難聴の娘のために父親が開発した“学習支援アプリ”の成り立ちを田中陽南がレポート

TOKYO MX(地上波9ch)朝の報道・情報生番組「堀潤モーニングFLAG」(毎週月~金曜7:00~)。「フラトピ!」のコーナーでは、難聴児のための“学習支援アプリ”をキャスターの田中陽南が取材しました。

◆難聴の娘のために開発したアプリ「Vocagraphy!」

耳が不自由な子どもは、他の子どもに比べて、言葉などの学習が難しいとされています。そんな中、難聴の娘のために学習用のアプリを作成した、東京在住の吉岡さんに話を伺いました。

吉岡さんの次女は、生後すぐの検査では聴覚機能に問題はないと診断されたものの、3歳になっても言葉を発することがなかったそう。心配になった吉岡さんはインターネット上で論文を探すなどして調べてみたほか、多くの病院・クリニックを駆けずり回るも原因は不明。そんななか、娘さんが4歳の頃に言語聴覚士から「オーディトリー・ニューロパシー」の症状があると指摘されました。

オーディトリー・ニューロパシーとは、音自体は聞こえるものの言語として明瞭に聞き取れない聴覚障害。一般的に、生後直後の子どもが難聴と聞くと悲しむ親が多いそうですが、吉岡さんは娘さんが難聴だとわかったことが、むしろ「嬉しかった」と当時の胸中を吐露。吉岡さんは「これでようやく前に進める。はっきり診断されたことで助かった」と振り返ります。

そして現在、娘さんがどうやって言葉を学習しているかといえば、楽しく言葉を覚えることができるアプリ「Vocagraphy!(ボキャグラフィー)」を利用。

当初、吉岡さんは家にあるものを写真に収め、自作の単語カードを使って言葉を教えていましたが、単語カードを作るには時間と手間がかかり、より多くの言葉を学習するには効率が悪かったと言います。

そこで吉岡さんが知り合いのアプリ会社と協力して開発したのがこの「Vocagraphy!」です。

これは覚えたいものをスマートフォンのカメラで撮影し、その名前と説明文を書き込むことで単語カードの代わりに。アプリなのでその場で単語カードを作成することができ、覚えられるのが大きな特徴です。

吉岡さんも「例えば、道端に猫じゃらしがあり、それを覚えさせようと思ったら、スマホで写真を撮り、アプリに読み込めば、いつでもどこでも教材が作れる」と場所や時間を選ばないところがメリットだと力説します。

◆難聴の子どもだけでなく、より多くの人が使えるものに

「Vocagraphy!」は現在無料公開されており、難聴児を持つ多くの家庭で活用中。そのひとりが、坂本さん親子。娘さんが1歳半の頃に難聴と診断され、現在はアプリを利用して言葉の学習をしているそう。

家の近所の川辺を散策しているときにも初めて見た花はカメラで撮影し、図鑑を参考に名前を入力。すると簡単に単語カードが完成します。また、見つけたものの名前だけでなく、その特徴を記録することでより多くの言葉が学習できると坂本さん。

改めて、このアプリの使い勝手について「その場で気になったものを写真に撮り、撮った写真と言葉を紐づけられるので、そのときのことを思い出しやすくなるし、面白さがある。いつも紙とペンを持っているわけじゃないので、その場で写真を撮って残していくことができるのは大変便利」とありがたみを語ります。実際、「Vocagraphy!」を使い始めてから学習の幅も広がったそうです。

吉岡さんは市販の教材で学習していたときに比べて、アプリでは自分が見たもので覚えられることで「頭にちゃんと定着していくということ」を利点として挙げます。

愛娘のために開発したこのアプリを、今後は難聴児だけでなく、より多くの人に使ってもらいたいと考えているという吉岡さん。実際、発達障害の子どもを持つ保護者から数多くの意見が寄せられており、失語症のリハビリをしている大人など、「そういう境遇にある方など、広く使ってほしい」とさらなる広がりを期待していました。

◆難聴の子どもだけでなく、より多くの人が使えるものに

こうした吉岡さんの取り組みに「素晴らしいですね」とキャスターの堀潤は拍手を贈ります。そして、「Vocagraphy!」をインストールし「本当にシンプル。簡単に使えそうでいい」と感想を口にします。

インスタメディア「NO YOUTH NO JAPAN」代表の能條桃子さんは「すごくいい」と絶賛し、「外国語を学ぶときにも使えるんじゃないか」と新たな使い方を提案。

アフリカの紛争問題を研究する東大院生の阿部将貴さんは、「聴覚が不自由な方は、環境適応が難しい」と言います。というのも、阿部さんの後輩に人工内耳を付けている方がおり、その人はオンライン授業の際にイヤホンが使えなかったり、コロナ禍ではみんなマスクを着用しているため口の動きがわからなかったりと、とにかく環境適用が困難。そうした現状に触れつつ、「こうした世代ごとのサポートがより加速していけば」と期待を寄せます。

再エネベンチャー Looop広報の坪井友里香さんは、難聴の方には言語習得をはじめとするさまざまな苦労があることに気づかされたようで「(課題解決できるものが)当事者発信で、アプリなどで気軽に開発できるようになるのはすごくいい」と話し、さらなる進化を望みます。

最後に能條さんは、「Vocagraphy!」同様、聴覚障害者に優しいアプリ「UDトーク」を紹介。これは話したことを文字に起こしてくれるもので、能條さん曰く、かなり正確。

コロナ禍になりオンラインイベントが増え、能條さんもさまざまなイベントに参加したり、主催したりするなかで、聴覚障害を持つ方から「自分にも聞けるようにしてほしい」との要望があったそう。ただ、毎回字幕をつけるのは大変だと悩んでいたところ、「UDトーク」の存在を知り実践。「簡単に使えるので自分たちからも何かできるんだと思って広まれば」と能條さん。

ちなみに、堀も実際に現場で「UDトーク」を活用したことがあると言い、「静かなコミュニケーションだがちゃんと通じ合える、すごくいい技術」と太鼓判を押していました。

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<番組概要>
番組名:堀潤モーニングFLAG
放送日時:毎週月~金曜 7:00~8:00 「エムキャス」でも同時配信
キャスター:堀潤(ジャーナリスト)、田中陽南(TOKYO MX)
番組Webサイト:https://s.mxtv.jp/variety/morning_flag/
番組Twitter:@morning_flag

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