新大統領・尹錫悦が標榜する対米従属路線 「紛争の黒幕」を妄信・盲従する危険性

米国の一方的な覇権主義政策に起因する新冷戦構図の深化とウクライナ紛争の勃発により、国際的な安保環境が揺れ動く中、南朝鮮で新政権が発足した。平和を望む内外世論に耳を傾けることなく、対米従属・反北対決路線の強行を標榜する尹錫悦政権は、東北アジアの火薬庫といわれる朝鮮半島の情勢不安を極度に高める要因になり得る。

 「同盟の再建」を主張

 外交・安全保障に関する尹錫悦の主張を一言で要約すれば、米国との同盟を最優先し、米国と運命を共にするということだ。

文在寅政権が標榜した「朝鮮半島平和プロセス」に対して、尹錫悦大統領は「韓米同盟を無視して原則のない対北政策を展開したため」に失敗したと断定、「過去5年間で崩れた韓米同盟を再建」すると強調してきた。

南の歴代政権は例外なく米国との同盟を重視すると言ってきた。ところが、尹錫悦大統領の「同盟重視」論は、ますます衰退する米国が自らの覇権を維持するために国際舞台で強権を無作為に発動している時点において、米国を信じ、行動を共にすると喧伝していることに、その危険性がある。

尹錫悦が主張する外交安保論の核心は、朝鮮半島の軍事的緊張を高める米国の政策に便乗するということだ

「崩れた韓米同盟」を復元するのにとどまらず、「再建」しなければならないという主張は、今日の変化した情勢に即して米国の覇権維持のために先兵隊として行動するという決意を表明したのに等しい。

「平和プロセス」を否定する先兵隊は文字通り軍事的な役割も念頭に置いているようだ。

大統領選挙直後にソウルの米国大使代理に会った尹錫悦当選者は「韓国の唯一の同盟国は米国だ。お互いの安全保障を血によって守ることを約束した国同士なので、それに相応しい関係が再び構築されなければならない」と述べた。ウクライナで武力衝突が起きている渦中に「血で守る安全保障」を米国に誓う人物が大統領就任後、好戦的な政策をとるということは容易に推測できる。

 対決激化の張本人

 新冷戦構図の深化とともに、尹錫悦が妄信する米国は、対決と紛争の黒幕としての正体が露になっている。

情勢を客観的に分析する国際政治及び安全保障の専門家らは、ウクライナ事態についても、ロシアと西欧の間で緩衝地域の役割を果たしていた東欧諸国のNATO加入を計画的に誘引した米国の政策に原因があると指摘している。 実際、米国はウクライナの憲法にNATO加入を明示させる一方、この国に軍事物資及び支援団を派遣し、ドンバス地域の親露勢力に対する攻撃を加速化させた。ロシアが安全担保のために「特別軍事作戦」を断行しなければならない状況を作り出した。

米国は中国を狙った紛争の種も撒いている。「航行の自由」を口実に米海軍の軍艦を台湾海峡に随時派遣し、ここに同盟国の軍艦まで動員しながら情勢を段階的に緊張させた。米軍特殊部隊と米海兵隊のメンバーらは以前から台湾に駐留しながら台湾軍を訓練させてきた。

中国の内政に属する台湾問題に対する米国の干渉は、朝鮮半島の情勢緊張をさらに促進させる潜在的な危険性を孕んでいる。

現在、南に駐留する米軍は、インド太平洋司令部傘下の準統合司令部として存在し、南に駐留する米軍兵力と軍事基地はすでに中国に対する圧力として機能している。さらに、米国は台湾で武力衝突が起きた場合、南に駐留する米軍の出動はもちろん、南の「支援」も当然だという論理を展開している。

ところが、米国の期待に応えようとする尹錫悦大統領は「韓国は変化する国際環境に受動的に適応、対応するのではなく、自由で開かれたインド太平洋の秩序を促進する上で先頭に立つ」と公言してきた。

南朝鮮では尹錫悦の対米追従・反北対決姿勢に対する非難の声が上がっている

大統領選挙の公約集では、米国がインド太平洋戦略の核心と見なすクワッド(QUAD /中国を包囲・牽制するための米国・日本・オーストラリア・インドの協力体制)のワーキンググループに参加し、今後正式加入を模索するとした。

大統領就任演説では、「今、韓国は国内問題と国際問題を分離することができない」と前提して、「国際社会が私たちに期待する役割を主導的に遂行するとき、国内問題も正しい解決方向を見つけることができる」と持論を展開した。過去の言動に照らせば、彼が言う「国際社会の期待」が「米国の期待」であることが分かる

  地政学的危機に対する警鐘

 昨年1月に発足した米国のバイデン政権は、中国、ロシアに対して政治外交・軍事的な挑発を繰り返す一方で、朝鮮半島でも軍事的緊張を高めてきた。

米・中・露の新冷戦構図が深まる中、権力を握った尹錫悦が直面する最大の試練は、ますます複雑化する朝鮮半島の地政学的環境であるとの観測が出ている。大国の対立に巻き込まれたウクライナの事態を教訓とし、新政権が慎重でバランスの取れた外交を進めなければならない指摘が相次いでいる。

ところが、政治経験がない検察総長出身の大統領は馬耳東風のようだ。「韓米同盟の再建」を提唱する尹錫悦は、米国との合同軍事練習の正常化と米軍戦略資産の展開をはじめとする拡張抑制力の強化、すなわち「北に対する先制攻撃力の強化」を米国に懇願している。

対米従属・反北対決を信条とする尹錫悦政権が成立したことで、朝鮮半島で武力衝突の危険性が高まるという懸念が生じているのは決して偶然ではない。

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