キヤノン、ボリュメトリックビデオでNBA生中継を実現。技術背景をNAB内セッションで解説[NAB2022]

ESPNは2022年3月16日、NBAのブルックリン・ネッツとダラス・マーベリックスのゲームをテレビの生中継として史上初めて試合全体をボリュメトリック映像で放送した。バスケットボールコートの周りに約100台の4Kカメラを設置するキヤノンのボリュメトリックビデオシステムを使用して実現したもの。

このテレビ生中継の背景を解説したセッション「キヤノンフリービューポイント–ライブボリュメトリックデータブロードキャストシステム」のトピックについて、NAB Show 2022のスポーツ系放送のアソシエーション「SVGチェアマンズフォーラム」内でディスカッションが行われた。NBAとキヤノンからボリュメトリックビデオシステムの将来について興味深い内容が語られたので、その様子を紹介しよう。

登壇者は、リーグからNBAのメディアオペレーション兼テクノロジー担当エグゼクティブバイスプレジデントのスティーブヘルマス氏、SVG(スポーツビデオグループ)のエディトリアルディレクターのケン・カーシュバウマー氏、Canon U.S.A., Inc.のシニアディレクター伊藤健氏。

左からCanon U.S.A., Inc.の伊藤健氏、NBAのスティーブヘルムス氏、スポーツビデオグループのケン・ケルシュバウマー氏

アメリカのスポーツビジネスがターゲット

伊藤氏は、NABへのボリュメトリックビデオシステム導入経緯から紹介。キヤノンはボリュメトリックビデオシステムの需要について、3秒間で映像を作れることからスポーツ中継に必ずマーケットはあると考え、特にスポーツビジネスが盛んなアメリカをターゲットとしていたという。

数年前から米国各スポーツ団体と話し合いを進める中でもNBAから反応があり、2019年からNBA技術系トップのスティーブヘルマス氏と話し合いを開始。その結果、NBAブルックリン・ネッツの本拠地であるニューヨーク州のバークレイズセンターとNBAクリーブランド・キャバリアーズの本拠地であるオハイオ州のロケット・モーゲージ・フィールドハウスの2つのアリーナにシステムの設置が決定。

特にロケット・モーゲージ・フィールドハウスは2022年NBAオールスターゲーム開催地であることが決め手になったという。

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各会場に設置したキヤノンのボリュメトリックビデオシステムは、アリーナに100台以上の4Kのカメラを囲むように設置して、4ラック分のサーバーで3Dのモデルを作り、データベースを作ってビデオレンダリングまでを会場で行うことが可能だと解説。

2022年2月20日のクリーブランドで行われたNBAオールスター戦のテレビ生中継で同技術を初導入したところ、ESPNから好反応があり、2022年3月16日のブルックリン・ネッツとダラス・マーベリックスのゲーム中継を通常のNBA放送をESPNで放送しつつ、ESPN+と呼ばれるライブストリーム、オンデマンド配信を行うストリーミングチャンネルにてゲーム開始から終了まで1本丸々ボリュメトリック映像だけで放送することが決定。米国のスポーツは新しいことに積極的にチャレンジする傾向があるという。

技術的にはサーバーは増やした分だけレンダリング映像の出力本数を充実させることはできるが、初年度は6本のマルチプルストリーム出力対応の仕様に決定。ESPN放送時は6ストリームのうちリプレイ用が2系統で、好プレー時に短時間でリプレイ再現とアーティスティックにアングルを編集できるようにしたものと残りの4ストリームは試合中に操作が可能なアングルで中継したと話をした。

今回はマニュアルによるコントロールでカメラアングルを生成したが、今後はトラッキング技術を用いて特定の選手を自動で追いかけたカメラアングルも視野に入れて開発を進めるという。

ESPNのスタッフはニューヨークに来て中継作業を行うのではなく、コネチカット州ブリストルにあるESPN本社に信号を6本すべて送信してカッティングを行い、オンエアを行ったという。技術的には会場のレンダリングの3秒遅れに加えてESPNのカッティング作業があり、10秒程度の遅れで放送を実現できたという。

ボリュメトリック映像でスポーツ中継のさらなる盛り上がりに期待

ヘルマス氏は、ボリュメトリック映像の活用は放送だけではないという。ARのグラフィックや試合のジャッジング、選手の健康状態をチェックするヘルスパフォーマンスにも使えるとして話をまとめた。近い将来、中継から審判、選手の管理まで、あらゆる面でボリュメトリック映像はスポーツにとって欠かせない技術になるのは間違いなさそうだ。

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