影響、そして当時のパリに世界中の画家が集まっていた状況を、今でも感じることができるのは面白かったですね。数十年間にギュッと天才たちが集まっていた時代のエネルギーのようなものを、今も絵を通して感じることができました」と興奮気味に語りつつ、「さまざまな女性画の魅力を教えてくれた千葉県立美術館、素晴らしい!」と称賛。女性の表現を追求し続けた芸術家たちに拍手を贈っていました。

◆今日のアンコールは、香取秀真の「鳩香炉」

千葉県立美術館の展示作品の中で、今回のストーリーに入らなかったものからどうしても見てもらいたい作品を紹介する「今日のアンコール」。片桐が選んだのは香取秀真の「鳩香炉」(1949年)。

これはお茶の道具のひとつ「香炉」で、「いいですね~」と愛でる片桐。首の部分が空き、そこからお香を入れて、嘴から煙が出るという仕組みですが、「パッと見が、まずかわいい。そして、羽と首のところに僕の好きな古代中国の模様が入っているんですね」とその見た目を褒めちぎり、「これ、何かのキャラクターにしたらいいんじゃないですかね。それぐらいかわいい」とメロメロになっていました。

最後はミュージアムショップへ。まずは「仏像ストラップ」に「いいなぁ~」と目を奪われつつ、さらにはブロントサウルスやTレックスなど恐竜や虫がデザインされた「特製虫めがね」にも興味津々。個性的なグッズの数々に思わず夢中になる片桐でした。

※開館状況は、千葉県立美術館の公式サイトでご確認ください。

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<番組概要>
番組名:わたしの芸術劇場
放送日時:毎週金曜 21:25~21:54、毎週日曜 12:00~12:25<TOKYO MX1>、毎週日曜 8:00~8:25<TOKYO MX2>
「エムキャス」でも同時配信
出演者:片桐仁
番組Webサイト:https://s.mxtv.jp/variety/geijutsu_gekijou/