ポルシェを加え大世帯に。電動化も見据えるシリーズのいま/DTM代表ゲルハルト・ベルガーインタビュー

 4月30日~5月1日、ポルトガルのアウトドロモ・インテルナシオナル・ド・アルガルベ(アルガルベ・インターナショナル・サーキット)で、2022年のオープニング・ラウンドが開催されたDTMドイツ・ツーリングカー選手権。同シリーズを運営するITR e.V代表のゲルハルト・ベルガー氏に、GT3レースとなって2年目を迎えたDTMのいまをきいた。

■“観客が集まらない”からこその選択

──今季は17チーム、出走台数29台、ドライバーは15カ国もの出身者が集まるなど、昨年と比べて一気に多国籍で大所帯となったDTMですが、代表としてどう見ておられますか?

ゲルハルト・ベルガー(以下GB):大所帯となったことで、いままでになかったことをディスカッションする機会も増えたが、総じて参加しているチームやドライバーを高く評価しているし、今季のこれからの発展が楽しみだ。

ポルティマオではポルシェがオーバーテイクに非常に苦しんだようだ。トップから20数台が1秒以内に入るかなりタイトな予選結果を見ると、そこからどう出るのかというのは、ポルシェだけではなく全員の課題でもあるのではないかと思うし、トップドライバーとしてこうあるべきリザルトで、この接戦状態は非常に良い兆候なのではないかと思う。

──今季の開幕戦は異例のポルトガル、それもどんなレースでも観客が集まらないといわれるポルティマオでの開催となりましたが、ここをDTMの開幕戦に選んだ理由は?

GB:昨年、今季用にカレンダーを組んだ当初はまだ新型コロナウイルス禍にあり、各国各行政の制限が多く、今季も無観客レースを開催されることを余儀なくされる可能性があった。だからその影響を受けないように、ここは観客が集まらないことも承知の上で開幕戦として設定した。なぜならば、一昨年・昨年は多くのレースがコロナ禍でカレンダーが変更やキャンセルを余儀なくされた。それによって見込まれていた興行収入を失ったり、代替えのサーキットの調整をし直したりで混乱した。

そのような経験もあり、カレンダーを決めた時点ではまだまったく先が見えなかったので、可能な限りコロナの影響が少なく、無観客レースの場合でも、観客入れでもあまり関係がないところがここにした決め手のひとつだ。また、敷地も広く、感染拡大防止のために充分なスペースが確保できる上、開幕前の公式テストを組み合わせて移動費や経費の節約の目論見もあったし、温暖でテストの天候の影響も受けにくいという点でもここを選んだ。

また、DTMを少しインターナショナル化することを目標としている点においてもポルトガルは一度試してみる価値もあった。南スペイン、ポルトガル、イタリア、この辺りはまだ認知度も低く、観客導入が難しいのは最初から理解している。少しずつこれらの国でも初めて行かないことには何も起こらない。

──では来年のカレンダーはもう作り始めているのですか?

GB:すでに来季のカレンダーの調整に入っているので、多方面からの意見を取り入れたり新規のサーキットの状況も視野に入れて調査している。コロナ規制を視野に入れたので、今年の開幕戦はポルティマオとなったのだが、来年はまた伝統どおりに開幕戦がドイツになる可能性は高い。ファンやドライバーからはニュルブルクリンクの“ノルドシュライフェ”でのDTM開催を望む声が上がっている。さまざまな観点から精査しなければならないが、いつの日か実現できればうれしいと思う。

2022年DTMの開幕戦はポルトガルのアルガルベ・インターナショナル・サーキットで開催された

■DTMデビューのポルシェが苦戦も「心配していない」

──今季は随分とBoP(性能調整)がレースウイークに変更されましたが、どういった意図があるのですか?

GB:今季はより公平にする努力をすべく、シーズン前のテストの他、予選や前日のレースでの各マシンのパフォーマンスを見ながら、レースウイーク中でも必要に応じてBoPを柔軟に変更可能にしている(ポルティマオでは事前の公式テストと土・日各一回、計3回のBoPの変更が行われた)。

例えば、開幕戦ではランボルギーニにおいては最終的に+40kgのバラストを積んでいるうえ、さらにはサクセスバラストも加わっている。しかし、それでも(ミルコ・)ボルトロッティは上位には入る努力をしているし、それらを言い訳にはしない。従って、とくにどのメーカーが有利だとか、そうでないかという不公平にはなっていないはずだ。BoPに関するディスカッションは非常に高いレベルで行われているし、オフィシャル側としても柔軟な対応をしている。

──DTM初参戦となるポルシェの開幕戦はかなり厳しかったようですね。

GB:ポルシェはDTM史上初のことで、まだどのポイントをどう攻めるかというところは定まっていない。それはポルシェだけではなく、昨年GT3で始めたDTMで多くのメーカーがシーズン前半戦で試行錯誤を繰り返していた。ポルシェもいまそれにもがいているところだと思うが、必ずポルシェなら解決策を見つけ出すだろうし、心配はしていない。私自身もポルシェの走行データやBoPは確認している。メルセデスやアウディも昨年の初旬は糸口を見つけるのに苦しんでいた。

2022年からDTMに初参戦しているポルシェ。3台のポルシェ911 GT3 Rがフル参戦する

■テストを制限する考えはなく「苦情や訴えがあれば議題にする」

──以前のクラス1の時ではプライベートのテストは禁止、原則的に公式テストのみでした。いま、プライベーターとなった新DTMではテストはフリーとなりましたが、その分色んな可能性が増えた一方で、チームの経済格差でテストの機会に差が出てしまう恐れもあります。例えば、今後他のチームも経済的に加入しやすくするためにもある一定のテスト禁止期間を設ける等のお考えはありますか?

