美しかった完勝、首位鹿島に3―0 広島が見せた今季のベストゲーム

J1 広島―鹿島 鹿島に勝利し喜ぶ広島イレブン=Eスタ

 「盛者必衰」。平家物語ではないが、一時代の栄華を築いたチームでも、いずれは力が衰えていく。Jリーグの30年の歴史を見ると、J1で圧倒的な強さを誇ったチームでも、あっけなくJ2に降格してしまう。その入れ替わりの激しいリーグにも例外がある。鹿島アントラーズだ。

 これまで獲得したリーグ戦、天皇杯、リーグカップ(現YBCルヴァン・カップ)の国内三大タイトルで合わせて19回優勝。他のクラブとは違い、常に安定した強さを発揮してきた。だが、その鹿島も2016年を最後にJ1リーグ制覇からは遠ざかっている。特に最近のリーグではスタートでつまずき、早々と優勝争いから脱落していた。

 今季は、チーム発足以来の南米路線から初めて方向転換した。スイス出身のレネ・バイラー監督を迎え、どのようなチームになるのか興味深いものがあった。ただ、アジア・チャンピオンズリーグ(ACL)に参加するライバルとは消化した試合数が違っていたために正確な順位をつかみにくかった。その試合数で並んだ4月29日のセレッソ大阪戦で3―0の快勝を飾り、川崎フロンターレを抜いて首位に躍り出た。この試合が鹿島のJ1での通算1000試合目だった。ちなみに内訳は555勝143分け302敗だ。

 続く第11節もジュビロ磐田に3―1の勝利を収め、首位を堅持。ドイツ出身のミヒャエル・スキッペ監督率いるサンフレッチェ広島との5月7日の第12節は、欧州スタイルの激突という点で注目だった。

 首位を走る好調なチームを迎えるとき、どのような戦略で臨むのか。圧倒的に相手との実力差があれば、硬い甲羅を持つカメのごとく自陣で守り、負けない試合を展開する場合もあり得る。しかし、広島と鹿島の差はそれほどない。広島は真正面からぶつかり、シーズンに入ってから最高の部類のサッカーを演じた。

 ベースとなったのは堅固な3バックだ。左から佐々木翔、荒木隼人、塩谷司と並べられた3人は、鹿島のサイドからの攻撃につられて引き出されることはない。どっしりと中央に構えて、サイドのスペースを柏好文、藤井智也の左右のウイングバックが埋める。サイドの選手は攻守に恐ろしいほど忙しくなるのだが、守備時に5バックとなることで、鹿島にスペースを与えなかった。

 鹿島のバイラー監督の言葉が試合の内容を端的に表していた。「システムうんぬんというよりは相手の方がデュエルを競り勝っていました。相手の判断のスピード、動作のスピードも非常に速かった」

 広島は中盤の野津田岳人、森島司、満田誠の寄せが早く、2トップのジュニオールサントス、ベンカリファのプレスバックも効果的。守りに入ればスペースもパスコースも与えない。鹿島はボールを保持するものの、ブロックの外で脅威にならないパスを回すしかない。鹿島の得点源である上田綺世にはほとんどボールは入らない。自由に動き回ってチャンスをつくろうとする鈴木優磨もフィニッシュに至るような効果的なプレーは封じられていた。

 この日、広島は守備のリズムが攻撃にも結び付いた。前半38分、右サイドのスローイン。ベンカリファのキープからジュニオールサントスがドリブルで持ち運ぶ。そのボールは一度は鹿島の三竿健斗に引っ掛かったが、こぼれ球をフォローしたのが満田だ。周りがよく見えていた大卒ルーキーは左後方から駆け上がる味方を察知。ダイレクトで左前方のスペースへ。それをベテラン柏が冷静に左足でゴール右隅に突き刺した。

 後半に入っても、攻めに出たときの広島の推進力は衰えない。後半18分には佐々木の自陣からの縦パスを中盤でジュニオールサントスが収める。そのポストからのボールをフォローした満田が20メートルをドリブルで持ち上がり、ペナルティーエリア外から右足シュート。ボールはDFの股間を抜けゴール左へ突き刺さった。後半34分にはジュニオールサントスのシュートのこぼれ球を柏が再び決めて3―0の安全圏へ。攻守ともに文句のない内容でチームのJ1通算400勝目をつかみ取った。

 かなり満足感のある勝利だったのだろう。2得点を記録した柏は「首位を相手にどれだけできるかっていうところをチームとして整理して臨んで、90分通して相手に何もさせなかったと思います」。鹿島のゴール枠内へのシュートを2本に抑えた守備も含めて「完璧な勝利だったんじゃないかなと思います」と喜んだ。

 一方、鹿島は来日したジーコの前で敗れたとはいえ、首位はキープ。ここ数年に比べ、チームは安定感を増しているのではないだろうか。

 ACLで敗退した川崎は、その分だけリーグ3連覇に向けて力を注いでくるだろう。ここ2シーズン、終わってみれば川崎の強さだけが際立ったJ1。しかし、今年は鹿島が復調の兆しを見せ、柏レイソル、サガン鳥栖なども勢いがある。優勝争いは混戦になった方が最後まで興味が尽きない。それに加え、広島が鹿島戦で見せたような、見る者に「意図」が伝わってくる試合が増えれば、これ以上楽しいことはない。

岩崎龍一(いわさき・りゅういち)のプロフィル サッカージャーナリスト。1960年青森県八戸市生まれ。明治大学卒。サッカー専門誌記者を経てフリーに。新聞、雑誌等で原稿を執筆。ワールドカップの現地取材は2018年ロシア大会で7大会目。

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