【イベント報告】「南スーダンから生中継——いとうせいこうさんと迫る、世界一新しい国のいま」

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国境なき医師団(MSF)は、4月24日にオンライントークイベント

「南スーダンから生中継——いとうせいこうさんと迫る、世界一新しい国のいま」

を開催しました。2018年に南スーダンでMSFの活動現場を取材した作家・クリエーターのいとうせいこうさんをお迎えし、南スーダンで活動中のMSFの日本人スタッフを中継でつなぎ、いまだ人道危機に直面する現地の人びとの状況、現地で目の当たりにしたリアルな現実と、MSFの活動をお伝えしました。当日および事後視聴合わせ視聴回数は3000回を超え、多くの方に視聴いただきました。

トークイベントの録画は以下より視聴できます。ぜひご覧ください。(再生時間:約75分)

イベントでは参加者の皆さまからたくさんのご質問をいただきました。当日回答しきれなかったご質問について、いくつかお答えします。

Q:洪水が起こっているとのことですが、一方でアフリカでは干ばつが増えているとの話も聞きます。洪水と干ばつとは逆の現象のように思いますが、どういうことなんでしょうか?
A:同じアフリカ大陸内でも、国やエリアにより気候が異なります。以下の事例をご参照ください。
「雨が降らなければ死んでしまう──」3年連続の干ばつに襲われたマダガスカル、深刻な食料不足が人びとの命を脅かす
水の中を2時間歩いて病院へ 南スーダン各地で大洪水が発生

Q:日本では子供への性教育などを通じて命の勉強をしている方もいますが、海外ではそういったプログラムはあるのでしょうか?
A:コンゴ民主共和国で、MSFのヘルスプロモーターが中学校と連携し、子どもたちに性暴力について啓発活動した例をご参照ください。

Q:家族計画については、女性や妊婦だけに実施されているのでしょうか?
A:(MSF助産師 土岐)
南スーダンのムンドリやケディバでの啓発活動には リプロダクティブ・ヘルスケア (性と生殖に関する医療)の改善があり、そこで家族計画についての話もしています。月平均1000人ほどの現地の人びとを対象に話をしており、中には男性も含まれています。しかし、地域によって子どもは多ければ多いほど良い、避妊は神の意向に反する行為、という考えが男性の中に根強くあり、家族計画の必要性を理解し、行動変容に至るまでには時間がかかりそうです。

Q:望まない妊娠を避けるための避妊薬の入手は難しいのでしょうか?
A:(MSF助産師 土岐)
望まない妊娠を避けるための避妊方法は2種類あります。一つは長期に使う避妊薬 (低用量ピル、子宮内避妊具<IUD>、ホルモン注射など、数カ月から数年にわたり避妊ができます)、そして避妊をせずに性行為をした後に妊娠を予防する緊急避妊薬です。緊急避妊薬の場合、MSFから入手するか、この地域に唯一ある市中病院から入手する以外方法はありません。市中病院だと国の決まりにより長期避妊薬も緊急避妊薬も夫の許可がないと受け取ることができません。つまり夫が妻に妊娠を望み続ける限り、女性たちは避妊薬にアクセスすることはできないのです。また、緊急避妊薬は性交後5日以内に内服する必要があります。性暴力の被害にあった場合は市中病院でも緊急避妊薬を入手できますが、ほとんどの女性が、加害者から脅されていたり、地域に噂が広まることを恐れ、性暴力にあったことを人に話すことができず、5日以内に医療へアクセスができる人はほとんどいないのが現状です。

Q:人の考え方を変える。風習を変えることってどう考えたらいいのでしょう。人として生きる権利という考え方はとても大切だと思うのですが。
A:(MSF助産師 土岐)
人として生きる権利、人として扱われる権利、まさにその通りだと思います。ですが、残念ながら南スーダンでは、女性は男性の所有物であり、女性には何をしても許されるという昔ながらの考えが根強くあるのが現状です。これは南スーダンにとどまらず、過去の中東のプロジェクトでも同じ経験をし、幾度となく悔しい思いをしたのを覚えています。活動地では性被害者が医療にアクセスできるようネットワークを作る、そして医療を提供する、それが私たちの仕事です。また、変化を起こさなければいけない伝統的風習の一つに、分娩後、切断した後の臍の緒や傷口全般に灰を塗り込むというものがあります。これが原因で感染症を起こし、死に繋がることがあるからです。若い世代は私たち医療者の話を比較的ポジティブに聞いてくれますが、年配の世代がそれを遮ぎり、昔からの方法を実施してしまいます。こういった状況は数年で簡単に変わるものではないと思うので、何十年後かに変わっていることを願いながら科学的根拠に基づいたメッセージを伝え続けていくことが、私たちにできることなのかなと思っています。

