第53回「シムカ1200Sクーペ ④」

再稼働した数日後、シムカを駆り、日本青年館のカルメン・マキとのジョイントに出かけた。 ちょっと記憶が曖昧なので、カルメン・マキだったか、厚生年金だったかも不確かで申し訳ないが、イベントを終え、助手席にTOSHIを乗せ、環七、大原交差点を過ぎたとき、隣のTOSHIが「あれ、シムカが走ってる」と言うのだ。「そんなバカなことはない、たぶんフィアットかなにかと見間違えてるだけだよ」と答えた。何せ、ブルーバードというと「あの赤い車?」とか言う始末でまったく車のことをわかっていないTOSHIのこと。それに日本に20台も輸入されていない1200Sクーペが再稼働したばかりの目の前に現れるわけがない。 などとブツブツ言いながら、フロントルーバーの先に視点を移してみると、なんと白い1200Sクーペがかなりの勢いで走り去っていくではないか。 それはビックリするのも束の間、後ろからハイエースの楽器車が激しく追い越し車線に入り込み、形相を変えて前方を指さしまくる。 さあ、それから始まってしまったカーチェイス、白いシムカを追って赤いシムカとグリーンのハイエース。そして高円寺まで走り込み、やっと捕まえたときの相手の白いシムカのドライバーの驚きようったらなかった。 こんな出会いを自分以上に驚いてくれたT氏は国際興業のメカニックをしていて、これからいろいろ面倒見ますよと言ってくれたときの喜びは何ものにも代え難い環七脇のプレゼントだったのだ。 それから数カ月経ち、彼の友人のトヨタ営業マンが実は青い1200Sクーペに乗っており、今度ツルんで走りましょうということになった。 そしてその日が来て、自分が先頭を取り、赤白青のトリコロールで走らせているとトラックの運ちゃんから「陸送かい?」などとからかわれる始末。そしてどこ行く当てもないところで転がせていたもので、なぜか自分の慣れ親しんだ日比谷野音の裏口に着いてしまった。 観客もそれなりにいたのだが、なぜか会場が騒がしい。後に、この野音の騒ぎはキャロルのラストライブだったのを知ることとなる。

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