GB:特にいまのところはその点に関してチームからの苦情や訴えは主催者に対してはないが、もしもそのような意見が出れば議題のテーマに取り入れる必要があるのかも知れない。DTMがプライベーターとなったことで、テストが自由にできるというようになったのも利点のひとつであるし、チームごとに開幕を迎えるまでにどうやってプロセスを組んで作業をしていくのかも自由だ。

しかし、私自身もチームやワークス側を長年経験しているが、禁止事項を増やされるとその分シーズン開幕への準備が厳しくなることをよく知っている。テストの回数が厳しく制限されるとなると、それはそれで実走が少なく準備不足となり苦情も出る。ましてやチームの多くはDTMのみならず、他のシリーズにも参戦しており、DTMのテストと称しなくとも他のカテゴリ用やレースで走行を重ねる機会もある。その線引きが非常に難しいところだ。

例えば、スパでプライベートテストをしたとする。その後にWECやF1が開催され、他のイベントが重ねられた後はトラックコンディションも大きく変わる。従ってコースレイアウトを知るという意味ではテストは意味のあるものだが、トラックコンディションを精細にテストするにはあまり効果的ではない。チームがテストを希望する時期も目的もそれぞれで違う訳で、それを主催者側から厳しく制限をすることも難しいのが実状だ。

──ゲストドライバーのセバスチャン・ローブについてどう評価しますか?

GB:トップとは1秒近くの差がついているもの想定内だし、まったく違うカテゴリの選手がトップグループに入るのは難しいとは承知の上だ。しかし、彼のそのファイトやチャレンジ精神、多くのドライバー仲間が憧れるカリスマ性に後輩たちも触発されただろうし、ファンも楽しんでくれたと思う。何よりも本人がとてもエンジョイしてくれたことがうれしい。

元WRC9連覇王者のセバスチャン・ローブがDTM初参戦。ニック・キャシディの代役として、開幕戦ポルティマオに出場した

■電動化に向けた現在の状況を説明

──クラス1が終了し、それ以降の日独の交流が絶たれてしまい、両国のファンは随分とがっかりしたと思います。しかし、その一方でGT3を用いることになって、世界中どこに行っても同じ車両レギュレーションが基準となったことはひとつの利点でもあります。また、いつの日か日本と一緒にレースができたらという構想はありますか?

GB:私サイドとしてはいつでもウェルカム! バンドーサン(GTA代表の坂東正明氏)とはとても楽しく仕事ができたし、彼はモータースポーツ人として素晴らしいアイデアやバイタリティを持っている方だ。スーパーGTでもGT3マシンは活躍しているし、GT500のマシンを操るトップドライバーならGT3マシンをすぐに乗りこなせる。またいつの日か交流を持てたらうれしいね。

──2023年に電動化へという予定ですね。実際のところ、2023年はもう半年後に迫っていますが、開発状況はどんな感じなのですか?やはり来年から予定どおりにEVへスイッチするのでしょうか?

GB:現在もシェフラーとともに開発が進められている。ミュッケ・モータースポーツのマキシミリアン・ブークがドライブしている18号車のメルセデスAMGが次期EV DTMマシンに搭載されるドライブ・バイ・ワイヤシステムのテスト車両でもある。プロトタイプを実際に走らせるのには12カ月は最低必要とされる。また、各メーカーとの兼ね合い等もあり、2024年、2025年を実稼働を目標としていると言ったところだ。

第一段階のプロトタイプの作成は自動車メーカー関係なく、まずはITRとシェフラーサイドでのニュートラルな状態で作成であるべきだと考えている。この段階にワークスが介入すると、どうしても、そのメーカー関連のサプライヤーを押してきたり、デザインはこうすべき、ギアボックスやモーターはどうなるということになってくるので、現段階ではワークス介入なしでの開発段階だ。

もちろんそのプロトの段階であっても各自動車メーカーとはインフォメーションを共有し、その後の段階で実車をどのような仕様にしていくのか、メーカーらと話し合いをすることになっている。

──DTMのEV化する前に、例えばバイオ燃料を使用するなどの構想はなかったのですか?

GB:もちろん、バイオ燃料に関する案も話し合われた。しかし、それに掛かる費用は予想を大きく上回る概算になり、エントリー費用の大幅な値上げやチームが負担する諸経費が一気に増える。果たしてそんな莫大な費用をプライベーターが捻出できるのだろうか。そのような経緯もあり、DTMではバイオ燃料を用いての将来的なレース興行は断念しているんだ。

ミルコ・ボルトロッティ駆るランボルギーニ・ウラカンGT3 Evo

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