A:(MSF医師・疫学専門家 西野)
非常に重要な問題だと思います。個人的な見解になりますが、現地の人への啓発活動などを行う際、その問題が知識不足に起因する問題ならば介入しますが、現地の文化や慣習に根ざしたものならば尊重するべきものであると思っています。その点に関しては現地スタッフや現地のコミュニティリーダーと相談が必要です。コミュニティによっては健康以上に重要視されている概念があるのは事実だと思います。

Q:(助産師が超音波の代わりに使用しているのは)トラウベでしょうか?オリジナルの道具ですか?
A:(MSF助産師 土岐)
トラウベです。

Q:医療攻撃、人間が普通に生活できれば起こりえないことです。 MSFの方々は心が折れることはありませんか。
A:(MSF助産師 土岐)
わたし個人的には怒りが勝り心が折れたことは今のところありません。医療攻撃をうけ、最終的に苦しむのは何千、何万人の現地の人たちだからです。他の団体が入っていけないようなところでも活動するMSFが医療を届けることをやめたら誰が医療を届けるのか、そんな想いを共有できる熱い人たちが集まるチームで働けていることも、心が折れないための支えになっているんだと思います。

A:(MSF医師・疫学専門家 西野)
医療攻撃で自分たちが危険にさらされるはもちろんですが、それ以上に、医療が必要とされている地域で活動ができなくなることに対するやり切れなさを強く感じます。医療攻撃を行う極少数の人によって、そこで生活している紛争を望まない多くの人たちの医療の機会が失われる、それが意図的に行われていることは残念で仕方ありません。

Q:悲しい出来事を目の当たりにすることも多いかと思いますが、現地で活動するスタッフへ向けた心のケアのプログラムなどはあるのでしょうか?
A:MSFの活動は、新しい世界に触れこれまでにない経験ができる一方で、多国籍チームでの共同生活や、時に危険を伴う状況、甚大な被害を受けた人びととの接触など、身体的・精神的に疲弊することも少なくありません。海外派遣スタッフは、不安や悩みを抱えている時や、相談したいことがある時などは、出発前・活動中・帰国後に関わらずいつでも、専門家のカウンセリングを受けることができます。

Q:将来助産師としてMSFの活動に参加したいと考えています。海外での活動が多くなると思うため語学力が重要になると思います。登壇者の方々はどのように語学力を鍛えましたか?
A:(MSF助産師 土岐)
わたしは助産師としての経験を日本で積んだ後にオーストラリアに留学して英語を習得しました。

A:(MSF医師・疫学専門家 西野)
自分は留学と海外勤務でした。

A:(MSF アドミニストレーション・マネジャー吉田)
20代のころは、米国MBA留学のためにTOEICとTOEFLを受けながら、語彙力と文法を強化しました。語彙は音声付きの単語集を持ち歩き、通勤時にひたすら聞いていました。文法は、TOEICとTOEFLの問題集を繰り返し解き続けました。30代に入ってからは、外資系企業で聞く話すの実践を繰り返しました(ある企業では、1日の半分くらいはヘッドセットを付けて電話会議をしていました)。 若い時の方が圧倒的に記憶力がありますので、早いうちに語彙力を増やしておくことをお勧めします。もちろん読む書く聞く話すのバランスは大切ですが、語彙は増やしておいて損はありません。映画を見たり、洋楽を聴いて歌うのも良い訓練になります。

Q:MSFにおいて特に活躍できる診療科はありますか?
A:世界で500あまりのプロジェクトを同時に運営し、そのプロジェクト内容は様々です。全ての緊急医療で、たくさんの診療科の医師たちが活躍しており、その時々の世界の保険情勢や現地のニーズによっても変わります。そのため特にどの診療科が活躍しているということはお伝えしにくいのですが、現在募集している医療関係の職種は以下のページをご確認ください。
医療の職種 https://www.msf.or.jp/work/expat/positions/

Q:将来、疫学専門家としてMSFを視野に入れております。国内で疫学トレーニング等は経験して現地入りした方が良いでしょうか?(公衆衛生修士は取得済みです。)
A:(MSF日本フィールド人事部)
MSFでは全てのスタッフにおいて現場で即戦力が求められます。そのため、どの職種においても応募前にすでにそれぞれの分野で経験を豊富に積んでいることが重要です。応募条件等は以下をご参考ください。
疫学専門家 https://www.msf.or.jp/work/expat/positions/epidemiologist/

A:(MSF医師・疫学専門家 西野)
MSFの疫学専門家としての応募条件を満たしていれば、国内での疫学トレーニングはもちろん有用ですが、必ずしも必要ないと思います。 疫学専門家の仕事内容は多岐にわたり、日本国内では経験できない内容も含まれるので、その時の自分の能力や経験に合致したプロジェクトに参加することになります。自分自身、現地で活動しながら学んでいくことも多々ありました。

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