「反動分子の策動だ」一家4人殺傷事件に金正恩政権が衝撃

北朝鮮の片田舎で凄惨な強盗殺人事件が発生し、当局と庶民に衝撃を与えていると、米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)が報じている。

金正恩総書記の参加の下、北朝鮮の首都・平壌で朝鮮人民軍(北朝鮮軍)創建90周年を記念する閲兵式が行われた4月25日の夜、平安南道(ピョンアンナムド)でその事件は起きた。

RFAが道内の司法関係の情報筋の証言として伝えたところによると、事件の概要は次のとおりだ。

家人が寝静まった檜倉(フェチャン)郡のある民家に、盗賊が侵入。1階で寝ていた男性チェさん(38歳)が物音を聞きつけて気づくと、犯人は彼の頭部を滅多打ちにして殺害。さらに、チェさんの隣で寝ていた長男(11歳)にまで凶刃を振るい重傷を負わせた。長男は意識不明の重体だという。

また、2階で寝ていた妻と長女も複数回、刃物で刺されたとされるが、どの程度の傷を負ったかについて、RFAは言及していない。

捜査当局は、一家と顔見知りの兵士による犯行を疑っているという。北朝鮮では、上層部の食糧横流しなどのせいで飢えた兵士らによる凶悪犯罪が多発している。

一方、当局は犯人をまともに目撃した唯一の証人である長男を救うため、道病院から平壌の病院に緊急搬送し、治療を行っているという。北朝鮮で、このような形で負傷した庶民の子どもが中央の病院に搬送されるのは、極めて異例だ。

現場は、平壌中心部から直線距離で60キロほどと遠くはないが、新型コロナウイルス対策で移動制限が厳しくなっている中では、よほどの高位幹部の決済がなければ実行されないはずだ。もしかしたら金正恩氏自身か、あるいは妹である金与正(キム・ヨジョン)朝鮮労働党副部長あたりが指示したのかもしれない。

情報筋によれば、国家保衛省(秘密警察)と社会安全省(警察庁)などは、今回の事件は「民心を撹乱する反動分子の策動」であるとして、下部機関に徹底的な捜査を命じたという。単純な刑事事件が、重大な政治事件に置き換えられている点も、最高レベルの関心事であることをうかがわせる。

もちろん、軍の創建記念日という政治的に重要な日に発生した点も、この事件が重大視される理由のひとつになっているはずだ。また、同郡には金鉱があり、チェさんもその関係の仕事に携わっていたという。金は国家の重要な財産だ。これもまた、当局を刺激する要素になっている可能性がある。

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