コロナで本業が苦境の国内航空大手が農業に乗り出した!? 農園経営、CAが収穫作業も

かんきつ農園で収穫作業をする「ANAあきんど」に出向中の客室乗務員、黒川さゆりさん=2月、松山市(ANAあきんど提供)

 国内の航空大手が農業に熱い視線を注ぎ、農作物の栽培や販路開拓に力を入れている。耕作放棄地の増加や後継者不足の課題を抱える農家と連携、空港近くで農園やレストランの運営、機内食に地域の食材を活用するなど取り組みは多岐にわたり、収穫作業には客室乗務員(CA)も参加する。新型コロナウイルス禍で本業の苦境が続く航空会社にとって、新たな収益源とする狙いもあり、両者のニーズが一致した形だ。(共同通信=塚原裕生)

 ▽オリジナル商品の芋焼酎も

 成田空港から車で約10分、千葉県成田市の約3・5ヘクタールの敷地に、ビニールハウスや畑が整備された農園がある。1~5月にイチゴ狩り、秋にはサツマイモ掘りを楽しめ、家族連れや友人同士で訪れる人が多い。

 運営するのは、日本航空が千葉県香取市の農産物加工販売会社と共同出資して立ち上げた「JALアグリポート」。敷地の大半は遊休農地だったが、農家らから借り受けて再生させた。今では「密」を避けられる収穫体験を売りにして、「やよいひめ」や「とちおとめ」などイチゴ5種類の他、ブドウやブルーベリーも栽培している。

JALアグリポートが成田市で運営するイチゴ農園=3月9日

 農園で育てた作物からオリジナル商品も生まれている。サツマイモの「紅あずま」と「紅はるか」から芋焼酎を作り、同社のオンラインショップやデパートなどで販売している。

 ▽海外からの観光客向けだったが…

 コロナ禍前の空港では、主に東南アジアからの観光客が、日本土産として農産品を持ち歩く姿が多く見られた。インバウンド(訪日客)需要を追い風に、同社は2018年に農園事業に乗り出したが、コロナで一気に蒸発。そこで、国内客向けに収穫体験を組み込んだ宿泊ツアーや、農産物の販路拡大に力を入れ始めた。

千葉県成田市のレストラン「御料鶴」で提供されている料理

 農園近くでは、空港周辺の農家が育てたコメや野菜を使ったメニューを提供するレストラン「御料鶴(ごりょうかく)」もオープン。地元農家から借りた民家を改装した店内には、機内食を運ぶ際に使うミールカートが置かれ、一部の内装も機内をイメージした。メニューには、農園のイチゴを使ったパフェや、羽田空港と成田空港の国際線ラウンジだけでしか食べられない、日航のオリジナルビーフカレーもあり人気だ。

 こうした取り組みで航空ファンのリピーターも獲得しつつあり、JALアグリポートの鎌形晶夫顧問(61)は「空港近くで楽しめるアクティビティーとして定着させていきたい」と意気込む。

千葉県成田市のレストラン「御料鶴」

 ▽耕作放棄地に苗木植える

 一方、ANAホールディングスは昨年4月、グループ再編で傘下に地域商社「ANAあきんど」を誕生させた。松山支店では、松山市でかんきつを栽培する「石丸農園」と提携し、耕作放棄地に「せとか」などミカンの苗木を植えている。

 ふるさと納税の返礼品として、同農園でイヨカンの木のオーナーになれる制度も企画。今年2月末までに18人のオーナーが誕生し、すでに収穫を楽しんだ人もいる。旅先で働くワーケーションを兼ねた収穫体験や、松山市への移住希望者向けのツアーも開き、約60人が参加したという。

 ▽客室乗務員がイヨカンを収穫

 全日本空輸の国内線プレミアムクラスでは、石丸農園のイヨカンを使ったデザートが昨年12月から今年2月までの期間限定で機内食に登場した。客室乗務員で、ANAあきんどに出向中の黒川さゆりさん(28)は、実際に機内で乗客にデザートを提供した。「お客さまに『イヨカンの風味がふわっと広がりおいしい』と喜んでもらえた」と好感触を得た。

 愛媛県新居浜市出身の黒川さんは、地元の課題について知る機会になればと、農園での収穫作業にも加わった。「仕事を通じて農家の話を聞き、耕作放棄地や後継者不足といった悩みについて理解を深められた。客室乗務員にもそれぞれの地元や勤務先がある。松山での経験を生かして各地の特産品を紹介する企画を提案してみたい」と話した。

全日空のプレミアムクラスで提供されたイヨカンを使ったデザート(ANAあきんど提供)

 ANAあきんど松山支店の谷山章支店長(48)は「今後は栽培したミカンのブランド化を目指す。話題作りで付加価値を高めて農家の安定した収益につなげたい」としている。

 かんきつ加工会社の社長でもある、石丸農園の石丸智仁さん(39)は「ミカンの価格低迷や、若い人材が定着しないなどの理由で廃業する農家も増えてきている。新たな取り組みが、愛媛のミカンのアピールにつながってほしい」と話した。

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