ポルシェが感じる『LMDh先駆者』のメリットとデメリット。テストは“セミ・ハイブリッド”から開始

 ポルシェは現在のところ、LMDh車両でサーキットテストを行っている唯一のマニュファクチャラーであり、200kWを発揮する共通ハイブリッドシステムのマイレージを稼いでいる。そのポルシェのLMDhファクトリープログラムの責任者であるウルス・クラトレは、最初のメーカーとしてサーキットテストを進めることの長所と短所を「おそらくイーブン(互角)だろう」と見積もっている。

 2023年より、IMSAウェザーテック・スポーツカー選手権とWEC世界耐久選手権の最高峰カテゴリーに参入が可能となるLMDh規定。2023年に最大8台の投入を予定しているポルシェは、直近では4月中旬にスパ・フランコルシャンで3日間のテストを行ったが、ここではLMDhにタイヤを独占供給するミシュランのためのデータ収集もひとつの任務だった。

 クラトレは、ポルシェが最初にマシンを走らせたメーカーとなったことは、将来同じ規定でマシンを開発するライバルに対して、優位に立つことになると考えている。

 ただし同時に、初期のバグをポルシェが解決する役目を担っており、後にライバルがテストを開始する際にはそれらのバグが少なくなるであろうことを認識している。

「結論からいえば、おそらく(長所と短所は)イーブンだろう」とクラトレ。

「メリットもあるが、その一方で多大な努力も必要だ。たしかに我々は他のマニュファクチャラーに先駆けてトラックテストをしているが、彼らも(コース外での)さまざまな試験は行なっており、我々もそこから利益を得ている。だから、逆もまた然り、なのだ」

「IMSAとACOが主導してオープンにした、いい関係がそこにはある。以前には、それは普通のことではなかった。これまでの選手権では、ファクトリー同士がこういったことをするのは、あまりなかった」

「なかなか興味深いことだ。(開発に携わる)人々も最初は半信半疑で、『ハイブリッドのことを、これらの(ライバルの)人々には話さない』と言っていたよ」

 ポルシェはこれまでのLMDhサーキットテストにおいて、ふたつの立場から車両を確認している。ひとつは自社車両のシステムの検証を進めることであり、もうひとつはLMDhプラットフォームにおけるさまざまなパートナーが貴重な実戦データを蓄積するのを助けること、である。

 すべてのLMDh車両に搭載される共通ハイブリッドシステムは、バルセロナ、アラゴン、スパでこれまで行われたテストに先立ち、バイザッハのポルシェ開発施設でのプライベートテストの際に、段階を追って搭載された。

「一番最初のロールアウトでは、すべてのコンポーネンツを搭載していない、セミ・ハイブリッドの状態だった」とクラトレは明かす。

「それは我々にとって重要だった。なぜなら、このクルマにはハイブリッドだけではなく、他のコンポーネントも搭載しているからだ。2回目のテストはハイブリッドシステムを搭載して行い、その後徐々に機能を増やしていった。バイザッハでもすでにそうだったし、バルセロナでは間違いなく、フル・ハイブリッドカーになっていた」

「我々はパイロット・マニュファクチャラーであり、そこにはアドバンテージもある。だが仕事が多いのも事実であり、それは結局のところコストなのだ」

スペイン・バルセロナでテストを行うポルシェのLMDh車両

 ポルシェ・ペンスキー・モータースポーツのマネージング・ディレクターであるジョナサン・ディウグイドは、ポルシェのテストスケジュールの優位性は「大きい」としながらも、クラトル同様に、「他のブランドが恩恵を受けることになる」作業をしていることも認めている。

「問題やエラー、プログラミングの不備などを経験するたびに、我々は常に多くを学ぶことができている」とディウグイド。

「そこで最適化することを学ぶか、対応策やオペレーション・プロセスを見出すために学ぶか、どちらかになる。これは、チーム・ペンスキーにとって初めてのハイブリッド車なので、高電圧システムや、必要とされるトレーニングとセーフティ・プロトコルにも、初めて触れることになる」

「我々は他のプログラムにおいても、Xトラック社とは密接に協力してきたし、ポルシェはボッシュと密接な関係にある。ウイリアムズはハイブリッドバッテリーを供給している。サプライヤーとこれらの関係を築き上げることは、本当に重要なことだ」

「我々は他のメーカーが恩恵を受けるような、多くの投資を行なっている。ポルシェ・ペンスキー・モータースポーツが見つけた問題は、アキュラやキャデラック、その他のメーカーが恩恵を受けることになる」

「だが、実際に何が起きて、何が修正されたのかを理解できるという副次的なメリットも、我々にはある。システムが実際にどのように機能するかについては、我々はより賢くなることができるんだ」

■2シリーズでのホモロゲーション取得に向け「良好な状態」

 LMDhのルールを制定した側が、この規定における共通ハイブリッドシステムの開発をメーカー間でオープンにすることを奨励するアプローチをとっていることに対し、クラトレは納得しているという。

「アルピーヌは一歩遅れているが、他のすべてのLMDhマニュファクチャラーは、かなり長い期間、ダイナモ上でハイブリッド・コンポーネンツのテストをしてきた」とクラトレ。

「このプログラムの良いところは、IMSA、ACO、ハイブリッドパートナー、そしてXトラックの間に、オープンな関係があることだ」

「ダイナモテストのデータは、すべて共有されている。エアロマップやパフォーマンスに関連することは共有されていないが、ハイブリッド関連のコンポーネンツ開発に関しては、共有されている。これはいいことだと思う」

 ポルシェ・モータースポーツ責任者のトーマス・ローデンバッハは、同ブランドのLMDh開発プログラムはレースデビューを前にした目標達成に向けて「良好な状態」であると考えている。

 名称未発表のLMDh車両は、2022年後半にウインドシア社での風洞試験やアメリカでの公認サーキットテストなどのホモロゲーションプロセスを経て、IMSAへの参戦認可を受ける予定だ。

 また、WECへのデビューは1月のデイトナでのIMSA開幕戦参戦の数カ月後と予想されるが、その前にザウバーで欧州における風洞試験を受けることになる。

「時間的な制約により、ある種のプレッシャーはあるが、いまのところは良好な状態であると言える」とローデンバッハは言う。

「時間的に、その(ホモロゲーション)目標を達成できない理由は見当たらない。どのようなプログラムにもあるように、一定のプレッシャーは許容範囲だ。我々が恐れているような混乱からは、我々は遠い位置にいる。やるべきことはたくさんあるがね」

「クルマはきちんと走っている。さまざまなドライバーを送り込み、タイヤテストも行っている。我々が望んでいた場所には立っているのだ。もちろん、もっと前に進んでいればいいのは当たり前だが、他(のマニュファクチャラー)と比べても、我々はいい状況にある」

ポルシェLMDh車両が採用するV8ツインターボエンジン

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