映画『メイド・イン・バングラデシュ』 労働者の権利獲得に一歩踏み出した女性の勇気

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バングラデシュの首都ダッカにある縫製工場で働くシムは、勤務中に同僚が火事で亡くなったことをきっかけに劣悪な労働環境や低賃金を改善するため、労働組合結成を目指す。工場長から脅迫され、夫の反対を受けても真剣に法律を学ぶ姿に同僚たちも立ち上がった――。映画『メイド・イン・バングラデシュ』は工場での人権を無視された不当な扱いだけでなく、宗教的な女性観や教育格差など、彼女らの抱える幾つもの生きづらさを描く。(松島香織)

シムは望まない結婚を押し付けられ地方から逃げて来た。現在は無職の夫と暮らしている。火事の翌日に工場へ行ったシムは、労働者人権団体の女性に声をかけられ、労働組合を作れば工場側と対等な立場で交渉できることを知った。

シムたちはある暑い日に夜中まで残業し、工場に泊まってから帰ることになるが、男性の工場長らは電気がもったいないと扇風機を止めてしまう。法律を学び、同僚たちを説得して組合結成に必要な署名を集めようとするシム。一方で、滞納していた家賃代を高学歴の人権団体の女性から借りようとするが、女性から「返さなくていい」とむき出しの紙幣を差し出され、貧富の格差を身をもって味わう。

バングラデシュは中国に次ぐ衣類輸出国であり、2020年度の総輸出金額では8割を超えている。そうしたバングラデシュの経済を支えているのが、縫製工場の低賃金で働く20~30代の学歴の低い女性たちだ。2013年に1100人以上の死者を出した「ラナ・プラザ崩落事故」により、世界的にファストファッションやファッションブランドのあり方が注目されたが、それ以降も労働者の権利擁護は進んでいないという。

映画では、未婚の同僚が「結婚すれば安心して暮らせる」と話すが、シムは「結婚しても何も変わらない」と言い放つ。ジェンダーや社会階層に縛られずに自分らしく生きたいシムは、なんとしてでも労働者の人権を勝ち取るために組合の登録を担当する労働省の幹部に会いに行く。ぬかるんだ灰色の街を鮮やかなヒジャブをなびかせて歩く彼女たちはとてもパワフルだ。

消費者は自分で考えて選ぶ力をつけて

岩波ホール(東京・千代田)での5月3日の上映後には、フェアトレード専門ブランド「ピープルツリー」を展開するフェアトレードカンパニー(東京・世田谷)社長のジェームズ・ミニーさんと、同社の運営母体でありバングラデシュで生産者支援をしているNGOグローバル・ヴィレッジ代表の胤森なお子さんによるトークショーがあった。

胤森さんはフェアトレードについて、「かわいそうな人を助けることではなく誇りをもって仕事をしている人と対等な立場で取引することだ」と説明。映画には、「消費者は値段だけを見て買うのではなく、自分で考えて選ぶ力をつけてというメッセージがあったと思う」と述べ、ミニーさんもまた、「成し遂げられるかどうかわからなくても、方向性を定めて一歩一歩先に進むことが大事」だと話し、シムの行動力に思いをはせた。

『メイド・イン・バングラデシュ』
http://pan-dora.co.jp/bangladesh/
4月16日より岩波ホールほか全国公開中。

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